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「お母さんの!?」
シノトはこれまで以上に驚いた。いや、驚愕したといった方が正しいだろう。今は、驚愕の表情で自分の手にしている刀をただ、ただ、眺めていた。
「そうじゃ。お前の母さんのじゃ」
シノトの母親。狐空清花は聡明で美しい女性でシノトは家族からは母親似だとよく言われていた。そのため、シノトは男の子ではあるが女の子のような顔立ちをしていて学院でも駄目な部分を除けば陰では人気の顔立ちをしていた。(本人が知らない所で)そして、シノトの父親の狐空冬木とはとても仲が良くシノトといっしょに仲の良い家族であった。
「あれから、十年ぐらいになるのかのう」
秋清は悲しい目で道場の窓から見える空を眺めていた。
「うん、そうだね」
シノトも同様に顔を祖父に見られないように伏せて刀に目をむけていた。
道場の中は重い空気が支配していた。
シノトの両親はこの世にはいない。シノトの両親は亡くなったのである。
正確には〝殺された〟のだ。
シノトはその時の事を鮮明に覚えていた。何故なら、彼はその場にいたからだ。
まだ幼かった頃である。
その時は雨であった。
雨の中、シノトは泣いていた。そこには赤い血を流した女性が倒れていた。その近くに同じように男性が血を流して倒れていた。しかし、二人とも息はしていた。シノトは泣きじゃくって叫んでいた。
「お母さん!お母さん!」
続いて男性の方に駆け寄り。呼び掛ける。
「お父さん!お父さん!」
必死に呼び掛けるシノトの背後に人影が現れ、手にしていた剣でシノトの背中を切り裂いた。
「うわぁぁー!?」
「シノト!」
倒れていた男が叫ぶ。
シノトの背中に激痛が走り、血が流れ、地面を赤く染まらせる。
激痛に呻きながらシノトはそこで意識を失った。そして、目が覚めた時には自分を抱くように死んでいた両親の姿があった。
シノトはその事を思いだし涙を流しはじめた。
そんな孫に祖父は、察して静かに見守っていた。
数分の沈黙の後、祖父、秋清は口をひらいた。
「孫よ。わかっておるが、お前の母さんと父さんはな。お前を守るために命を張ったんじゃぞ。」
「わかってる」
シノトは静かに答える。
「儂はな、本当はお前に 継いでほしくないのじゃ」
「!?」
「お前が継いで、いずれお前が殺した相手に復讐をするかもしれないと思ったからじゃ」
「じゃがな、儂がもっとも恐れているのはお前が復讐に駆られて己を見失ってしまうかが心配なんじゃ」
シノトは祖父の言葉を聞いていた。
「自分を失う」
祖父の本音と自分の身にこれから起こるかもしれない事態。
シノトは、暫く言葉を返す事ができなかった。
「おじいちゃん・・・僕は・・」
言葉はゆっくりだが、声ははっきりしていた。
「僕は継ぐよ。僕はやるよ。もしかしたら復讐に駆られるかもしれないけど僕は、僕みたいな人をつくらないために刀を振るうよ。誰かが血を被るなら僕がその血を被る」
「そうか」
祖父は孫の言葉を静かに聞いて、静かに頷いた。
祖父との受け継ぐための覚悟を表明した後、二人は居間に戻ると。一人の女性が居間でお茶を飲んでいた。
「おや、シノトおかえり」
「ただいま、おばあちゃん」
おばあちゃんと呼ばれた女性は笑顔で答える。
「なんじゃ、婆さん。帰ってたのか」
「ええ、少し遅くなりましたが」
後からきた祖父にも笑顔で答えた。




