63.『鉄壁令嬢』は、お城に戻ってのんびりする ②
ドゥニーがパーティーに参加しようとしている、ということはすぐさま国内の貴族には広まったらしい。
噂の『鉄壁令嬢』を一目見ようと、普段はパーティーへそこまで参加しない家門も、参加しようとしだしているらしい。
『鉄壁令嬢』とは、それだけ注目を浴びている存在だ。
ドゥニーは自由気ままに外に出ているので、その力を目撃したものは「加護持ちはこんなにも凄い存在なんだ」と実感している。ただし、実際にその力を向けられていない者はその見た目でやはり侮るのだ。
どれだけ彼女の行動が噂になっていたとしても。
ドゥニーのドレス費用は、サデンの国で出されることになっている。
実情は全く伴わないものの、一応ドゥニーは妃の一員という身分ではある。それにこれまで彼女がこの国で起こしたことは国にとっても利になることばかりだった。
だからこそドレスやアクセサリーなどの費用ぐらい問題はないのだ。
そもそも国がその費用を持たなかったらそれはそれで、彼女は自分で稼ぐだけだが。
幾らでも戦う力のあるドゥニーは、魔物討伐も解体もお手のものである。というか、貴族令嬢などという身分がなくても彼女は何処でも生きていける。
商会が呼ばれ、ドレスの用意をしてもらう際にドゥニーもその場に赴いた。
商人は、ドゥニーが『鉄壁令嬢』と呼ばれる加護持ちだとは当然知っているらしい。それでもやはりその愛らしい様に驚いた様子だった。
薄緑色の髪に、赤い瞳。小動物を思わせる愛らしい笑み。それでいて無邪気な様子を見せており、全く以って強者には見えない。
ただし商人は、『鉄壁令嬢』の噂を知っているからかきちんとした対応をしていた。彼女を侮るようなことはしない。
尤も商人の中でもドゥニーのような、王に顧みられない妃を放っておいても構わないと思っているものもいそうだが。
確かにドゥニーは放っておかれはいるが、それは『鉄壁』の加護によるものだ。
その加護は、妃としての役割をこなすことを想定しないものだ。もし仮に加護がなければ、ドゥニーは好奇心旺盛なので別にそういった役割を全うすることは気にしなかったかもしれない。
ただまぁ、そう言う意味で侮られてもドゥニーは気にしないが。
「ドゥニー様は、どういったドレスがよろしいですか?」
「んー。どうしようかなぁ。じゃあ、私の瞳の色で。この国だと熱いから涼し気な衣装が主流だよね?」
「そうですね。我が国は砂漠の国なので、ドゥニー様の祖国のような厚着はしないかと」
「私に似合うものにしてくれたらそれでいいわ。あ、でも動きやすい方がいいかも? 興味があることあったら、パーティーも飛び出しちゃう気がするし」
「飛び出す?」
「ええ。だって私がこの国で初めて参加するパーティーってことで色んな人が来るでしょう? だから私に接触してくる人もきっと多いと思うのよ」
ドゥニーはそう言いながらも、何処までも楽し気だ。
何か思惑を持って近づいてくる存在が居ても、それはそれで構わないと思っているのだろう。寧ろ現れたらそれはそれで楽しいとも感じていそうだ。
「……パ、パーティーで何か騒ぎでも起こす気で?」
「あら、私自身は起こさないわ。向こうが何かした時だけ対応するだけだもの。それにパーティーで何か起こす存在ってなると、王様やこの国に仇を成す存在かもしれないでしょ? そういうのはね、徹底的にどうにかするのが一番なんだよ?」
「そ、そうですか」
ドゥニーが笑顔で言った言葉に、対峙している商人は何処か顔色が悪くなっていた。
その力が自身に向けられるわけでなくても、やはり恐怖心は感じてしまうのだろう。
商人は、「『鉄壁令嬢』がサテンの国の敵に回らなくて良かった」とそう思ってならなかった。
『鉄壁令嬢』はやろうと思えば、国一つ落とすぐらいたやすいのである。それこそどれだけ敵が多かろうとも、彼女は基本的には傷つけられることはないのだから無敵の人である。
「あなたも、何かパーティーでよからぬことをしようとしている人達の情報が集まったら私に教えてね。そしたら、王様に報告も出来るから」
「は、はい。もちろんです。えっと、ところで、アクセサリーなどはどうなさいますか?」
「んー、動くのに邪魔にならないのがいいかな。あとはドレスにあうものを選んでくれたらいいよ。そういえば今回のパーティーって他国の人もくるんだっけ?」
「では、アクセサリーもこちらでご用意しておきます。パーティーには、周辺諸国の一部の方々はいらっしゃるはずですよ」
「そうなのね。面白い情報が手に入ったらいいけれど」
ドゥニーはそう言って嬉しそうな顔をしていた。
……なんだかそのまま他国の情報で興味を惹かれるものがあれば、そのまま飛び出していきそうな予感がして商人は少しだけ心配になるのだった。




