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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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春の訪れ、修行する者

 冬が明け、幻想郷に春が訪れた。

 私は以前から予定していた修行をするために無縁塚を訪れていた。

 此処は亡くなった外来人が雑に埋葬された共同墓地でも有るけど、最も結界が緩く危険地帯化してる場所だ。

 ここなら誰にも邪魔されず精神修行ができる。

 

「よし! 始めるとしますか」


 私は前座を組んで、意識を精神に向けた。

 そこから徐々に全身の霊力を発し、身体を少しずつゆっくりと浮かせる。

 全身を包むこの浮遊感があの時を思い出して恐くなる。

 身体が恐怖とトラウマから硬直するのを感じて、でも此処で止めたら意味がない。

 だから私は意地でそのまま身体を浮かせた。

 

「うっ」


 身体が木を越えるぐらいの高さまで浮いた頃……頭の中にかつてのトラウマが呼び起こされる。

 目玉だらけの不気味な空間、気が付いたら幻想郷の空。

 落ちる私の身体、近付く地面と恐怖。

 ……幸いな事に私の身体は、霧の湖に落ちたから落下死は逃れたけど。


「……っ」


 霊力の制御を謝れば落ちる。

 恐怖心からそんな弱気な思考が頭に遮る。

 私は一度地面に降りて、滲む汗を拭った。


「……ふぅ。荒療治が必要なのは分かってるけど」


 春の健康診断。その時に永琳先生に相談してみよう。

 続けて私が精神修行に戻ると瞑想を始めると。


「あら、こんな所で修行だなんて無謀ですわね」


 背後から聞こえた声に振り向くと、私の全身が硬直した。

 スキマと呼ばれる不気味な空間から上半身だけを出した……妖怪の賢者八雲紫さんが居た。

 彼女とは時たま博麗神社ですれ違うことは有るけど……や、そもそも私のトラウマの原因なんだよねぇ。


「精神修行ですよ」


 少し尖った口調で話すと紫さんは不思議そうにきょとんと。


「半妖は精神にも強いと思っていたけれど、そうでも無いのかしら?」


「幼少の頃に体験した恐怖は、いくら半妖でも精神に刻まれるものですよ」


「ふふっ、随分と根に持つのですね」


 彼女に悪気は無い。胡散臭い人だけど、直接人里の人間に危害を及ぼす事も無いのは私も理解してる。

 だけど、まさか寝惚けて落とされたんじゃ責めるにも責められないよ。


「まぁ、正直に言えばそこまででも無いです」


「あら、それは良かったですわ……ところで」


 紫さんが纏う空気が一変した!?

 あー、これは私が地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 そんな事を春の陽気に当てられながら思っていると、私の身体はスキマに落とされた。


 ▽ ▽ ▽


 不気味な目玉だらけ、なんか色んな物が浮かぶ空間で私は紫さんと対面していた。

 相変わらず怖い空間だなぁ。でも此処で怖気付いても仕方ないわ。

 

「わざわざスキマ空間に落とさなくていいじゃないですか。それとも聞かれて不都合な話でも有るんですか?」

 

「怯えて泣くかと思ったけど、案外精神面は強いのね」


「威圧感は感じますけど、殺意とかそういうのは感じられませんので」


 そう感じた事を素直に伝えると、紫さんは垢抜けしたような表情を浮かべ、次第に面白くないと言いたげにため息を吐いた。


「素直過ぎて面白くない子ね。……貴女は霊夢と親しいようだからね、抹殺したら私が霊夢にしばかれるでしょう?」


「それとも私が手を出せないように霊夢に近付いたのかしら?」


 私が打算ありきで霊夢さんに近付いた? そう思われるのは心外だしむかつく。


「霊夢さんとは参拝を続けてる内に、自然に打ち解けただけですよ。妖怪みたいに回りくどいやり方は必要もないもん」


「……そう、霊夢が貴女と仲良くなるのが意外だったわ」


 紫さんから見たらそんなもんなのかもしれない。

 確かに霊夢さんは修行時代とか紅霧異変の時何かは他人を寄せ付けない、というか無関心だったからそう思われてもしょうがないかも。


「意外と寂しいとか感じる時もあるんじゃないんですかね」


「霊夢は巫女ですわ、幻想郷の秩序を守る」


「巫女以前に霊夢さんは女の子ですよ。ふとした時、楽しい宴会が終わった後に訪れる静けさは寂しくなりませんか?」


「……そうね。静寂は当たり前に訪れるものだけれど、時に寂しいと感じるのが人間ですわね」


 そういえば紫さんは霊夢さんの保護者なのかな?

 なんだか、子を心配してるお母さんに見えなくもない。

 こんな事は口が裂けても言えないけどね。


「いま、霊夢の保護者と思っていたわね」


「……そ、そんなこと無いですよー」


「嘘の吐き方も覚えなさい。幻想郷を渡り歩くうえで必要な処方術ですわ」


 嘘は苦手なんだけどなぁ。伝える必要が無い情報は隠したりするけど。


「ぜ、善処します」


 そういえば、紫さんはわざわざそんな世間話をするために私をスキマに落としたのかな?


「ところでいつになったら出られるんですか?」


「まだ私の要件は終わってませんわ、むしろ本題にすら入っていません」


 紫さんは扇子を広げ、口元を隠しながらそんな事を。

 長い世間話にも感じたけど、どうにもスキマの中は体感時間が狂うなぁ。


「……冬に現れたという外来人に付いてですわ」


「冬? もしかしてメリーさんのこと?」


「えぇ、彼女に会ったそうですわね」


 メリーさんは紫さんが気にするほどの人物ということなのかな。

 確かに非常に似てるけど、でもこうして対面して判った。

 似てるようで全然似てないわ。


「そうですけど、メリーさんを見付けて抹殺でもする気ですか?」


「確かに簡単な手段ですわね……ただ、それをする必要も無いのです」


 つまりメリーさんを消す事はしないってことか。

 

「じゃあ如何して気にしてるんですか?」


「自分のそっくりさんは気になるでしょう?」


「確かに目の前にそっくりさんが現れたら気になりますね」


 話しの論点をずらされた気がするけど、


「でもメリーさんは紫さんとは違いますよ」


「あら、如何してそう思うのかしら」


「メリーさんは胡散臭くないからですよ」


 はっきりと素直に伝えると、紫さんは苦笑を浮かべていた。


「そこまではっきりと言われると傷付くわぁ〜」


 紫さんがメリーさんを気にしてる理由は、彼女の能力が貴女の能力に近付いてるからじゃないですか?

 なんて地雷を口が裂けても言えるわけがない。

 

「貴女は人間寄りの思考をしていたわね」


「精神が未熟ですから、満月の夜は妖怪寄りの思考になりますけど」


「それも今の内ですわ。あの子がまた迷い込んだら貴女は保護するのでしょうね」


 遠回しに保護しろ、護れと念を押されてるような気がしてならないけど。

 やっぱり妖怪は素直じゃないなぁ。

 メリーさんが気になるならはっきりとそう言えば良いのに。

 まぁ、それが永く生きた大妖怪には難しい初心なのかもしれないけど。

 

「私は自警団ですからね、言われずともメリーさんを保護しますよ」


「あら? 私は誰もメリーとは言ってませんわ」


「そうですか? なら私の独り言ですね」


「えぇ、未熟な半妖の独り言ですわ」


 それはそれとして、話はもう終わりなのかな?


「話しが終わりなら私を元の場所に戻して欲しいんですけど」


「なぜ貴女は修行するのかしら?」


 今更そんなこと質問されても。

 

「精神の安定とトラウマ克服のためですよ。そろそろ私も満月の夜に隠れ続けるのも飽きてきたところなので」


「変化した貴女を見た者は、今の所私と阿求だけですわね」


 あー、この人はスキマで覗いてたのかな。

 やだなぁ、プライバシーも何もないじゃんか。


「……私の変化は紫さんから見ても取るに足らない、むしろ興味無いと思ってましたけど」


「偶然、あの密談を覗いただけですわ。えぇ、本当に偶然ですわ」


 紫さんの語る偶然は作為的な偶然だ。

 そもそも何処でも覗けるスキマが在るんだから、それを偶然と語るのはどうなのかなぁ。


「いいですけど、そろそろ帰してくださいよ」


「……えぇ、いいですわよ。少し貴女に修行を付けて差し上げますわ」


 やっと外に出られ……おや? いま紫さんはなんと言ったのかな?

 

「わーい、外に出られる。も、持って来たお団子で一腹しよかなぁ」


「あら、そんなに嬉しいのですね。私との修行が」


 ……現実逃避させる暇も与えないだ、と!?

 いえ、考えようなよってはこれは私の身になるチャンスじゃない。

 

「じゃあ、外に出たらお茶でもどうです?」


 そう言った瞬間、私と紫さんは無縁塚に戻っていた。

 そして紫さんはスキマに腰かけて、


「今日の甘味はなにかしら?」


 微笑んでいた。

 どんな大妖怪も甘味には叶わないってことなのかな?

 それから私は一週間の間紫さんにみっちりと鍛えられ……新しい拘束術や弾幕を修得するに至った。

 生憎と空はまだ飛べないけど、紫さんと対話することで少しだけが過去のトラウマを克服をできたようだ。

 具体的には高所で過呼吸と身体が震え震え無くなったのだ。

 これは私なりの小さな進歩なのかもしれない。

 次の満月は先輩を月見酒に誘いたい、ううん、絶対に誘う。

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