62.『鉄壁令嬢』は、お城に戻ってのんびりする ①
さて、思う存分国内を動き回り、好き勝手している貴族の粛清などを淡々と行ったドゥニーはようやく帰還した。
一応、妃の一人としてこちらに赴いているはずなのだが、ドゥニーはどこまでも自由であり、こうして帰らないことも珍しくない。
加護により貞操の危機というものも、彼女には無縁である。そもそも加護がなかったとしても、無理強いをされそうになればすぐに反撃をするだろうが。
ドゥニーはそういう人間なのだ。
「楽しかったなぁ」
ドゥニーは嬉しそうな顔をして、ベッドに横になっている。
お出かけをしていた間は、当然のことながらお城にあるようなふかふかのベッドには眠ることは出来ない。野宿なども多かった。
ドゥニーは貴族の産まれであるが、自由人であり野宿なども慣れている。
『鉄壁』の加護を持つからこそ、昔からふらっと外に飛び出したりもよくやっていた。
それこそ令嬢には全く不必要であるサバイバルスキルも相当なものである。
『鉄壁』の加護とは、いついかなる時でも、生き延びることが出来る防御に振り切った力である。彼女は、どんな場所に赴いてもその命を失うことはない。
とはいえ侍女であるダニエスは、ドゥニーが戻ってこなかったらどうしようと心配していたので帰還にほっとした様子だった。
そう、ドゥニーは一人で、何処でも生きていける人間なのだ。それこそ周りの人々を全て置き去りにしてでも、周りを切り捨ててでも一人で生きていけるぐらいには。
この暮らしに不満があるのならば、すぐさまとんずらをかますことだって簡単だ。
尤もドゥニーの場合は帰ってこないのは、興味深いことがあったからというのが一番の要因だろうが。
「お嬢様の噂はこちらにも聞こえてきておりましたよ」
「あら、そうなの? そこまで派手に動いたつもりはないのだけど」
「いえ、十分派手に動いていますよ」
ドゥニーはただやりたいように動いただけである。それこそそこまで噂になるほどのことではないとは思っていた。
彼女はいつだって何か大事を起こそうと思って行動をしているわけではない。ただ、こうしたいと思ったままに動いているだけだ。
(この国、まだまだ探索し甲斐があるから次は何処に行こうか楽しみだわ。砂漠の国と言われるだけあって普通の人は探索をするのが難しいみたいだし)
灼熱の太陽が輝いていること。人の命を脅かすだけの暑さであること。それでいて危険な魔物が徘徊していること。
それらの理由が重なって、この国ではまだまだ人が踏み入れたことのない土地が多いらしい。
そのことはドゥニーも分かっている。それにドゥニーの祖国とは、環境などが全く違う。
だから、余計ドゥニーは見たことがない景色を沢山見れるかと、ワクワクしていた。
「次は何処にいこうかな」
「お嬢様、少しはゆっくりなさってください。探検をするのが楽しいのは分かりますけれど、お嬢様は一応、こちらに嫁いできたという形なのですから」
「それもそうかぁ。じゃあ少しのんびりしようかな? それか私と戦いたいって人を集めて遊ぶのもあり?」
「……それ、のんびりしています?」
ダニエスは呆れた様子を見せて、そう言った。
ドゥニーは相変わらず、好奇心旺盛で、楽しく生きることが好きである。ただ貴族令嬢として過ごすことも、楽しんではいる。
(久しぶりに大人しくしておこうかな。パーティーとかに参加したりするのもあり? 全然パーティーにも参加していないもの。そういうのも久しぶりに参加したら面白いことがあるかも?)
ドゥニーはこの国に来てから、パーティーなどには全然参加していない。それだけ彼女が自由にさせてもらっている証だった。
「よしっ、ちょっと王様にパーティーなどやる予定あるか聞いてみることにするわ。この国のパーティーって、ピレオラ王国とは全く違うのかしら?」
ドゥニーがパーティーに出たい、と話題を出したことはダニエスを驚かせた。
なんせ、このお嬢様、この国に来てからそれはもう好き勝手過ごしていた。貴族として産まれたことを忘れたのか? と思うほどに、特に何の制限もされずにお出かけしたりしていたのだ。
「お嬢様、パーティーに参加するつもりあったのですね。ピレオラ王国でのパーティーがあんな風だったので、トラウマになっているのかと思っておりました」
「あんなこと?」
「……婚約破棄ですよ。それでこちらに来ることになったでしょう?」
ドゥニーは元気そうに見えても、実は傷ついていたのではと少しはダニエスも思っていた。
ただドゥニーはそもそも婚約破棄のことなど、そこまで気にしていないらしい。
「そんなこと気にしていないわ。こちらに来てからパーティーに参加していなかったのは、ただ楽しいことがありすぎてそちらにまで気が回らなかっただけよ」
ドゥニーはダニエスの言葉にそう答えるのだった。




