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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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朧月と月見酒、絢音と小兎姫

 朧雲に儚く隠された満月の下、私と先輩は自警団の詰所の屋根で盃を傾けていた。

 空に舞う桜の花弁、これは稗田家の庭から飛んで来たものかな?

 盃の酒を飲むと先輩が意外そうな表情で見てくる。

 それもそうか。妖怪に変化した私が突然現れて月見酒に誘ったんだ。先輩が意外に思うのも無理はない。


「……長い銀髪と冷たい瞳、絢音の変化は慧音よりも影響が大きいわね。それに身体の周囲に漂う朧雲は夏が快適そうだわぁ」


 違った、先輩は私の変化を楽しんでいた。

 

「じろじろと見られてもね」


「絢音の変化を堪能したいわぁ」


 なんていつもの口調で言われたけど、


「それじゃあ先輩を喰らおうかしら?」


 揶揄い気味に先輩の頬に手を添えた。すると先輩は何が面白いのかにやりと笑った。


「嘘だね。絢音は人を喰えない、そもそも朧妖怪は人喰いではないわ」


「あらら、驚かせるのは失敗ね」


「これでも絢音が姿を見せて月見酒に誘った時は十分驚いたわよ?」


 本当にそうだろうか? 何せ先輩は人と感覚がずれてる。

 だから彼女の驚愕は私の変化の方なのかもしれない。


「まさか絢音が紫と修行して帰って来て、満月の日に誘ってくるとは思わないじゃない」


 確かにそうかもしれない。

 私も当初は一人で幻想郷の何処か、静かな場所で月見酒を楽しむつもりだった。

 なのに気が付けば先輩の前に姿を現して誘ってた。

 精神的な余裕か、それとも退屈凌ぎなのかは自分でも今一つ判らない。


「紫と修行で余裕を持ったってことかしらね?」


「如何だろう? 少なくともスキマ空間では動じなくなったわ」


 スキマ内でひたすらに紫の弾幕を避け続ける耐久スペル、今も時折り思い出すけどよく走って避け切れたと思う。

 

「よく分からないけど、弾幕の楽しさと美しさは体験したようね」


「空を飛べれば本格的に弾幕デビューかな」


「その時は私が対戦相手一号になってあげるわ。先輩特権で」


 先輩が最初の対戦相手か。それも悪くないなぁ。

 私は頬を緩めて盃を片手に、


「先輩特権なら仕方ない」


「その為には空を飛ぶことから始めなさい。屋根の上に上がれたんだからもう少しよ」


「……いつか空を飛んで、朧雲のように幻想郷の空を流れてみたいなぁ」


「空から眺める幻想郷は美しいわよ、あの絶景は是非とも見なきゃ損するわ」


「確かにそれは損だ」


 そう考えれば私の人生は少し損をしてる。

 永い人生だけどなるべく損をせず楽しみたいものだ。

 ……隣に居る先輩もいつか寿命か何かしらの要因で死ぬだろう。

 

「先輩は……いや、何でもないよ」


 いずれ死に別れる。酒の席で話していい内容でも無いし、『置いていかないで』こんな事を口にすれば笑われてしまうのだろう。


「絢音は変化してもやっぱり絢音ね。素直で真面目、だけど案外寂しがり屋なところは変わらないわねぇ」


「そ、そんな事はない」


「そうかしら? まぁ、私の寿命が尽きるのはまだまだ先よ」


「そうね、随分先の話しだったわね」


 朧月を見上げ、肴に用意したたらの芽の天ぷらを口に運ぶ。

 程よい苦味が口に広がる。

 

「うん、これが美味しい」


 春の旬はほろ苦い物が多いけど、これはこれで美味い。

 誰かと食べるからというのも有るかもしれないけど。


「美味しいなら笑ったら如何かしら?」


「夜の私は笑うのが苦手なのよ」


「昼の絢音はすぐに頬が緩むのにねぇ〜……突然だけど此処に春限定の桜饅頭が有るわ」


「なっ!? 昼の私が買いに行って売り切れていた限定品を!?」


 売り切れてて大きく落胆したのは記憶に新しい。

 まさか先輩が買い占めていたというの?


「先輩、買い占めたの?」


「こんな事もあろうかと思って〜」


「そ、そう」


 先輩の行動は変化した私でも読めない。

 そもそも先輩の行動を正しく予測できるのだろうか?

 あの紫でさえ『小兎姫の行動? 無理ですわ、あれは災害のようなものですから』なんて災害認定する始末だ。

 大変失礼な会話を思い出しつつも、私が差出された桜饅頭を手に取ると真神が屋根の上に降り立った。


「甘い香り、包み込むような優しい匂いに釣られて来たのだが」


 真神が私に擦り寄って尻尾を振っていた。

 私は桜饅頭を皿に置いてから真神の頭を撫で、ついでにお腹を撫でまわす。

 

「ここ? ここが良いの?」


「お、おお〜。い、いや、それよりも我は桜饅頭なる甘味を……クゥゥン」


 威厳は何処に? それでも撫でるのは止めないけど。

 

「絢音が悪い笑顔を浮かべてるわねぇ〜。小悪魔みたいだわ」


「そんな事は無いわよ。……楽しいけど」


 正直悪戯が楽しく感じるなんて思わなかった。

 相手は神様だけど、ちゃんと桜饅頭を与えれば大丈夫かな。

 私はようやく撫でる手を止めて、桜饅頭を真神に差し出した。

 すると彼は一目散に桜饅頭をぱっくりと食べ、私の掌を舐め始めたのだ。

 ……神の威厳は何処へ行ったのか。

 それよりも擽ったい!


「おやおや? 絢音が悶絶してはわねぇ〜」


「む? 大変美味で有った、では我は戻るゆえ」


 そう言って真神は光と共に消えた。

 本当に単に桜饅頭を食べに来ただけなのね。

 今度は幻想郷の有名人をモデルにした饅頭でもお供えしようかしら?

 絵面的に怪しげな儀式とも思えなくないけど、夜の私的には全然アリだ。

 

「ふぅ、これでゆっくり味わえる」


 私はいよいよ桜饅頭にひと口齧り付く。

 白餡の甘さと桜の香りが口内に一瞬で広がる!

 季節限定の桜饅頭は毎年食べてるけど、毎年細やかな味の変化が有る!

 決して大きな変化という訳では無い、だけど砂糖と餡のバランスが絶妙に違うのだ!


「やっぱり絢音は変わらないわぁ〜妖怪に変化しようとも昼も夜も朧絢音よ」


「何言ってるの先輩? 私は朧絢音、当然じゃない?」

 

 桜饅頭の美味しさに先輩が何を言いたいのか理解できなかったけど、まぁこの甘味の前では些細な問題よね。

 私が桜饅頭に頬を緩めると、なぜか先輩に頭を撫でられた。

 

「つまり絢音は何があろうとも私の後輩ってことよ」


「そうね。私は何が起ころうとも先輩の後輩よ」


 そして私は桜饅頭を先輩に差し出した。

 甘味は誰かと共有してこそ最高の味に変わる。

 そこに人間も妖怪も神の境界なんて無い。それこそ半妖の変化と血の影響に一人で悩んでいたのが馬鹿らしく思えるほどだ。

 これからはもう少し私も踏み込んでも良いのかもしれない。

 先輩と見上げる朧月が照らす月明かり、桜の花弁舞う夜空を美しい一晩に誓って。


   ーー自警団の半妖少女・完ーー

 かなり急ぎ足で公開しましたが、これでなろう版とハーメルン版は完結です!

 たいあっぷで公開予定の1巻部分は描写を変えつつ素敵な挿絵を楽しんで頂ければ幸いです。

 もしも機会が有れば2巻から本作品で出さなかったエピソードや異変、また違った展開をご用意しておりますのでそちらも是非とも楽しみに待っててください。

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