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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
12/83

金髪乙女とアクマの第3ラウンド

 目を覚ますと同時に再び永眠しかけた。

 頭を振って身を起こそうとしていた俺に向かって、緑髪黒目の幼女が全力をもってブースター全開で俺の胸に飛び込んで来たからだ。

 普通死ぬだろ?

 少なくとも骨の何本かは確実にイったぞ。

 なにせ真っ正直に角からぶち当たってくれたのだ。

 ワイルドホーンの直撃。

 正直貫通しなかったのが奇跡と思えるほどだ。

 丈夫な骨に産んでくれた母親には心底感謝せねばなるまい。

 泡を吹く俺の体に、幼女悪魔は自分の紙片を絆創膏のようにぺたぺたひっつけて訊いてくる「ご無事ですか、マスター?」と。

 当然応える。「死にかけたわ!」



 幼女悪魔アンノウンは、静かにその覚悟を決めていた。

 目を覚ましたマスターは、「あれ? そういえば俺、アイツに胸を…」とやはり自分の死について言及し始めたからだ。


「危ないところでした。

 マスターに紙片を埋め込んでおかなければ、本当に危なかったです」


 嘘は言ってない。

 どの程度の危うさかを言っていないだけ。


「傷跡も…ないみたいだな」

「それも私の紙片で修復しました」


 嘘は言ってない。

 ただ、どのタイミングで修復されたのかを言っていないだけ。


「マスター、どこか、ひどく痛むところはありますか?」


 訊くと「肋骨が痛ぇよ」と苦笑いしてくれた。


「にしても、あれでよく助かったもんだな」


 ここだ、と思った。

 ここで「ええ。運がよかったですね」と肯定すればいい。

「今後は注意してください」と釘を刺せばそれでおしまい。


「………………ぁ」


 なのに、声が震えて、言えなかった。

 嘘が、つけなかった。



 目の前で、幼女姿の悪魔が震えていた。

 理由はまず間違いなく、自分が死に掛けたせいだろう。

 気まずいったらない。

 しかたなしに頭をなでてみたら、そのまま再び胸に飛び込んできた。

 …とてつもなく痛い。

 手加減なしの握力で肋骨付近をつかみ込んでくる。

 に、ニクガチギレソウ。

「マスター、マスター、マスター」と、泣いているようにも、喜んでいるようにも、謝っているようにも「マスター」と連呼し続けるアンノウン。

 一通り言い続けたあと、最後に彼女はこう締めくくった。

「むちゃ、しないでください」と。

「ああ、悪い」と、俺は応えた。

 そうしてしばらく、彼女をあやし続けた。


 そのまましばらくして、アンノウンが自分から身を離した。

 アンノウンは気付いていたのだろう。

 すぐに俺も気付いた。


「あなたもしつこいですね」

「今時、対戦は3ラウンドが基本なのよ」


 その身に槍か杭か、六本の棒状のものに貫かれた、満身創痍ながらも気丈に立つルシファーの姿が、そこにあった。


「なんだアイツ、ボロボロじゃないか」

「ついカッとなって変身してやりました。後悔はしていません」

「…あ、そう」


 やっぱり、コイツとの会話は疲れると再認識させられた。

 変身なんてスキル持ってたのか、コイツ。

 それに…こっちのコイツも引く気はないだろうな、こりゃ。


「マスター、下がっていてください。

 傲慢の大罪の能力特性は『他者への命令と強要』精神支配です。

 彼女のプライドが、劣勢の挽回のために人質を取ることを良しとするとも思えませんが、念には念を、です」

「ああ、わかった。気をつけろよ」


 言い置いてすぐに飛び出すアンノウン。


「call ヒンドゥー・インドラ『ヴァジュラ』」


 正直驚いた。

 アンノウンの「call」の声に応じて柄の両端に爪状の突起のついた武器が手元に現れたのだ。

 あんな能力までと思ったが、ルシファーはまるで驚いていないようだ。

 そうか、気絶してる間に、アレでやられたのか、アイツ。


「ボロボロだからって、なめんじゃないわよ!!」


 気勢を上げて右足から杭を引き抜くルシファー。

 血が吹き上がるのも無視してアンノウンに杭の先端を突き込む。


「無茶を」/「死にゃしないわよ!!」


 吼え猛る悪魔。

 わずかな柄を盾に受け止めて凌いだアンノウンを追って、左足を踏み込み追撃。

 槍ならば石突によるかち上げ。

 超小型体型であるアンノウンのあごを狙ったそれは、ヴァジュラの突起部分に噛み付かれてガードされた。

 しかし構わず押し込み吹っ飛ばす。


「く、call」/「させるかっ!」


 貫かれた翼と足で前へ。

 呼び出しが終わる前に再び振りかぶる。

 二度続けて体を狙い、本命は左翼上のブースター。

 ヤツの足を奪う。

 吹き飛びながら体を丸めてガード体制をとるアンノウンと、

 血を噴きながら追い込み杭を振り抜くルシファー。

 ヤツが気付くよりも早く、早く。

 気迫の投擲。そして杭は貫く。


 獲った!


 モノが本だけに爆発こそしなかったが、「ドフッ」と痛快な音を立ててブースターが一基沈黙した。


「…やってくれましたね」

「言ったでしょ? ボロボロだからってなめんじゃないわよ」


 杭が貫通して抜けていった風穴を見つめて視線をこちらに戻し、無表情の中にもにがにがしく睨んでくるアンノウン。


「アンタの能力は確かに異常よ。でも弱点がないわけじゃない。

 呼び出しから発生まで大体3秒から4秒ってところ?

 持ってる情報が多すぎて、ページを特定するのに検索が必要なわけよね? まったくしてやられたわ。

 その能力はその特性上、接戦になったら使いづらい。

 だからあえて最初にあんなふうに挑んだ。

 アタシが、高速機動での能力使用がアンタの得意分野だと思い込むように、能力の認識にミスリードを誘った。

 さらに、アンタには極端に体が小さいっていう、まずどうしようもない弱点がある。

 せっかく山ほど使える武器があるのに、その手が小さすぎて剣の一本すら満足に使えない。

 能力の異常なチートっぷりの割りに、身体が追いついていないのよ、アンタ。

 だから生命線は唯一扱える小型武器と、その背中の本型ブースター。

 高速機動で圧倒する以外にアンタには活路がない。どう? 違う?」

「半分正解、とだけ言っておきましょう」


 ブースター一基程度で、と言わんばかりに闘志を燃やすアンノウン。


「なによ、まだやる気?」

「当然です。先ほど3ラウンド制だと格闘ゲームにたとえましたね?」

「それがなによ?」

「できれば使いたくはなかったのですが、私の超必殺技をお見せしましょう。

 必殺技ゲージはすでに溜まっています」


 この発言にマスター、ルシファーともに驚愕。

 あのチビは、ここまでやっておいて、これ以上まだチートを隠し持っていたというのか。


「call」


危険三段跳び。

ホップ(9部)終了。  ステップ(10部)終了。

もうすぐジャンプ。

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