平和な日常
とある屋敷の一室。
六畳程の広さの一室では男達が話し合いをしていた。
「くそっ、なんたる事だ」
一人の男が吐き捨てるように呟く。
「しかし、こんなにも早く、事が起こるとは、まったくの予想外でしたね」
もう一人の男もうやうやしく男の言葉に同意する。
「やはり、邪魔者は早急に」
二人とは別の男は持っていた剣の刀身を鞘が少し出す。鞘から出た刀身は部屋の明かりに反射してギラリと光らせる。
「そうだな。だが、殺すには、惜しい」
「されば、やはり」
「うむ、早急に事を早めろ」
男達の会話は、これで終った。しかし、この会話によって、これから起こる事件の発端になるとは、これから起こす男達以外に知る者は誰一人としていなかった。
「・・・うーん・・」
シノトは目の前に広がる黒板に唸っていた。
元々、筆記試験で合格したシノトは勉強はできる方であった。しかし、今回ばかりは違っていた。
(眠い・・・)
シノトは今にでも意識が消えそうな状況にあった。
今のところは意識を保っているが少し限界になっていた。
(眠い、まさかここまでとは)
シノトは自分の眠気のすごさに少し驚いていた。
理由は、先日の戦いで使った〝狐火〟のせいであった。シノトは元々は人間の姿で学院を生活していた。そのため、久しぶりとでも言うべき狐の力の使用には、かなりの反動があったのだ。それが現在の疲労や眠気として現れてきているのだ。
授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
シノトはその瞬間、限界をむかえたかのように眠り込んでしまった。
「おいシノト、て、寝ちゃってる」
アキトがシノトの所に来て寝ている事に気づくと肩を竦めた。
「また寝ているのですか?」
桔梗もシノトの所に来てアキトに尋ねた。
「ああ、ぐっすりとね」
そう言って熟睡中のシノトを指差す。
「一体、どんな生活を送っているのでしょうか?」
桔梗は不思議そうにシノトを見ていた。
「気になりますか。巫女姫様」
アキトは、からかうように聞いてきた。
「何がですか」
「いや、〝惚れた男〟の事が気にならないのですか?」
「な、何を言っているんですか!」
アキトの爆弾発言に桔梗は顔を真っ赤にして動揺した。
「なっ、いきなり何を言い出すのですか!」
「いや、シノトに惚れているのかなあと思って」
「そ、そんな。何でそうなるんですか!」
「いや、今まで男子生徒と親密に話しているとこ、見たことなかったからさ」
「そ、そうでしたか?」
「ええ」
桔梗はさっきと同じくらいに衝撃を受けた。
「そうか。違うのか」
アキトは一人、ぶつぶつと呟いていた。
そんな彼とは別に桔梗はアキトの爆弾発言を思い返していた。
惚れた男が気にならないのか?
桔梗はその言葉に深く動揺した。自分でも何故か動揺してしまったのか理解できなかった。改めて桔梗は思い返していた。
私は、彼をどう思っているのだろう。
今までは、彼のように人を助けるような剣士になろうと目標にしてきた。しかし、目標と思っていた彼と剣を交えたり、話していたりしていると自然とやすらぐような感じになっていった。
それは自分が彼に惹かれているからだろうなのか。
桔梗は、答えの出ない問題を解くかのように考え続けるのであった。
その後、目が覚めたシノトは、一人で考え込む桔梗を見て首をかしげるのであった。
シノトの周囲は、いつもどおりの平和な日常であった。




