39話 冒険者ギルドの魔法訓練(3)
「それじゃあ、始めるよ? ……始め!」
僕が開始の合図を送ると、テノンとフマが同時に動いた。
「《土砲》!」
テノンは魔力を前方に打ち出すと、土魔法の中級呪文を唱えた。
魔力の塊が、直径30センチほどの土の砲弾へと形を変え、フマを目掛けて強襲する。
その速度は、人力における全力投球かそれ以上。人の頭と同等サイズのそれが直撃すれば、生身だったら確実に死ねる。
一方のフマは、呪文を唱えることなく、魔力のみをテノンに向けて展開する。
フマが防御魔法を発動させなかったのは、単発の魔法であれば回避できると踏んでのことだと思う。
テノンの土砲と、フマの魔力の塊。
両者が中央で交差し、……互いの魔力が反発する。
その際、土砲からテノンの魔力が削がれ、速度を落とした。
互いに同等の魔力密度、なのにそうなったということは、テノンの魔力操作が甘かったんだろうね。
速度の落ちたそれを、フマは空中でふわりとかわす。
一方のテノンは、自分をぐるりと包囲しようとしているフマの魔力に対抗している。
魔力の戦いにおいては本来、妖精であるフマのほうに軍配が上がるのだけど、今回は手加減しているためそこまで大きな差は出ていないようだ。
「《土砲》!」
テノンが第2射目を発動させる。
このとき、発射地点は上方の高い所においていて、現在進行形でテノンを囲おうとしているフマの魔力にぶつからないように配慮されている。
僕なら、フマが魔法を発動させる前に、その魔力の包囲網を足で突破するのだけど、テノンは魔法戦に気を取られているのか、それとも他に理由があるのか。
それに、さっきと同じ魔法を使っても、さっきと同じ結果にしかならないんじゃないかな?
そう思っていたら、案の定、フマが新たに魔力を飛ばし、第2射目も速度を削がれ、フマにかわされていた。
そしてフマのほうは、当初の位置取りよりも遠巻きになってはいるけど、魔力によるテノンの包囲を完成させる。
テノンを中心とした半径10メートルの円周上に、フマの魔力が壁を作った。
「《土刃》!」
「《火砦》」
テノンとフマが、同じタイミングで詠唱する。
直後、テノンの眼前に2メートル級の土製の刀身が現れるのと同時、テノンの周囲で火の手が上がった。
火の手は瞬く間に僕の視界からテノンを覆い隠すと、離れて観戦している僕とニィのもとまで熱を伝え、その燃え盛る光で周囲を煌煌と照らし出す。
テノンを閉じ込めた火の砦は、その厚さが数メートルもあり、テノンの逃げ場と視界を完全に奪っている。
その火の砦を乗り越えて、テノンの土刃が飛び出してきた。
操られたそれは、フマに向かって飛来する。
テノンは視界が奪われているけど、魔力感知でフマの位置を掴んでいるんだろう。
ただ、この攻撃も、フマが魔力を飛ばすことで速度を殺される。
テノンの攻撃は、直接的で、変化がない。もっと手を替え品を替え、攻めていかないと。
まあ、火砦で囲まれちゃったから、まずはこっちをどうにかしないといけないんだけどね。
「ニィ、上に転移しようか」
「……うん」
火砦でテノンの姿が隠されたので、僕は目線を高くして俯瞰することを提案。
僕の意図を察したニィは、こくりと頷いた。
僕はニィを魔力で包むと、真上に魔力を飛ばし、出現ポイントにマーカーを、その下に足場を形作り、《転送》と《固定》を続けて発動させる。
途端、視界が切り替わり、訓練場の高い天井付近に、僕らは転移。そうして固定された空中へと降り立った。
下を見れば、フマとテノンがそれぞれ魔法を発動させている。
「《火砲》」
「《水刃》!」
フマが火球を、テノンが水の刀身を眼前に出現させる。
その間もテノンは、自分の魔力を火砦にぶつけ、操作しているフマの魔力を少しでも削ろうとしている。
確実に削れてはいるんだけど、微々たるもので、効果は薄い。
テノンは次の手としておそらく、水刃で火砦に対抗するつもりだろうけど、僕なら水砦を使うね。
フマの火砲とテノンの水刃がそれぞれ発射される。
まず、テノンの水刃が火の壁を侵食。テノンはそこで魔力操作を解除し、水をばらまく。火が一部鎮火され、テノンとフマの間に道ができる。
その道をフマの火砲が通過する……かと思えば、なぜかフマの火砲が軌道を変え、火の囲いの中へと飛び込んだ。
火砲の魔力が火砦の中に紛れて感知できなくなる。
「《水刃》!」
テノンはおそらく不審に思いながらも、それで火砲が消えたと判断したようで、鎮火のためにもう1発見舞う。
と、そのとき、テノンの背後の火砦から火砲が飛び出した。
テノンは咄嗟に振り向きはしたものの、不意をつかれては防御が間に合うはずもなく、フマの火砲が直撃する……と火達磨になってマズいので、フマが寸止め。直径30センチメートルの火砲は、テノンの胸の前で停止する。
そのままだと発せられる熱で火傷するだろうから、多分表面温度も操られているだろうね。
僕はその様子を上から見下ろして確認すると、戦闘の終了を告げた。
「そこまで!」
僕とニィは地面に降り立つ。
フマはテノンを囲んでいた火砦を解き、テノンがこちらへと歩み寄ってくる。
やはり負けたのが悔しいようで、その表情は暗い。ただ、きちんと分析はできているらしく、合流すると所感を述べる。
「砦は、使い方次第では足止めや目くらましになるんだな……。防御魔法ってイメージが強かったから、盲点だった。
あと、最後の火砲だけど、あれは火砦の中に隠したんだよな? てっきり解除されたのかと思ったよ」
それを受けて、フマがまとめる。
「魔法は、もちろん使えるようにならないと話にならないが、そこから先がまた長いさ。要は、使い方なんさ。それをよく覚えておくといいさ」
テノンは悔しそうな表情のまま、頷いた。
僕は、観戦している間に気付いたことを、2人に伝える。
僕なら火砦に水砦をぶつけると伝えると、テノンが感心した。
「ケイも、実戦慣れしてるんだな。魔力量が少ないから、補助だけだと思ってたよ」
僕は得意な気分になったけど、そこにフマが口を挟む。
「いや、ケイの場合は、常識がないだけさ。防御魔法を攻撃に応用できるんじゃなくて、そもそも防御魔法っていう認識がないんさ」
これまた正論なのが、なんとも憎いね。
その後テノンから、僕やニィとも模擬戦をしたいと希望され、ニィはそれに応じた。僕の場合は、《固定》で気道をふさげばすぐに片がつき、それ以外の魔法だと勝負がつかないという両極端なので、辞退した。
ニィとテノンの模擬戦では、テノンの使う魔法の幅が増えていたものの、ニィが縦横無尽に駆け回りながらテノンをかく乱し、テノンの攻撃を封殺。ニィの攻撃にテノンの防御が追いつかず、決着した。
テノンはこの模擬戦から、魔法戦で自分の身体を動かすのも有効なのだと学んだようだった。
その模擬戦後、テノンのニィを見る目が変わった。
いや、いやらしい意味じゃない。
視線に尊敬の念がこもるようになったのだ。
模擬戦のとき、自分とそれほど年の違わないであろうニィが、手加減をしたうえで自分に勝ったためだと思われる。
それと、テノンはニィに負けても悔しそうにしていなかった。
多分、憧れも混じっている。
その後、僕はテノンに空間魔法を披露した。
《転移》、《転送》、《固定》、そして異空間系。
《加速空間》は見せていない。もう一つ、対になる魔法もあるんだけど、そっちのほうも同様だ。大事な切り札なので、隠しておいた。
テノンは、僕の魔法の奇怪さに驚き、ついで、魔法の使用によって僕の魔力量がほとんど減っていないことに驚いていた。
その理由を聞かれ、フマがこう答える。
「ケイは異常なんさ」
便利な言葉だね、それ。
いや、Exを正直に話すわけにもいかないから、助かったけども。
僕の魔法を披露し終わると、テノンの僕を見る目も変わっていた。
なんと、ニィのときと同じく尊敬の眼差しだ。
そして、テノンはこう言った。
「俺を、2人の弟子にしてください!」
その茶色い瞳には熱がこもっており、真剣なのだと理解させられる。
2人、というのは、僕とニィのことだろう。
僕はニィと視線を交わす。
僕が確認するために首を左右に振ると、ニィは一つ頷いた。
これには、もちろん理由がある。
僕の空間魔法はアプトやギフトのExレベルで実現しているし、ニィに関しては魔王としての魔力量を活用した戦いを得意としている。
まあ、教えられる事柄も皆無ではないけど、師事するなら他に適任がいそうなものだ。
それこそ、魔法訓練を担当している先生にでも頼むほうが、よっぽど有意義だと思う
そんなわけで、僕はテノンに伝えた。
「僕らは師匠に向いてないんだ。……だから、ごめん、弟子にはできない」
僕の誤算は、テノン少年の熱意のほどか。
僕の拒否に対し、テノンはそこで引き下がらなかった。
知ってました?
この欄って、編集画面では「後書き」という名称なんですよ。
……。
いやっ、後書きに書くことがないと、寂しいかなって思ったんですっ。




