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「ちょっと違うかもしれないけど、あたしならこうだわ」
リッコは緩めた手を握り直して、目を閉じた。
イメージはシャワーを浴びて腕から手へと落ちてくる湯。
それを、そう、たとえば空いたシャンプーのボトルに注ぎ込むような。
そんな感覚だ。
魔力のやり取りをしている間、手のひらから伝わってくるものは、定期的に打ち付けるようで、彼女もよく知る何かに似ていた。
「面白いわね、これ。
流れにテンポがあって、握手した相手に流し込むと反響が返ってくるわ」
「うん。はは……やはり君は勘がいいね。
そうか水属性だから余計なんだ。
そのテンポは、心臓の鼓動に似ていないかい?」
「ああ! そうよ! そんな感じだわ!」
「そのテンポが安定していればいるほど、回路も整っているということなんだ」
それからソイはリッコに説明した。
回路には魔力も精霊力も流せるが、一度に通せるのはどちらか片方だけだということ。
試みでは、左の踵から外に出した魔力も、左のこめかみから出した精霊力も、必要以上に追いかけず好きにさせるのが肝要なのだということ。
ただし目的を持って扱う魔法を発動させる場合はその限りではなく、できる限り鮮明なイメージを与えて何をすべきなのか知覚させるのが魔法使いの仕事だと。
「まるで魔力や精霊力に心があるみたいな言い方ね」
「その方が君には分かりやすいと思うよ。リッコちゃん?」
「ふーん……ねえソイ。
さっそくやり直してみたいわ風の便り。いい?」
「待ちたまえ。問題点の二点目が残っている」
ココアを飲み干して椅子から立ち上がったリッコへ、のんびりと片手を上げて制してくるソイ。
カップをサイドテーブルに置いてソイのそばへ移動すると、リッコは彼の椅子をゆらゆらと揺らした。
「もー、ソイ焦らし過ぎ!」
「はは。怒らない怒らない。これも大切なことなんだ」
「何なの二つ目」
「呪文のことだ」
彼も空にしたカップをリッコが置いたそれの隣に置いてから、椅子に深く腰かけ直した。
またリッコが彼の椅子を揺らす。今度は眠りでも誘うかにゆったりと。
ソイが小さく笑った。
「呪文は意味と韻律の両方が重要なんだ。
母語が西洋語じゃない君にはハンデになってしまうが、意味だけでなくリズムも合わせるようにしてごらん」
「なんか難しいわね……例えば?」
「さっき君が行っていた水精の試みの呪文とかもそうだね。
『巡れ、流れ、水の精霊よ』そう言っていた」
「違うの?」
「意味的にもリズム的にも、原文に近いのは『巡れ、満ちよ、水の精霊よ』かな。
明日の朝にでも試してごらん」
「やだ待ちきれない! 早く明日にならないかしら」
「待ち切れないかもしれないが、夜はきちんと寝たまえよ」
「大丈夫。枕が変わってもぐっすりよ。
……ねえでも、寝るのも魔法使いには大事?」
「もちろんさ。脳を健康に保つのが第一だよ。
そのためにはたっぷりと寝なければね」
ソイが椅子から立ち上がる。
そのまま窓辺へ歩み寄った。
彼は窓をわずかに開けてそこに立ったままリッコを促す。
「さあ、やってごらん。
呪文は『運べ声、届け想い、風と遊び、彼の人の耳元へまで』」
「え〜と……運べ声、届け想い、風と……ええと……?
メモ取りたいわ」
「リッコちゃん! まだ短いほうだよ!」




