6-12
今度は彼女のほうが笑った。
「化粧って落ちないわよ、ごめんね?」
「いいさ。君が笑ってくれるなら安いものだ」
「へえ。なんか口説き文句を聞いてるみたい。
こういう時、うまい返しがすぐに思い付けばカッコいいんだけどね」
「特に上手くなくても良いと思うけどね。
私だって取り立てて上手いことは言っていないよ。
さて、それじゃ朝食にしようか。
ハムかウインナーかベーコン、どれが良いかな?」
「あたし! カリカリに焼いたベーコンが食べたいわ」
リッコは顔を洗って部屋を出た。
もう化粧はあきらめた。
食堂に続く廊下をふたりで歩く。
途中で昨日紹介されたメイドや執事にあいさつされた。
まだ名前は覚えていないが、この屋敷で働いていることへの誇らしさが折目正しい態度から滲み出ている人々だった。
ふたりが食堂までたどり着くと、ソイはすぐに戻るから待っているように告げて一旦退室した。
大きなテーブルに椅子が全部で八脚。
執事がその内のひとつを引いてリッコを促した。
「どうぞリッコ様」
「あ、あ──と。ありがと……」
慣れない待遇にしゃちほこばって腰かける。
壁際に下がった執事と入れ替わりにウォーターピッチャーを手にしたメイドがやってきて、目の前のグラスに水を注いでくれた。
リッコは少し迷ったがそのメイドに声をかけることにした。




