6-22
「ソイから本物、欲しいけど!
そうじゃなくて、ケイオンプロジェクト、中止になってないんでしょ?
あたしだって自分の業務をしたいわ。ここからでもできることってあるのよ」
「どうして中止になっていないと思うのか、教えてくれないか。
実は我々はまだ君の会社からの回答待ちの状態でね。
あのプロジェクトの状況については、YesともNoとも答えられないのが現状なんだ」
はっ。と息をのみ込んだリッコだ。
明らかに失策だったと言った後で気付くことは多々ある。
しかしそれも仕方ないことだった。
無念さを抱えてうつむいて呟く彼女の眉尻が下がっていた。
「水鏡の魔法を使って、職場のみんなと話をしたの──中継はナナカがしてくれて」
禁じられていなかったとはいえ、待遇の良さに甘えて、制限されてしかるべき遠距離通話型の魔法を使ってしまった。
それも何回もだ。
さすがに気分を害されたかと、リッコがこわごわ目線を上げると、いつもの通り穏やかな面持ちで話の先を促された。
リッコは少しだけ勇気づけられて暴露話を続ける。
* * *
最初に水鏡の魔法を中継した時、ナナカはリッコの職場に来ていた。オードも一緒だ。
水を溜めておける口の広い入れ物を所望したら、バケツしか思いつかないと言われて、掃除用具室からバケツを持ってきて水を張った。
部屋は小さめの会議室だ。
魔法使いコンビの他に、リッコ誘拐に対処するグループの責任者として任命されたジェスタと、彼が呼び出したハヤタとが集まってきていた。
水鏡は声を伝えることができないので映像の上に字幕を載せてのやり取りになる。
時差の都合で極東では午後二時でも中央北では午前六時。
まだ日が昇る前のはずで、精霊の試みをするには早すぎる時間帯だった。
起きていないのではないかと心配するジェスタとハヤタの横で、確信めいたものを抱きながらナナカとオードが水鏡の準備を進める。
寝ていておかしくない時間だが、きっと呼び出し音に反応する。
三分の一くらいまで水を張ってあるバケツを囲んで四人が水面をのぞき込む。
ナナカが呪文を唱えるとガラスのグラスをガラスのマドラーで叩くような音が聞こえ、寝癖が跳ねているリッコがバケツの水面に映し出された。
『良かった。連絡を取りたいとずっと思っていたのよ』
字幕が流れていく。
皆がリッコの無事をこの目で確かめようと場所を取り合っていたが、どうやら取り越し苦労だったようだと、安心してそれぞれの立ち位置へ戻っていった。
『ねえ、それで。プロジェクトの今後は?
あたしこれからどうすれば良い?
そもそも、魔法協会からはなんて言ってきたの?』
「ああ……『貴方たちの大切な社員を預かっている』それが第一声だったな」
リッコの質問に答えたのはジェスタだ。
彼はかなりくたびれている様子だったが、元気なリッコの顔を見て、少しだけ気を取り直せたようでもあった。
「本当に無事で良かったよ。いや、それがな?
交渉の前にお前と話をさせるように言ったんだが、丁重に扱っているから心配要らないの一点張りで。どう頼んでも頑なで──あれにはまったく弱った」
前髪ごと額を押さえて首を振るジェスタ。
その様子を水盤越しに見つめて申し訳なさそうに答えたのはリッコだ。




