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こらえ切れずソイが笑う。
それは悪びれない笑いではあったが、リッコはふてくされて目を水平にした。
「呪文なんてそんなにかんたんじゃないのよっ」
「残念だがメモを読んでは魔法は発動しないんだ」
「それはいいの。
繰り返し書いて読んで、それで暗記するのよ」
「そうか。それなら──荷物の中に筆記用具は入っているかい?
なければ用意させるよ」
「ええ、入ってるわ。今持ってくる。ありがとねソイ」
* * *
リッコがソイから教えられた内容は彼女にとっては納得のいくものだった。
呪文も歌のような抑揚を大切にしつつ、意味を原詩に近付けると、成立するようになった。
魔法が発動するようになったのだ。
だが風の便りの魔法は制限された。
ナナカたちに連絡を取られたら困るためだとソイは言った。
そのためリッコは概ね水の魔法を練習していた。
「降れよ降れ降れ 清らの水よ 我らの前に呼ぶは雨音
降れよ降れ降れ 清らの水よ 我らとともに遊ぶはささめき」
庭までならメイド同伴の条件付きで出てもよいことになっている。
ソイには屋外に出ることを渋られたがこもりきりでは身体に悪い。
それに外でなければ使いづらい魔法もある。
リッコは散々甘え倒してソイに外出許可をもらったのだ。
そのかいあってかリッコは、キックオフの時にオードが実演していた、狭い範囲に雨を降らせる魔法は既に杖なしでも使えるようになった。
付き添いに来ていたメイドが小さく拍手して笑みを見せてくる。
「──、リッコ。○○△△!」
どうやらほめてくれているらしい。
リッコはぎこちない顔で『サンクス?』とだけ言ってみた。さっぱり分かっていないが。
そこへやって来たのは面白そうに笑うソイだ。
「君が信じられないくらい上達していてうれしいと言っているんだよリッコちゃん」
「ソイ……そしたら伝えて。『あなたのおかげ』って」
「自分で言ってごらん?
『It's all thanks to you.』とね」
リッコが思いきり極東なまりで復唱すると、それでも通じたらしく言われたメイドは上機嫌になったのだった。
上機嫌になったのはメイドだけではない。
ソイも大層うれしそうにリッコのそばに立った。
そして言うのだ。
「もう雨呼びの魔法は杖がなくても完璧だね。
次は何が良いかな。
そう言えば水は呼べるのに光を扱えないと言っていた。
その辺りを攻めてみようか」
ソイが身振りでメイドに屋内へ戻るように告げる。
丁寧にお辞儀をしてから去っていくメイドを見送ってから、庭に残った二人は互いに正面へ向き直った。
「あたしって、光だけじゃなくて冷気も扱えるはずなんでしょ?
それなら冷気に的を絞って練習したほうがお互いにやりやすいんじゃないかしら」
「うん? ──ああ、私が風属性で暖気と冷気を扱えるから配慮してくれているのか。
ありがとう。でも心配いらないよ。
私はすべての属性の魔法を媒体なしで使えるからね」
穏やかに笑ってソイが短い髪をかき上げる。
リッコは言われたことを反芻してから念のために言い換えて確認した。
「ええと──杖とか要らないでってこと?」
「そうだよ。ナナカや彼女の弟子は、まだ杖なしでは別属性の魔法は使えないのだろう?
けれども魔力が強くなって技術も上がってくると杖や本、後は宝飾品などだね。
そういったものは必要なくなるんだ」




