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38話 冒険者ギルドの魔法訓練(2)



 水人形のあった場所には、生徒たちの水魔法と土魔法によって、泥の山が築かれていた。

 先生は、それを《(クレイド)》で薄く広げてならし、《(フレイド)》で水分を蒸発させて乾かし、3分ほどで復旧させる。


 それを見た僕は、フマに言う。


「生徒たちにやらせればいいんじゃない? 練習にもなるだろうし」

「あれは、簡単に見えて、地味に大変さ。時間があるなら生徒にやらせてもいいが、そうでないならあの女性がやるのが効率的さ」


 それから僕らは、防御魔法の講習に入る。

 かと思いきや、先生からストップがかかる。


「テノン、フマ、ニィナリアの3名は、既に習得しているため防御魔法の講習を受ける必要はありません。また、ケイは講習を受けても習得できないとのことなので、同様に受ける必要はありません」


 僕らは別行動を言い渡された。

 フマは、テノンの中級魔法を見るように言われ、僕とニィは見学、あるいは時間があればテノンと模擬戦をやってくれと言われた。


 他の生徒6名と先生は、訓練場の半分を使い、防御魔法の訓練を始める。

 防御魔法のイメージや、魔力配置の説明から入り、それから実戦練習へと移るのだそうだ。


 僕ら3人はテノンを引き連れて、訓練場の空いている場所へと移動する。


「俺はテノンだ。よろしく」


 茶髪少年テノンは、特に文句を言うでもなくあいさつをしてきた。


「オレはフマさ」

「私はニィナリア。ニィナでいいわ」


 2人がそれぞれ返す。おっと、ニィのときにテノンが顔を赤くしている。

 テノンがニィをじっと見つめるので、僕は邪魔をせねばなるまいと、わざわざテノンの目の前に移動してから彼に触れた。


「うわぁっ!?」


 テノンはびっくりし過ぎて尻もちをつく。

 ちょっとやりすぎたかもしれない。


「あ、ごめん、そこまでやるつもりはなかったんだ」


 僕は謝りながら、テノンに手を差し伸べる。


「……あ、お前が、ケイか」


 呟きながら、テノンは僕の手につかまり、起き上がる。


「うん。僕はケイ。ギフトのせいで、気付いてもらえないんだ」

「そうか、先生はお前と話していたのか」


 テノンは茶色の目で僕をじろじろ見ると、言う。


「本当にお前、魔力量少ないな」

「うん、色々と特殊な事情があってね」

「ケイの場合は全てが異常なんさ」


 フマがここぞとばかりに言う。否定できないところが悔しい。


「ところで、お前たちはなんでこの訓練を受けたんだ? フマも、……ニィナさんも、ケイも、受ける意味はなかっただろ?」


 ニィナさん、という呼び方にテノンの初々しさが見て取れる。

 意識されている当のニィは、そんなことお構いなしと、僕の手を握ってくる。

 それに気付いたテノンが、見るからに気落ちした。


「え、えっと、フマ、なんでだっけ?」


 いたたまれなくなった僕は、テノンの視線をフマに移すべく、フマに話を振る。


「ケイに基本4属性魔法を学ばせようかと思ったんさ。ケイが魔法を使えないことをすっかり忘れてたがな」


 フマは僕を睨みながら言った。失敗談をわざわざ本人に言わせたことを責めているのだろう。うん、悪意はなかったんだ。ごめん。


 フマの答えに、テノンがあごに触れながら返す。


「ケイには、フマが教えればよかったんじゃないか?」

「できれば、他の生徒の様子も見せておきたかったんさ。ケイには魔法の常識が欠けててな、そのための勉強ってわけさ」

「確か、固有魔法は使えるんだったよな?」


 僕と先生の会話を、テノンは引っ張り出す。


「そうさ。テノンは、興味があるんさ?」

「……できれば、見てみたい。もちろんマナーが良くないのは知ってる。でも、自分のために、見ておきたいんだ」


 テノンは真剣な眼差しを向けてくる。冷めた少年かと思っていたけど、案外意欲的なのかな?


「ケイ、どうするさ?」

「いいよ。参考になるかは微妙だけど、見せてあげる」

「よし!」


 テノンは興奮気味に両手を握り締める。

 僕は疑問に思ったので、尋ねてみた。


「テノンは、どうしてこの訓練を受けてるの? 上のランクの訓練を受けたほうが実になるんじゃない?」

「……受けてるよ」


 意外な答えが返ってきた。


「ただ、あいつらと別れるのも寂しいからな、付き合いでこの訓練も受けてるんだ」

「……そうなんだ」


 テノンは、後ろめたそうに視線を落としている。彼自身、あまり良くないことだとは自覚しているようだ。

 まあ、個人的な問題だろうから、口は出さないでおく。


「じゃあ、中級魔法は結構進んでる?」

「形はできてるよ。あとは、練習するだけだ」


 そこから先は、フマにバトンタッチする。

 フマは、《(ウォード)》で人形を作ると、先生のときと同様にテノンに試し打ちをさせた。


 (ブレイトーラ)(キャニトール)(フォルトーラ)の魔法を、火、水、風、土の順に、テノンは発動させていく。

 (ブレイトーラ)は、(スオード)の刀身を巨大化させたもので、(キャニトール)は、(バレート)を巨大化させたものらしい。

 (フォルトーラ)は、(ウォルール)を巨大化させたもので、要するにどれも巨大化というわけだ。

 なお、「(ウェル)」をつければさらに巨大化し、「極大()」をつけるとさらに巨大化する。

 巨大化させると、消費魔力が何倍にも増え、コントロールも難しくなるのだそうだ。


 テノンは、全ての中級魔法を成功させていたようだったけど、フマに魔力操作が甘いと駄目出しされていた。ただ、水と土に関しては及第点をもらっており、なかなかに有望なようだ。


「中級魔法を実戦で使いこなせれば、C級の魔物を倒せるようになるさ。というわけで、模擬戦をするさ」





「というわけで始まりました。今回司会を務めますのは、わたくし、佐々倉啓でございます。そして実況をしてくださいますのはこの方」

「……ケーィ、それ、よく分からない」

「うん、ごめんニィ。なんかノリでやってみただけだから、気にしないで」


 僕とニィは、壁際に寄り、仲良く手を繋いで並び立っている。

 訓練場の向こう半面では、他の生徒たちが防御魔法の(ウォルール)を練習しており、こっちの半面では、中央のあたりでフマとテノンが相対している。


「なんか、こう、観戦するのはわくわくするね。初日に、レイチェルさんや冒険者たちとの勝負を観戦していたニィの気持ちが、分かる気がするよ」


 僕はあのとき、連戦でうんざりしていたけど、こうやって観戦するほうは気楽でいい。

 

「ケーィと観戦するのは、前にもあったわ。この町に初めて来たとき、ギルドで冒険者に絡まれて、フマが勝負するのを一緒に見たわ」

「ああ、そういえばそんなこともあったね。でもあのときは、観戦を楽しむって雰囲気じゃなかったんだよね」


 相手方の冒険者が卑劣に思えて、心穏やかではいられなかった。


「うん。だから、ケーィと一緒に観戦するのは、これが初めてって感じがするの」


 ニィが濡れた赤い瞳で見上げてくる。


「ニィ……」

「ちょっとそこ! こっちを見るさ!」


 フマが声を張り上げた。


「ああ、ごめんごめん。じゃあ2人とも、準備はいい?」


 フマとテノンが、同時に頷く。


 今回の模擬戦では、フマに制限がかかっている。

 一つ、複数を同時に発射する魔法を使わないこと(「×(クルルルクス)」を使わないこと)。

 一つ、上級魔法と極大魔法は使わないこと。

 要するに、テノンと同条件というわけだ。

 ああ、あともう一つあった。魔力量を100に抑えること。

 C級の魔物が、だいたいそのくらいの魔力量らしい。

 

 実戦経験からいって、フマが勝つだろうけど、2人がどういう戦いをするのか興味がある。

 僕は一般的な魔法戦を見られることに胸躍らせながら、審判として開始の合図を告げた。


「それじゃあ、始めるよ? ……始め!」

 

 

焦らすようなところで切ってしまいすみません。

今までの分量で書くのがきつくなってきたので、今回少なめにさせていただきました。

おそらくこれからも少なめでいきます。

その代わり連日更新は続けますので、お許しください。

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