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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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殺人事件?〜犯人はアイツ〜

 わたしは地霊殿の主古明地さとり。

 こいしに会いに行こうとして人里を通ったら、突然自警団の小兎姫に事件現場に連行されてしまった。

 現場に残された容疑者の心を読めば犯人は一目瞭然なのだけど、まずは一人一人の心を読んでみようかしら。

 ほら、腹の内に何か抱えてるかもしれないし。あと最終手段として被害者の残留思念も読み取れば事件は晴れて解決するわ。

 わたしは最初に頭を悩ませる朧絢音の心にサードアイを向ける。

 この子は確か、こいしが土産話に話していた友人だとか。あの子の友達の心を読むのも少し気が引けるけど、


(……犯人は誰だろう? そもそも血の臭いがしないから口元の付着物は血じゃない。じゃあ餅を喉に詰まらせた? でも発見から多少なりとも時間が経過してるのに体温は下がらないなぁ)


 事件に付いて彼女なりに推理してるようね。

 怪しい点も踏まえて被害者の交流関係も浮かべている。

 なるほど、そこに居る気が強そうな顔付きの吉永さんの心を覗いてみるか。


(あ、アイツが殺された? いったい誰に! ……いや、待てよ? アイツが死んだってことはあの子に告白するチャンスが到来したってことか)


 わー、恋のライバルが死んだことで一番得をしてるけど、彼は犯行に及んでいない。

 むしろ今日は自宅で意中の看板娘にどうやって告白するかあれこれ試行錯誤していた様子。

 それなら看板娘は如何だろう? 被害者は女性にモテるとも絢音の心が語っていた。

 ひょっとすると嫉妬に駆られて犯行に及んだのかもしれないわね。

 わたしは今度は看板娘の心を覗き込む。


(誰があの人を殺したの? ユルサイ、犯人をユルサイ、ハンニンヲコロシテ、ワタシモシヌ!)


 心が犯人に対する殺意で染まってるわね。

 わたしは未だ悩む絢音に近付いて、


「看板娘は犯人に非常に強い殺意を宿してるわ」


「それは危ないわね、犯人が!」


 そう言って絢音は真っ先に看板娘に駆け寄って、彼女にゆっくりと優しい声で語りかける。

 しばらく成り行きを見護ると、看板娘は絢音に落ち着くように論されたことで一先ず心に宿っていた殺意は鎮まった。

 問題は犯人が吉永さんでも看板娘でもなかったことだけど、何か証拠を掴んでるかもしれない小兎姫にサードアイを向ける。


(殺人事件起こらないかしら〜)


 目の前で起きてるけど!?

 でも、彼女の語る心は不自然だ。

 殺人事件を望んでいたとはいえ、実際に殺人事件が起こった状況下で小兎姫の心の声は比較的冷静。

 普通なら自分の待ち望んだ展開に心は弾むはずなのに。

 待って? これはそもそも殺人事件じゃないのかもしれない。

 血のような付着物はトマトケチャップ……? 被害者は餅にトマトケチャップをかけたと言うの!?

 まさか、いえ……犯人がそう見せかけるための罠の可能性も有る。

 わたしは最後の一人、第一発見者の若い男性の心を覗く。


(犯人は誰なんだろう? それにしても絢音さんは今日もかわいいなぁ、是非ともお近付きになりたいもんだ……って俺のドアホ! 殺人事件が起きてるのになんて不謹慎な事を!)


 こいつら頭恋愛脳なのかしら?

 犯人が誰なのか気にはしてるけど、被害者の心配は看板娘を除いて誰もしてない。

 絢音は何度か脈を測り直してるけど、死んでるという結論から仕方ないと諦めてる様子だし。

 そもそもここに居る容疑者の中に犯人が居ない可能性が高いわね。

 こうなれば残留思念の声を聴く他にない、第一早くこいしに会いたい。

 物騒な事件は早急に解決するべきなのよ。

 わたしはサードアイで残留思念に……おかしい、部屋に留まっている筈の残念思念が無い?

 じゃあこの死体は一体? わたしがサードアイを死体に向けると。


(どうしよぉぉ!! 珍しいトマトケチャップが手に入ったから物は試しにと餅に付けて食べたまではよかった! だけど、うっかり喉に詰まらせたちまって、何とか吐き出した頃にはこんな大騒ぎに!!)


  あ、生きてたよ。

 これは死にかけていたけど生きてて、起きるに起きられない状況で大変困ってるということなのね。

 はぁ〜、お騒がせな人間ね。


(でも起きるに起きられず、恥ずかしいから脈を止めて偽装もしたけどもぉぉ! あっ、自警団の二人組もいい匂いがして悪くなかった。って違う! そこの悟り妖怪さん! どうにかして場を終わらせてくれませんかね!)


 この人、わたしに心で語りかけて!

 居るのねこんな人間も。

 終わらせるのは簡単だけど、素直に起き上がればよかったものの。

 ふと事件の真相を詳細に把握していたと思われる人物にわたしはサードアイを傾けた。


(この時期は餅を喉に詰まらせる事故が多いわね。いざ大騒ぎになって恥ずかしくて起きれません! じゃあしょうもないわぁ〜)


 小兎姫の心はそう語っているけど、少し興味本意でわたしは深く心を覗き込んだ。


(まさか脈拍を弄って偽装するとはね。絢音も気付けないわけだわ、これはこれでいい判例が出来るわね。それはそうと、さとり? そろそろ事件を終わらせてあげたら?)


 真相に気付いてるなら自警団の貴女がやりなさいよ!

 わたしは心で叫ぶも、無駄だと判り重い口を開く。


「皆さん、お待たせしたわね。今回の事件に付いてだけど……これは事件ではなく事故よ」


「さとりさん、それじゃあ餅を喉に詰まらせたということ?」


「そう、不幸な事故……被害者は第一発見者が人を呼びに行った頃には意識を取り戻していたわ」


 わたしの言葉に小兎姫以外の全員の表情が驚愕に染まる。

 そうよね、そうなるわね。

 驚愕に染まった理由もそれまでの経緯を辿ると彼女達の反応は納得できるもの。

 

「生きてるのは嬉しいけど、脈は? 私が測った時は脈は止まってたよ」


「彼は脈拍を自身で弄ることで死んでいると誤認させたのよ!」


 私の指摘に絢音は、なるほどっと納得していた。

 素直でいい子じゃない。こいしに会えたら土産話に話してあげよ。


「……じゃあ私達は解散ってことでいいね!」


「あ、危ねえ! 本当に死んじまったかと! (なんだ死んでないのか、じゃあコイツと決着を付けない限りまだ告白は無理そうだな……チッ)」


「良かったわぁ!(お騒がせな人ね。人様に心配かけるなんて、後でお説教よ!)」


「お騒がせな人だなぁ(お騒がせな人だなぁ)」


 容疑者が解放した頃、小兎姫が笑みを浮かべてわたしの肩に手を置いた。

 なんでしょうか? 嫌な予感を感じるわね。


「いやぁ、名推理だったわよさとり」


「わたしは心の声を聴いただけよ」


「自警団で働いてみる気はないかしら〜」


 小兎姫の勧誘に視線を向けると、彼女の眼が離さないっと物語っていた!

 この程度で怖気付くわたしじゃないですよ。


「わたしは旧地獄の管理が有るのでお断りしますよ」


「えぇ〜、いい能力だと思ったのになぁ〜」


 変な人とは聴いていたけど、悟り妖怪の能力に恐れないなんて……本当に変な人。

 わたしが内心でそんな事を思っていると、


「ごめんね、さとりさん? こんな事に巻き込んじゃって」


「いえ、お陰でこいしにいい土産話ができたわ」


「そっか。こいしさんに会えるといいね(こいしさんによろしく伝えてもらえると助かるよ)」


 この子も悟り妖怪の扱い方を心得てるわね。

 わたしはその場から離れ、命蓮寺に足を運んだ……すると人のために役立ったお陰なのかは分からないけど、雪掻きに勤しむこいしと再会することができたのだ。

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