継承と覚悟
学院が終わるとシノトはそのまま寮には向かわず、街から少し離れた山へと足を運んでいた。そして一軒の神社に向かっていた。
神社の鳥居につくと何百段もある石段を上がり本殿と屋敷がありシノトは屋敷の方に向かった。
「ただいま」
屋敷の玄関を開け入っていくと居間には座布団に腰をおろしてお茶を飲んでいる一人の老人がいた。
「ただいま、おじいちゃん」
シノトはその老人に挨拶した。
「おお、孫か。久しぶりじゃな」
老人は笑顔でシノトを迎えた。
「おばあちゃんは?」
「ああ、婆さんは出掛けておるよ」
おじいちゃんと呼ばれた老人は穏やかな笑みを浮かべ、お茶を再び口に運んだ。
狐空秋清。
シノトの祖父である。昔はかなりの美男子であったらしく今でも年だというのにそこなわない顔をしてかつての面影を残している。
しかし、祖父は普通ではない。
「おじいちゃん、〝耳〟と〝尻尾〟を引っ込めてよ」
シノトはため息混じりにそう呟いた。
「よいじゃろう。家の中なんじゃから」
何でもないように言う祖父。
祖父の頭と尻のあたりからは狐の耳と尻尾が生えていた。
シノトの祖父、狐空秋清の正体は〝化け狐〟つまり〝妖狐〟である。そのため実年齢は何歳なのかわかったものじゃない。
そして、その孫であるシノトもまた〝狐〟である。
普段はばれないように特徴のある耳と尻尾は引っ込めていた。しかし、学院にもそういった異形の種族の家系を持つ学生は多くいる。そういった学生は霊力が高く地位も高い者が多かった。
だがシノトは、別の意味であえてその事実を隠しているので地位は高くはない。
「おじいちゃん、今日から〝始める〟つもりだよ」
シノトは、真剣な表情を浮かべ切り出すように祖父に伝えた。
「そうか孫、いや、シノトよ。ならば道場にきなさい」
そう言うとスクッと立ち上がり老人とは思えない足どりで居間を出ていった。
祖父に連れられシノトは屋敷の廊下を進んでいく。
狐空家の屋敷は神社の入口から見て右側にある。そして屋敷は桔梗の屋敷に比べて小さいが中の位はあった。そして、屋敷には稽古場がありシノトはそこで剣技を学んだ。
稽古場に入ると祖父は振り返りシノトを見た。その顔は真剣で老人とは思えない気迫に満ちていた。
「孫よ。わかっておるが、お前がやりはじめようとしていることはとてつもなく大変なことじゃ。命の危険、いや、それ以上のものじゃぞ」
「覚悟はある」
「大丈夫か?お前は人を斬る覚悟はあるか」
「それは・・・」
祖父の言葉にシノトは口ごもった。
「〝人を斬る〟ということは〝命〟を奪うことじゃ。どんな理由であれ命を奪えば一生、背負うのじゃぞ。それでもか?」
祖父の言葉はとても重かった。
シノトはこれまで剣で人を斬ったことはない。学院の生徒の中には真剣で決闘をして人を斬り、命を奪った者は少なからずいる。しかしそれは両者の同意のもとで行われる決闘である。また、学院で実施されているクエストの中には犯罪者の捕縛などで犯罪者を任務中に殺してしまうことだってある。しかし、学院の生徒は出来る限り、殺さないようにしている。皆、内心怖いのだ。
それはシノトも同様である。
人を殺す。
それは簡単な事でもない。やっていい事でも決してない。
しかし。
「確かに、僕は人を斬る覚悟はできてない。むしろ、怖い。でも、誰かのために力を振るう覚悟はあるよ」
「それでもいつか奪うかもしれないぞ。誰かのために」
「その時はその時です」
祖父の問いにはっきりと言ったシノトに祖父はため息をついた。
「まったくじゃのう。多少の矛盾があるんじゃが、よいじゃろう。孫よ。お前の覚悟は確かに聞かせてもろうた」
「じゃが・・」
「いずれ、その時がくる。その事だけは忘れるな」
「はい」
シノトはゆっくりと答えた。
「さて、受け継ぐからには・・・・」
言葉を切った。
次の瞬間。秋清の右手が動いた。いや、普通の人なら今の動きは、捉えることはできなかっただろう。
しかし、シノトには見えた。
シノトは咄嗟に横に転がった。するとシノトが今までいた場所には三本のクナイが刺さっていた。
「ふむ、まあまあじゃのう。中の上くらいかの」
「いきなり、クナイを投げるなんて」
「馬鹿もんが、これから始める事は何が起こるかわかんないんじゃぞ」
秋清はシノトに叱責する。
「しかし、少し遅くなったの。今度、家に帰ってきなさい。鍛え直してやろう」
「分かりました」
「さて、話を一旦、切るかの。ところで孫よ。お前に渡しておきたい物があるんじゃ」
「渡したい物?」
シノトは首をかしげる。
秋清はそう言うと道場を出ていった。
数分後ー。
秋清は道場に戻ってくると両手には薄茶色の布袋を持ってきていた。
「これをの」
布袋を受け取ると紐をほどくと布袋の中には一本の〝御祓い棒〟があった。
御祓い棒は神社でお祓いなどに使われる道具である。幤や大幤ともいう。
袋に入っていた物は長さは70~80センチメートルで先には白い紙垂がついていた。しかし、棒にしては重く、棒自体も真っ直ぐでなく反っていた。
これは!まさか。
シノトは、直感的に感じた。
シノトは棒の先の近くを持ちゆっくりと抜いた。すると美しい刀身が姿を現した。
そして、刀身からは静かだが凄まじい力をシノトは感じた。
「なんて、刀だ!これは、霊刀じゃないか」
シノトは思わず叫んでいた。
武器の中には霊力の込められたのが存在する。それらは、言いくるめて〝霊具〟と呼ばれる。また、聖剣などの神話に出てくる物は〝神具〟と呼ばれる。
「それにしても、おじいちゃん。これは?」
「それは・・・」
また、言葉を切る。しかしその顔はとても悲しい顔であった。
「それは、お前の母さんが持っていた物だ」




