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1Kの大家さん、実は世界を救う立場でした〜訳あり亜人と紡ぐ、俺だけの再生ファンタジー〜  作者: HANA
第一章:『異世界で大家はじめました 〜鳥人の少女と始まりの1K〜』
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第3話:【迷宮改変】発動!怯える少女の深い感謝と初めての『家賃』回収

 視界が、青い光で埋め尽くされていた。


  ただ眩しいだけじゃない。脳の奥底へ、見たこともない膨大な『情報』と『感覚』が、濁流となって直接流れ込んでくる。


【固有スキル:解禁】

  ・『アナライズ(構造解析)』

  ・『ダンジョン・モディファイ(迷宮改変)』


  なんだ、これ……!?


  教わったわけでもないのに、直感で理解できた。

  まるで自分の手足を動かすように――今立っている廊下の壁や床、そして目の前の扉の『構造』と『耐久値』が、俺の意識と神経回路のようにリンクしていく。


『正面玄関ドア(木製・老朽化)/耐久力:2/100』


  ――ガウゥゥゥッッ!!


  扉の隙間から覗く、血走った魔狼の赤い眼光。

  トドメを刺さんとばかりに、巨大な影が扉をブチ破る勢いで再び跳躍した。


  来る――ッ!!

  あの一撃を喰らえば、確実に粉砕される!


  パニックになりかける思考を無理やりねじ伏せ、脳内に流れ込んできた『迷宮改変』の感覚に意識を没入させた。思い描くのは、決して打ち破られない、重厚で分厚い『鋼鉄の塊』。


  書き換えろ! あいつを完全に遮断する、絶対の防壁へ――!!


  ――ブワッッ!!


  体から溢れ出た青い光の奔流が廊下を駆け抜け、粉砕寸前の扉を包み込んだ。

  木目が一瞬で歪み、黒く鈍い光を放つ重厚な金属の質感へと変貌していく。


『正面玄関ドア(防犯用鋼鉄扉)/耐久力:5000/5000』


  激突の、コンマ数秒前――。


  ――ガァァァンッッッッ!!!!


  鼓膜を揺らす鈍い重低音。

  木っ端微塵にするつもりで全速力で突っ込んできた魔狼の顔面が、突如として現れた鋼鉄扉へと真正面から激突した。


「ギャンッッ!?!?」


  扉はミリ単位すら揺るがない。

  逆に、自らの突進スピードそのままに鼻先を強打した魔狼が、鼻骨を砕かれた悲鳴を上げて外の草むらで転がり回った。


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


  激しい眩暈とともに、自分の両手を見つめる。心臓が早鐘のように打っており、今自分がしでかしたことの異常さに、後からじわじわと鳥肌が立ってくる。


  ……マジかよ。本当に一瞬で、ドアが変わりやがった。


  だが、安堵している暇はなかった。外の魔狼はまだ息がある。

  扉の向こうから、威嚇するように低く響く「グルルル……!」という唸り声。ドアスコープ越しに覗き見れば、鼻から血を流し、目を血走らせた魔狼が傷ついた体でふらりと立ち上がり、なおも扉へ爪を立てようと迫りつつあった。


  ――扉で防いでも、一時しのぎにしかならない。あいつが別の所から突っ込んできたら終わりだ!


  どうする、何か手はないのか――!?

  焦りとともに魔狼の足元へ視線を落とした瞬間、俺の『アナライズ』が、鋼鉄扉の外側――アパートの敷地である『土の床』のデータを鮮明に捉えた。


『敷地内地面(未舗装土壌)/改変可能領域』


  ……前世では、自分の部屋すら守れずに追い出された。

  だが、ここは違う。どんなにボロくても、必要とするやつらと、俺自身にとって大切な居場所だ。


  もう二度と、この領域を踏みにじらせはしない。


「俺の敷地に……許可なく足を踏み入れさせるかよ……!」


  再び『迷宮改変』を意識へ送り込む。玄関の外、魔狼が立ちふさがっている地面の構造を、意識の中で一気に削り取った。


  深さ五メートル――地下穴へ改装!


  ――ズドンッ!!


「ギャウッ!?」


  直後、魔狼の足元の地面が一瞬で消失し、足場を失った巨体は唐突な浮遊感に悲鳴を上げながら暗闇の底へと垂直落下していく。間髪入れず、穴の天井を厚い土の層で塞ぎ、完全に閉じ込めて無力化した。


  ドスン、と地下から鈍い振動が伝わった後――静寂が、廊下に戻ってきた。


「はぁ……はぁ……っ……」


  壁に背中を預けたまま、ずるずると床にへたり込む。

  張り詰めていた糸が切れ、全身からどっと冷や汗が噴き出した。激しく息を乱す指先が、小さく震えている。


  ふと視線を落とすと、俺のジャージの裾をぎゅっと握りしめたまま、少女が恐る恐る顔を上げた。


「あ……あ……あの……ありが……とう……っ」


  その瞳には、恐怖の余韻をかき消すような、深い安心の涙が浮かんでいた。


  ――その時だった。


  ぽかぽかと、温かい光が薄暗い廊下を照らし出した。

  少女の胸元から黄金色の光の粒が溢れ出し、すうっと俺の体と、アパートの床や壁へ吸い込まれていく。


  なんだ、これ……温かい……。


  染み渡るように、体の奥からじわじわと力が湧いてくる。先ほどまで俺を苦しめていた猛烈な空腹感や、喉の焼きつくような渇きが、嘘のように和らいでいった。


【通知:住人の感謝が魔力として納入されました】

【アパートの基礎機能が自動修復されます】


  頭の中に響く無機質なアナウンスとともに、壁のひび割れがすうっと薄くなり、ボロボロだった廊下が元の状態へと戻っていく。

  同時に、玄関の周囲でざわついていた森の気配がふっと遮断され、アパートの中に静寂が戻ってきた。


「な、なんじゃこりゃあーーっ!?」


  突然、開け放たれたままだった101号室の奥から、白いチビトカゲ――シルヴァが慌ただしく廊下へ飛び込んできた。

  さっき逃げ出したくせに何事かと思えば、重厚な鋼鉄ドアと、地中に埋められた怪物の気配を目にし、目を丸くして宙で固まっている。


「お、おぬし……! もしかして、改心して大樹を守る気になってくれたのかの!?」


  目を輝かせて詰め寄ってくるシルヴァに、俺は頭を抱えながら呻いた。


「いや……俺だって何がなんだか分かってねぇよ」

「ぬ……? 無自覚でこれほどの力を……!? やはり我の目に狂いはなかったようじゃな!」


  呆気にとられるシルヴァをよそに、俺たちのやり取りを黙って見守っていた少女が、意を決したように深々と頭を下げてきた。


「あのっ……! 助けていただき、本当にありがとうございました……!」

「あ、ああ……怪我、痛そうだけど……命が無事でよかったよ」

「私……リッカっていいます。あの……あなたのお名前は……?」


  一瞬、言葉に詰まった。


「俺は……――いや。『大家』と呼んでくれ」


  もう二度と、誰にもこの手から何も奪わせない。大家、という言葉に、いつの間にかそんな覚悟を勝手に込めていた。


「大家様……! あの、もしよろしければ……私をここに、しばらく置かせていただけないでしょうか……!? 私の故郷はあの魔狼たちに襲われて壊滅してしまって……もう帰る場所がどこにもないんです……っ」


  縋るような目で見つめられ、俺は頭をガリガリと掻いた。一度助けた以上、今更「外へ出て勝手にしろ」と見捨てるのも寝覚めが悪い。


「……ハァ。よく分からないが、いいよ。アパートなら空き部屋はあるはずだから、しばらく好きに使えばいい。――ただし」


  姿勢を少し正して、言葉を続ける。


「もちろん、タダで……とはいかないぞ。住むからには、ちゃんと対価を払ってもらうからな」


「つ、対価……!?」


  その言葉を聞いた瞬間、リッカの表情が絶望に強張った。

  ぎゅっと自分の肩を抱きしめるように腕を交差させ、恐怖で小刻みに震え始める。


  必死に溢れそうになる涙を堪え、リッカは覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑った。


「う、ううっ……はいっ……! 人間に捕まった亜人が……どんな目に遭わされるか、村のお年寄りから聞いて知っています……っ! 私の……私の身体でよければ……好きにしてくださいっ……!」


「……はあぁぁっ!?」


  思わず素っ頓狂な声が裏返った。


「ちょ、ちょっと待て! なんで腕組んでガタガタ震えてんだよ! 何勘違いしてんだ!?」


「ふぇ……? だ、だって……身体で払えと……!? に、人間の方はみんな、亜人をそういう目で見ると聞いていたので……っ」


「どんなとんでもない偏見だよ! 食料調達とか、部屋の掃除とか労働力の話に決まってるだろ!!」


  頭を抱えて怒鳴ると、リッカは自分がとんでもない大勘違いをしていたことに気づき、ボッと音を立てて耳まで真っ赤に染め上げた。


「ひゃああっ……!? す、すみませんっ! か、勘違いしてましたぁぁっ! わかりました! 精一杯がんばりますっっ!!」


  あわあわと翼をバタつかせて猛謝罪するリッカ。熱気冷めやらぬ廊下に、可笑しな空気が漂う。そのやり取りを横で見ていたシルヴァはといえば――。


「ぬぬぬ……撤回じゃ! 先ほど期待したわしが馬鹿じゃった! 恐ろしい男じゃ……! 初対面の純朴な少女を言葉巧みに追い詰め、自分の手中に収めようとは……! 我の目の黒いうちは、この聖なる大樹でそんな邪でいかがわしい行為は断じて許さんぞ……ぶつぶつ……」


  一人で前言を撤回し、明後日の方向へと盛大に勘違いをこじらせている。腕を組んでジト目でぶつぶつと怪しげな独り言を呟いていた。


  顔を真っ赤にしてパニックになっている少女。勝手に勘違いして怪しい妄想を膨らませているチビ竜。


  それらを交互に見やり、俺は深く天を仰いで、本日何度目になるか分からない特大のため息を吐き出した。


「ハァ……なんでこんなことに……」


  こうして、すべてを失った引きこもり大家と、訳ありな住人たちの、波乱に満ちた異世界アパート経営が、期せずして幕を開けるのだった。

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