第14話:守護竜ついに【覚醒】!? 作戦会議と黒猫がもたらした切り札
「あたしが空から砦へ飛び込んで、大家様を探すのはどうでしょうか……!」
「ダメだ。その怪我した翼じゃ高く飛べないし、弓兵の的になるのが目に見えてる」
101号室の畳の上、リッカの悲痛な提案をクロエは即座に首を振って遮った。
「昼間に森の周囲を探って様子を見たが、あの砦は見張り台が四基、巡回兵も多い。それに日が昇っている間は視界も通りすぎる。あいつがどこに閉じ込められているかも分からないのに、白昼堂々突っ込んだら袋叩きに遭うのがオチだ。仕掛けるなら、暗くなるのを待つしかない」
冷徹な戦力差の指摘に、リッカはぎゅっと唇を噛みしめてうなだれる。
「ぬ、ならば我がこの小ささを活かし、こっそり砦へ忍び込んで大家を連れ出してやろうか! 姿を隠して潜入するなど、我が手にかかれば造作もないことじゃ!」
得意げに宙で胸を張るシルヴァだったが、クロエは冷ややかな目で一蹴した。
「夜空を飛ぶそのピカピカ光る白い体、見張りから見たら格好の的だ。潜入どころか、一瞬で珍獣として捕獲されて見せ物にされるのがオチだな」
「ち、珍獣言うなーっ! 我は気高き守護竜じゃぞ!」
痛いところを突かれて前足をジタバタさせるシルヴァに、クロエは呆れたように小さく肩をすくめた。
「……クロエさん。まだ出会ったばかりなのに、どうしてそこまで真剣に考えてくれるんですか……?」
リッカの問いに、クロエは一瞬視線を落とし、自嘲気味に小さく笑った。
「……あいつは、あたしを助ける理由なんて一つもなかったのに、命がけで手を伸ばしてきた。あんな奴を見捨てて逃げたら、一生自分を許せなくなる。それだけだ」
ぶっきらぼうな言葉の裏にある確かな覚悟に、リッカは力強く頷き返す。
だが、有効な突破口が見出せないまま、焦燥の沈黙が部屋を支配しかけた――その時だった。
ふとシルヴァが鼻先をピクピクと動かし、クロエの胸元へ近寄っていった。
「……ぬ? さっきから気になっておったのじゃが、クロエ、お主の方から妙に美味そうな匂いがするのう」
「っ……!? あたしを食う気か……!」
猫族の本能でサッと毛を逆立て、爪を立てて身構えるクロエ。その様子にリッカも慌てて割って入る。
「し、シルヴァ様ダメです! いくらお腹が空いてても、クロエさんを食べちゃダメです!」
「誰が獣人など食うか! 懐に何か隠し持っておらんかと言っておるのじゃ!」
シルヴァが前足をバタつかせると、クロエは怪訝そうに上着のポケットをごそごそと探った。やがて指先に当たった硬い小石のようなものをつまみ出す。
「これのことか……?」
クロエの掌に乗っていたのは、淡い青紫色の光を放つ透明な結晶――通称『魔石』と呼ばれるものだった。
「奴らから武器を奪って逃げる時、金目の物か何かに使えるかと思って、その場にあったのを適当にポケットへ突っ込んできたんだが……」
「それじゃ! 間違いない、それを我によこすのじゃ!」
「別にあたしには使い道もないし、ただの石ころだ。欲しけりゃやるよ」
こんな状況で、目を爛々と輝かせている様子を呆れ気味に見ながら石を放り投げると、シルヴァが宙で身をひねり、パクッとそれを一口で丸呑みにした。
「「ええっ!?」」
二人が叫んだ直後――ゴオッ! とシルヴァの全身が眩い光に包まれる。
――まるで、世界が変わったかのようだった。
部屋の空気がビリビリと震え、神聖な魔力の奔流が吹き荒れる。窓ガラスが激しく悲鳴を上げ、光に映し出された背後の壁には、みるみるうちに大きくなっていく巨大な『影』。全身の肌をチクチクと刺すような圧倒的なプレッシャーに、クロエとリッカは息を呑み、思わず腕で顔を覆った。
やがて、眩い閃光がふっと収まる。
宙に浮かぶシルヴァのサイズ感こそ変わっていなかったが、纏う空気は完全に別物だった。白銀の鱗は透き通るような神々しい輝きを放ち、碧眼の瞳は深淵のような知性と威厳をたたえている。ほんの数秒前まで「トカゲ」と揶揄されていた面影は消え去り、そこには本物の最上位捕食者――『守護竜』としての絶対的な存在感が漂っていた。
「シ、シルヴァ様……!?」
リッカが呆然と見上げ、先程までシルヴァを気にも留めていなかったクロエすら、本能的な警戒で喉を鳴らす。
そんな二人の気圧された様子を前に、シルヴァは満足げにニヤリと不敵に口角を持ち上げた。
「かっかっか! 待たせたな、皆のもの! これじゃ、作戦は決まったぞ!」
自信満々に胸を叩く守護竜。そのあまりに堂々たる態度を見つめながら、リッカとクロエは呆気に取られて顔を見合わせ――。
「「……???」」
不敵に笑う小さな守護竜。
一刻の猶予もない絶望的な状況下で、ついに『大家奪還チーム』の反撃の準備が整った。




