6-17
ん。もう!
彼女は椅子に深く腰かけ直して、ゆらゆらと揺れた。
だいぶ温くなってきたココアを大切に一口。
火の舌が黒い炭を舐めていく暖炉を見つめて、深く長い息を吐き出した。
「ひとつ目は、魔法を動かすエネルギーには二種類あることを明確に立て分けていない点だね。
何のことか分かるかい」
「魔法のエネルギー……魔力じゃないの?」
「ひとつはね。魔力さ。
ただ君が召喚の際に使わなければならない力はそちらじゃない。
精霊力と言って、まったくの別物なのさ」
「え?」
魔法を使う時に扱う力は魔力一択と思っていたリッコだ。
ぽかんと口を開けた彼女を見つめても冷静なソイは一度カップを傾けた。
「風の便りという名前の魔法からも分かるが、今、使うべきなのは魔力と精霊力だ。
だが君はさっき、すさまじい量の魔力を発して風の精霊を外側から抑え付けようとしていた。
それではうまく働かない。精霊が散っていくか、下手をすれば暴発するよ」
彼女はゆっくりと口を閉じた。
身に覚えがあったのだ。
体内から湧いてくるエネルギーを極限まで練ろうとしていた。
そうすることではじめて魔力として安定するのだと。
そして魔力が安定すれば、自然と魔法は使えるだろうと思っていた。
「あたし、てっきり……」
「これまでも同じことをしてきたのだろう?
大事故に繋がらなくて良かったね」
「これまでは精霊を呼べてなかっただけじゃないの?」
「さあ、どうだろうね。
ただひとつ確かなことは、君の体内に組み上げられた力の通り路──回路はとても良い状態を維持しているということだ。
毎日力を通していないとなかなかそうはならないよ。
もしかしたら君の回路が魔力で満たされていたから、精霊は入るのを遠慮してくれたのかもしれないね」
彼女はソイの話を聞きながら思い出す。
そう言えばオードも似たようなことを言っていた。
毎日練習しているのだ。少しは報われてくれないと困る。
「ねえ、ソイの回路もいい感じ?」
「もちろんさ。私も現役の魔法使いだよ?
私の場合は就寝前に試みをしているんだ。
魔力と精霊力とを一日交代でね」
ソイは椅子から立ち上がってカップをサイドテーブルに置き、リッコのそばまで歩み寄った。
そして右手を握手を求める形で差し出した。
「魔力持ちが握手したら素人でも分かる。
君の魔力を私に注いでごらん」
「ん……」
リッコは自分は座ったまま、両手で持っていたカップを左手に持ち、空いた右手でソイの手を握る。
「注ぐってどうするの?」
「体内にあるものが手のひらから外へ流れ出すイメージだね。
深く考えないで──ほら、こんな風に」
「あ、ん」
それは冬の空気に凍えた身体を風呂でじんわりと温めた時のようでもあり、夏の暑さにうだる頭を氷枕でひんやりと冷ました時のようでもあった。




