決行前
朝の教室。
「おはようっておい、どうしたんだシノト?」
多少驚いたアキトが声をかける。
「ふえ?なにが」
「なにがじゃないだろ。そんな眠たそうな顔してんだからよ」
アキトの言うとおりシノトは眠たそうな顔をしていた。
「う~ん、ちょっとね」
(昨日の夜。屋敷に忍び込んだり、人のところを尾行してたなんて言えないよな)
「ちょっとって、なんだよ」
「勉強だよ 勉強」
「なあんだ。勉強かよ」
アキトは残念そうな顔をする。
「何だと思ったんだよ」
「いやあ、夜、遊んでたんじゃないかと」
「ばか」
アキトの言葉にシノトは呆れた。
「お前じゃあるまいし」
「ひどいなあ」
アキトは笑って受け流す。
「おはようございます」
女子の礼儀正しい挨拶が男子二人にかけられた。
「あ、おはようございます。珠依さん」
「おっす」
桔梗の挨拶に二人はそれぞれでかえした。
それからアキトは桔梗に。
「珠依嬢いつ見ても美しいですなあ」
「お世辞は時と場合がありますよ」
「きつい、お言葉で」
「なにをやってんのだか」
二人のやりとりにシノトは呆れた。しかし、それと同時に納得した。
アキトはシノトとは違い〝騎士〟の称号を持つ生徒なのだ。
騎士とは、英国方面に存在する剣士達の通称である。上位の貴族や英国方面の学院の生徒は騎士になるのが殆どである。そしてなにより騎士は騎士道を重んじる。そのため女性に対しては礼儀を尽くすのだ。
つまり、アキトの今のやりとりは騎士としての女性に対する誉め言葉であった。
「おいおい、シノト、女性に対して礼を尽くすのが男として当然のことだぞ。」
「騎士としてとは言わないんだ」
「前にも言ったと思うが、俺は騎士よりも男としての礼を尽くすんだよ」
「めちゃめちゃですね」
話を聞いていた桔梗がぼそりと呟いた。
まったくだと思いながらシノトは大きなあくびをした。
ちょうどその時、授業の始めを告げるチャイムが鳴った。
放課後。
全ての授業を終え、生徒達が帰りの支度をして帰る中シノトは帰り支度をせず机で腕を組んで考えていた。自分がこれからやろうとしていることに。
「何を考えているのですか」
桔梗が声をかけてきた。
「珠依さん」
「なんだか、思い詰めているようでしたが」
心配そうに見つめていた。
「だ、大丈夫ですよ」
突っ掛かりながら答えた。
理由は、桔梗がずっと見つめてくるからであった。
学院でも屈指の美少女である彼女に見つめられるというのは正直緊張するものであった。。
「そうですか」
桔梗は安心したのかほっとして微笑んだ。その笑顔にシノトはドキッとした。
しかし、なんとか顔にはださずにすんだ。それはひとつの理性であったのかもしれない。
(可愛さと美しさを兼ね備えた笑顔だな)
「狐空さんはどう思っていますか。辻斬りについて」
「ひどいと思います」
シノトは思っていることを口にした。
「私もです。斬るのを楽しむためだけに人の命を奪うなんて」
桔梗にしては珍しく怒りの顔をしていた。そして彼女の手は震えていた。
そんな姿を見ていて自然とシノトは心が静かになっていくのを自覚した。そして、覚悟もできてくるのを実感していた。
何を迷っているんだ。あの時、覚悟を決めたじゃないか。もう、あんな思いをしたくない。誰かが血を被るなら僕が被る。
この瞬間、シノトは揺るがない覚悟を決めた。
しかし、何故、急に、そんな気持ちになれたのかシノト自身はわからなかった。




