正念場
「さてと。一応は確保したか」
シノトは下働きをしていた男を縛り上げて現在は実家の神社にいた。
「全く。なんて奴なのかしら」
側にはシノトの祖母が不機嫌な表情で愚痴をこぼしていた。
しかし、見た目が可愛らしい少女なためその様子はおもちゃを取り上げられた子どもそのものだ。
その様子は孫のシノトでも微笑ましく感じた。
「しかし、随分と回りくどい手口じゃの」
シノトの祖父狐空・秋清はポツリと呟く。
「そうなんだ。百花屋に罪を擦り付け、客の信用を得ていく。そして、確固たる信用を勝ち取る。本当に回りくどい。でも、計画としては利にか成っているよ」
シノトはこれまでの犯行の手口を掴んでいる。そして、生き証人である下働きの男を捕らえた。
「でも、まだ足りない」
相手は桜蘭屋だけじゃない。それを影で後押しする。剣警隊の清日根がいる。
「じゃが、この事件はお前の登場で乱れが起きた。その乱れは奴らの計画に亀裂を入れた」
秋清は言った。
「奴らはこの亀裂を直そうと必死じゃ。じゃが、亀裂は簡単には消えん。シノトよ。ここからが正念場じゃぞ」
「はい」
秋清の言葉にシノトは強く頷いた。
ちょうどシノトが実家にいた頃。
風紀組の面々が生徒会長室に集まっていた。
「今回の事件をもう一度洗い直そうと思っているわ」
雪奈は最初に言った言葉はそれだった。
メンバーはざわめく。
「静かに」
雪奈は全員を黙らせる。
「今回の犯人逮捕に私は少なからず疑問を持っている」
百花屋の内部告発。
この事実は雪奈に不信感を与えていた。
「それを裏づけるように百花屋の内部告発をした下働きの男は現在行方がわかっていないわ」
これはシノトが下働きの男を捕らえてしまったために雪奈は口封じに殺されたのか、雲隠れしたと考えていた。
「組長。では俺達は一体何をすればいいのですか」
「皆には内密に一から調査してほしいの」
組長の指令に皆が頷いた。
「さて、私も動きましょうか」
皆が退出した後雪奈も愛刀を腰に差して部屋を出ていった。
「どうやって牢屋に入れるか…」
帰り道を歩くシノトは考えていた。
用意周到な桜蘭屋とそれを後ろから守る清日根をどうやって証拠と共に御用にできるか。
「ん」
そんなことを考えていると鼻に自分のよく知る人達の匂いが入って来た。
「これは、珠依さん達の…」
しばらく考えてからシノトは彼女達のいると思われる匂いのする方向へと足を進めた。
「収穫は無いですね」
「はい」
桔梗と美穂は聞き込みといった感じに調べを進めていた。しかし、結果は空回りであった。
「やっぱり。浴衣の人達が多いですね」
道行く人達の何人かが浴衣を着ている。
二人はそんな浴衣を着ている人達を羨ましそうに見ていた。
(私もあれを着て…)
桔梗は自分が浴衣を着た姿を想像した。しかし、次には何故かシノトの顔が浮かんだ。
(わ!?私は何を考えているんですか!?)
慌てて振り払う。しかし、頬の熱は残ったままであった。
「珠依さん?」
「あ!?だっ、大丈夫ですよ!?」
首をかしげる美穂に慌てる桔梗。
「そ、そう言えば、桜蘭屋さんに話を聞いていませんでした!
」
思いつきと話題を反らすため叫んだ桔梗。
「そうですね。もう一度話を聞く必要がありますね」
桔梗の意見に美穂は賛成した。
気づかれなかったことに安堵した桔梗。
二人はそうして桜蘭屋に向かう道を歩いていった。
そんな二人を背後から見ていたシノトは彼女達の後を静かについていくのだった。
「これは、これは、風紀組の方々」
桔梗達を出迎えたのは桜蘭屋の主。
金坂・欲二郎。
立派な着物を着て、丸い顔、太りぎみの体格も相まって大きく見える。
うやうやしく言う彼。しかし、桔梗達は彼が苦手だった。初めてここに来た時、自分達を見る表情が客に対してのものじゃなく商品の品定めのように感じたのだ。
「それで、今日はどのような?」
「事件の件について少々」
桔梗の言葉に欲二郎の顔が一瞬険しくなる。
しかしそれは一瞬のことであったためすぐに元に戻った。
桔梗達は見逃さなかった。
警戒心が高まる。
「犯人は捕まったはずでは?」
「まだ、犯人と断定されてません。重要参考人としています」
桔梗の言ったことに欲二郎は内心で舌打ちしていた。
(一体、何をやっているんだ!)
「それで、一つお伺いしたいことがあります」
「何でしょう?」
「事件に遇った被害者達は桜蘭屋さんのところで浴衣を購入した客でした」
「しかし、それは」
「百花屋さんの妨害と人身売買の疑いを桜蘭屋さんに向けさせるためだと言いたいんですよね」
「それは、おたくの」
「はい。しかし、この真相を推理したのは剣警隊の清日根様です」
「何が言いたいんですか?」
「私達風紀組は違うと思っています」
「そのために」
「はい。こちらに伺った次第です。ですがどうやらその必要はないみたいです」
言い切って桔梗は桜蘭屋の暖簾をくぐって出ていった。
それを見送った欲二郎の表情はさっきまでの笑顔から逆の相手を睨み付ける表情に変わっていた。
「お前ら」
「「「へい」」」
三人の男達が現れた。
その男達はシノトと百花屋の外でやり合った男達だった。
「上玉だ。傷つけるなよ」
「「「わかりやした」」」
「旦那方も頼みやしたよ」
欲二郎に呼ばれ、腕に覚えのありそうな男達が現れた。
腰に刀、剣を差していた。
「報酬は」
「わかってますよ」
「いいだろう」
そして男達は暖簾をくぐって行った。
それを見送った欲二郎は
「儲からせて貰おうか。小娘ども」
「そうは、させない」
陰で聞いていたシノトはその場を立ち去った。




