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第9話:決死の救出劇!泥嵐を抜けた黒猫少女と、帰らない恩人

はじめて見て頂いた方、これまでのエピソードも見て頂いた方、ありがとうございます(^^♪

数ある作品の中で一瞬でも見て頂けることに日々感謝しています。(毎朝、毎夜PVを見て一喜一憂しております笑)

ふと、娯楽がこんなにたくさんある世の中で見て頂けたことはシンプルにすごいと思った為、前書きに書かせて頂きました。

引き続き、不定期になるとは思いますが更新していこうと思います(^^)/

 作戦が決まると同時に、俺は足音を殺して現場から数十メートルほど離れた大木の陰まで後退した。


  木の上へ音もなく登っていったリッカが、枝の隙間から白い羽を小さく振ってみせるのが遠目に見える。準備完了の合図だ。


  息を殺し、力強く頷き返すと合図を受けたリッカが、両手を広げて一気に魔力を解き放った。


  ――バサァッッ!!


  森を揺るがす突風が吹き荒れる。地面に積もった乾いた泥、無数の落ち葉、折れ枝が凄まじい勢いで巻き上げられ、一瞬にして兵士たちの周囲を濃密な泥嵐が呑み込んでいく。


「うおっ!? なんだこの風は!?」

「ぐわっ……泥が目に入った、前が見えん!」

「な、何が起きてる……!?」


  木々の間から響く兵士たちの怒号と悲鳴。

 

  今だ!


  宙を弾丸のように飛び出したシルヴァが泥煙の中へと突撃していくを見届け、俺は木陰から喉の奥に力を込め、アパートのある方角を背にして全力で声を張り上げた。


「――こっちだ!! 走れッッ!!」


  静かな森に、俺の叫び声が木霊する。

  泥嵐の向こうから、シルヴァの甲高い先導の声がかすかに届いた。


『聞こえる声の方へ走るのじゃ!』


  心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。伝わったのか……? 逃げ出してくれたのか……!?


  祈るような思いで木々の隙間を凝視していた、次の瞬間――。

  ザッ! と藪をかき分け、ボロボロの体を引きずりながら、先程の少女が泥煙を突き破ってこちらへ全力で走ってきた。


  だが、待ち構えていた俺の姿を視界に捉えた瞬間――少女の身体がビクッと強張った。


  猫の耳をペタリと伏せ、全身の毛を逆立てて急停止する。

  その瞳に浮かんでいたのは、救われた安堵などではない。先ほどまで自分を痛めつけていた奴らと同じ『人間』が待ち構えていたことへの、凄まじい警戒と絶望の光だった。


  血まみれの手で咄嗟に大剣を引き抜こうとする少女。だが、その真上を旋回するシルヴァが必死に叫び、俺もまた敵意がないことを示すように両手を大きく広げて身を乗り出した。


「俺は敵じゃない! 早く、追いつかれるぞッ!!」


  少女の鋭い猫目が激しく揺れる。

  背後から迫る泥嵐と兵士たちの怒号。目の前で必死に手を伸ばす見知らぬ人間。

  一瞬の激しい葛藤の末、生き延びるための乾坤一擲の賭けに出たように、少女は歯を食いしばって俺の掌へと飛び込んできた。


「掴まれっ!!」


  ガシッ! と細い手首を掴み、そのまま引きずるようにしてアパートの方角へ全力で走り出す。


「くそっ、走れ走れ……ッ!!」


  引きこもり生活で鈍りきった脚に鞭を打ち、根っこや木の枝をがむしゃらに飛び越えて森を駆け抜ける。

  喉の奥から鉄のような血の味がせり上がり、心臓が破裂しそうな激痛が胸を叩く。それでも、決して握った手は離さなかった。

  背後から追手が来ないのは、あの泥嵐、リッカが兵士たちの視界を完全に奪ってくれているおかげだ。


  やがて視界が開け、隠蔽結界に覆われた大樹へと辿り着いた。幹に同化するように隠されていた鋼鉄の扉の取っ手に飛びつき、少女ごと廊下へ雪崩れ込む!


  ――バタンッッ!!


  扉を叩きつけるように閉め、内鍵を素早く捻り込んだ。

  直前まで森に響いていた兵士たちの怒号と風の音が、一瞬にして遠い世界のことのように遮断される。


「ハァ……ハァ……っ! ま、間に合った……!」


  アパートの廊下に倒れ込み、肺が焼けるような激しい息を吐き出す。

  隣を見ると、床に転がった少女は即座に身を翻し、傷口を押さえながら壁まで後ずさっていた。荒い息を吐きながらも、大剣の柄から決して手を離さず、鋭い眼光で俺の一挙手一投足を油断なく睨みつけている。


  ……助けたとはいえ、そう簡単に信用できるはずもないよな。


  俺は両手を上げて見せ、刺激しないようゆっくりと、穏やかな声をかけた。


「大丈夫……ではないよな。とりあえず、ここは安全だ。お前を傷つける気はないから、安心してくれ」


  俺の口から流暢に発せられた『亜人の言葉』に、少女の瞳が一瞬だけ驚愕に大きく見開かれた。

  しかし、緊張の糸がふっと切れたのか、それとも失血が限界に達したのか――大剣を握る指先から力が抜け、壁にもたれかかったまま、静かに意識を手放していった。


「おい、大丈夫か……!?」


  倒れ込んだ少女へ駆け寄り、意識を集中させて『アナライズ』を発動する。


『対象:全身の裂傷・軽度の打撲および疲労限界』


  傷口は痛々しいが、内臓や骨に致命的な損傷はないようだ。

  101号室から救急箱を持ってくると、消毒液と包帯でなんとか見よう見まねで止血を済ませていく。

  規則正しい寝息を立て始めた少女を見て、ようやく肩の荷が下りた。


  ……さて、あとはリッカだ。


  作戦通りなら、リッカは森の隠れ場所に潜んでいるはずだ。追手がその場を去った頃合いを見計らい、自力でこのアパートへ戻ってくる手はずになっている。


  無事を信じて待つしかない。

  そう自分に言い聞かせ、俺は扉の近くでじっと待機していた。


  だが――どれほど待っただろうか。

  時計のないこのアパートでは正確な時間は分からないが――二十分、いや三十分くらいだろうか。それでも、この状況では絶望的に長すぎる時間だった。


  分厚い鋼鉄の扉の向こうからは、外の物音は一切届かない。

  だからこそ、さっき覗き見た兵士たちの下品で凶暴な顔が、嫌なリアリティを持って脳裏に焼き付いて離れなかった。


  あいつら、獲物を見失ったからって簡単に引き下がるか……?

  もし血眼になって、周辺をしらみ潰しに探していたら……?


  リッカの翼は、まだ治りきっていない。万が一見つかったら、逃げ切れるはずがないんだ。


  背中を冷たい汗が伝う。

  自分を信じてくれたリッカの笑顔が浮かび、俺は居ても立ってもいられなくなった。


「おいシルヴァ! この子を頼んだぞ!」

「ぬ!? どこへ行く気じゃ!?」

「リッカが遅すぎる! 少し、様子を見てくる!」


  引き止めるシルヴァの声を背に、俺は再び玄関のノブに手をかけた。

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