金髪乙女とアクマの切り札
「call」
それだけだった。
ただそれだけの発声で武器が召還されていた。
「『M61バルカン砲』」
遅れて武器の名称を呼ぶ。
気付いたルシファーは即座に回避行動。
小さな体の脇に抱えられた砲身が火を噴き、鉄の雨を撒き散らした。
「重複call『鋼鉄の腕』call call call」
破壊された一基を除く、三基のブースターの背表紙から人の手を模した金属の腕(別名機械鎧)が一本ずつ生え出る。
指摘された手の小ささの弱点が消滅した瞬間だった。
同時にルシファーも動いた。
左足の杭を引き抜き、血を噴かせながらの突進。
杭の先端が音速を超えて風を貫く。
「call」
アンノウンも合わせて飛び込む。
下二つのブースターが火を噴き、右上の金属腕に瞬時の召還。
その獲物は、
「『鋼の鉄杭』」
本来土木工作用杭打ち機械を武器に転用した、軽く見積もっても20kg越えの炸裂火薬式鉄塊兵器。
正直鬼の所業だろう。
ルシファーの木の杭をアンノウンの鋼鉄の杭が爆破音とともに打ち砕き、さらに左腕に刺さっていた杭をへし折って肩に命中し、容赦なくルシファーを地に叩きつける。
悪魔による、悪魔の如き、悪魔を倒すためのクロスカウンター。
前にやられたショルダータックルの借りをを倍返しで叩き付けた形だ。
「借りは返しました」
「…ぐ…ぁ…」
殴って、殴られて。
弱点を見抜いて、塞がれて、ここまで来た。
初期の優勢はどこへやら。
アンノウンのマスターに手を出してから、すべてはひっくり返された。
「もうやめにしませんか?
私はすでに不完全ではあるものの、戦闘用武具知識のフォルダー分けを完了しました。
いわゆるお気に入り登録というやつです。
もはや私に検索時間の穴はありません」
降参を勧められるが、意地を張って立つ。
翼を震わせ、空へ。
「…さすがに大罪悪魔はしぶといですね。
人に業のある限り、ですか。まったく困ったものです」
「なんとでも言いなさい」
右腕の杭を、左翼の杭を、そして右翼の杭をすべて引き抜く。
足元に魔方陣を展開して傷口から噴き出し、流した血をすべて飲ませた。
杭を三本束ねて血を吸った魔方陣から魔力供給。極大化。
真紅・紅蓮の魔力葬槍。
破壊の血槍。
盾をどれだけ重ねようと、まとめてぶち抜く。
そして、それが智欲の大罪を動かした。
「仕方ありませんね。私もジョーカーを切ります。
編纂モード、call 戦争・トロイア『アイアースの盾』。
同時に空白のページへと転写」
アンノウンは紙片状態で呼び寄せたアイアース、短くアイアス、ロー・アイアスなどとも呼ばれる盾を、同じく呼び寄せた空白のページにコピーして、そのままその紙片に魔方陣を展開した。
「アイアースの物質属性を『鉄』から『木』に変更。
記載を『七枚の皮を敷き詰めた』から『七枚のりんごの花の花弁を持った』に書き換え、りんごの花のイメージを投影、再デザイン。
発生モーションに『ウッドシールド』のものを流用、術式『アイアスの種子』を作成、セットアップ」
「――そ、そんな! 嘘よ! ありえない!!」
槍の魔力供給を続けながらもぞっとする感情を抑えられない。
智欲の大罪がやろうとしていることはあまりにも異常すぎる。
「概念特性『飛び道具に対して無敵』をパッケージング。
武具特性『飛び道具に対して無敵』にカスタマイズし直し再設定。
特性項目に『使用者と魔術同調』及び『メタモルモーフィング能力』を追記。
同能力を検索、インストール」
「ありえない、ありえない! ありえない!!」
概念特性を武具特性に変換する、ということは、
過去の英雄達の武具の幻想を、現代の武器に流用する、出来るということ。
だが、そんなことをすれば、過去の伝説級武具たちがアンティーク以上の価値を持たなくなる。
それはすなわち幻想の崩壊に等しい行為であり、能力なのだ。
だから「ありえない」。
そんな能力の存在も、それを行う者の精神も神経も。
だからルシファーは全力を以って「それ」を阻止する。
自分自身もまた、幻想そのものなのであるから。
「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
そう、させるわけにはいかない。
全魔力を振り絞ってでもこの一線は死守しなければならない。
すべての幻想に夢見る者達のために。
悪魔の自分がやるべきことではないと、分かってはいるが。
それとこれとは別問題。
血の色に染まり抜いた槍を、死力渾身の力を以って、撃つ。
「私は今ここに、人の叡智は過去の幻想を超越することを証明します。
基本項目に『これはアイアースの盾を智欲の大罪専用にカスタマイズしたものである』と明記。
完成。
『智欲の大罪アンノウン・カスタムNo.01、ロー・アイアースの盾』略して――」
『カスタム・ロー・アイアス』
そして柱ほどの太さを誇る血色の破壊槍と、白く輝き発光する球体のつぼみが、それぞれ己の存在意義を賭けて衝突する。(1秒)
つぼみの盾はやがて花開き、桜の花弁に似た白い帯を七枚咲かせ、そして一枚目の花弁が散っていった。(2秒、3秒)
しかし散った花弁は、盾に向けて伸ばされたアンノウンの右腕に巻き付き、その腕を包み込む。(4秒)
残る花弁も同様に、散ると共にアンノウンの体に巻き付いていく。
左手(5秒)、右足(6秒)、左足(7秒)、胴体(8秒)、
そして翼と頭部。(9秒)
血色の破壊槍と花弁を失った盾は、エネルギー飽和から大爆発を起こして、血と白二色の光の柱を混じり合わせて立ち昇らせる。(10秒)
そして光の柱はやがて消滅。
土煙のカーテンがさえぎる、その風景を、
ひらり、はらりと小さなりんごの花弁が、土煙を押しのけるように舞う。
大爆発が起きたその瞬間に、アンノウンが居たまさにその場所に、
りんごの花弁が敷き詰められた聖域に護られ、桃色の髪をなびかせる、
年の頃十五、六の少女が一人、立っていた。




