第11話:捕虜からの逆転!? 捕らわれの大家と命懸けのハッタリ
久々の更新です!
一旦、区切りある所までは書けたので、そこまでは毎日更新予定です(*'▽')
「だーかーら! ここの壁の補強をケチるなって言っただろ! 次の大雨が来たら、土台ごと一気に崩落するぞ!」
「わ、分かった! すぐに土嚢と補強木材を手配する!」
「あと、西側の見張り台の筋交い! 打ち込みが斜めになってて強度が半分も出てない! ちゃんと糸張って真っ直ぐ打ち直して!」
「は、はい! 分かりました!」
威勢よく指示を飛ばすと、屈強で体格のいい男たちが汗だくになりながら、慌ただしく駆け出していく。
ここは、鬱蒼とした大森林の東側に位置する、人間たちの駐屯地――突貫工事で作られた木造砦の中庭だ。手に羊皮紙の図面と炭のペンを抱え、作業員たちを顎で使いながら、俺はため息混じりに小さく肩をすくめた。
……はぁ、なんで俺は異世界に来てまで現場監督みたいなことやってんだ……?
あの日――リッカを庇って拘束された後、なかなかに過酷な試練が待ち受けていた。両手を縛られたまま、ひたすら徒歩で森の中を移動させられ、食事も最低限。ようやくこの砦に着いたと思ったら、着ていたジャージやスニーカーも、あっという間に兵士たちに身ぐるみ剥がされてしまったのだ。
「見たこともない珍しい生地と仕立ての珍品だ」――連中はそう言って、本国のお偉いさんとやらの献上品として持ち去っていった。あんなの近所の量販店で買った安物だというのに。まあ、おかげで手ぶらで帰らずに済んでやつらも満足していたから、それについては結果オーライというべきか。
そんなこんなで薄汚れた粗末な布服に着替えさせられ、不審者として簡易的な牢へ放り込まれた俺は、翌朝にかけて執拗な尋問を何時間も受け続けることになった。
そして、「森で魔物に襲われたショックで、名前以外の記憶がない」――その一点張りで、なんとかシラを切り続けていたのだ。
「おい、どこの国の回し者だ」
「ですから、本当に森で迷っただけで……」
「嘘をつくな。その妙な髪型といい、謎の服装といい、とてもただの住民には見えんぞ」
何度目か分からない押し問答の末、結局、身元不明のスパイ容疑でさらに奥の地下牢へぶち込まれそうになったその時。思わぬ転機が訪れた。
ギシッ……と、部屋の天井から木材が軋む鈍い音が響いた。
無意識に視線を向けた先で、あの光景――『アナライズ(構造解析)』による青白い数値と構造のグラフィックがフワリと浮かび上がる。
あ、こっちは普通に使えるのか。これ現代で使えたらめちゃくちゃ便利だよな……。
長時間の拘束によりだんだんと麻痺してきた頭でそんな風に呑気に分析していると、尋問を行っていた男が苛立ち紛れに軽く机を叩いた。その瞬間、振動が伝わったのか頭上の太い梁の耐久値がみるみるうちにゼロへと急落していく。
「あ、危ないっ!!」
考えるより先に身体が動いた。机越しに身を乗り出し、男の身体を全力で突き飛ばす。
直後――ドサァッッ!! と凄まじい轟音と土煙を上げて、丸太のような巨大な木材が、今まで座っていた椅子を木っ端微塵に押し潰して叩きつけられた。
「ぐわっ……な、なんだぁ!?」
間一髪で床に転がって助かった男は、呆然と倒壊した天井の残骸と、息を切らす俺の姿を交互に見比べた。
「な……なんだ今のは……!? 貴様、なぜ崩れてくるのが分かった……!?」
「え……あ、いや……」
しまった。ハッと我に返って口を押さえる。スキルの存在をバカ正直に話すわけにはいかない。冷や汗を流しながら、必死に頭を回転させる。
「あ、あの……記憶はサッパリないんですけど、なんだか建物に関する知識だけは頭に残っていたみたいで……。木の軋み方とか、重心のズレが気になって……」
……元の世界で学んだ知識もあるし、あながち嘘でもない。
心の中で必死に言い訳をしていると、目の前の兵士は青ざめた顔で考え込み、「……少し待っていろ」と言い残して慌ただしく部屋を飛び出していった。
――しばらくしても戻ってこないので、今のうちに逃げるべきだったか?なんて考えていると、厳つい鉄の鎧を纏った大男――この駐屯地の隊長らしき人物を連れて戻ってきた。現れた大男は無残に砕け散った椅子の残骸を鋭い眼光で見下ろすと、今後は俺に向けて重々しく声を発した。
「貴様。建物に関して詳しいと言うのは本当か?」
これは……どういう意図の質問だ?
唐突な質問ではあるが、まるで俺を試すような聞き方である。
だが……この質問に対する答えの選択を間違ってはいけない。直感的に俺はそう判断し、疲弊した脳に再び鞭を打った。
ここで自信満々に答えたら逆に不自然だし、完全に否定すれば用済みで恐らく本格的に牢屋送りだ。目指すべきは、怪しまれず、かつ『生かして使っておく価値がある』と思わせるギリギリのライン。
息を小さく呑み、怯えた平民のフリを崩さないまま、おずおずと口を開いた。
「は、はい……。詳しいかどうかは自分でも分かりません。ただ……昔、親に叩き込まれていたような感覚が頭に残っていて……。木の軋みや歪みを見ると、落ち着かないというか、放っておけないんです」
隊長はじっと俺の目を値踏みするように見据えた。張り詰めた沈黙が数秒続き、やがてフッと短く鼻を鳴らす。
「……フン。まあいい、嘘か本当かはすぐに分かる。この駐屯地は突貫で作らせたせいで、まだあちこち欠陥だらけでな。手が回らんのだ」
隊長は獰猛な笑みを浮かべて見下ろしてきた。
「不審者として暗い牢屋にぶち込まれるか、それとも俺たちを手伝うか……二つに一つだ。どちらを選ぶ?」
選択の余地など最初からない。
こうして俺は、「施設管理・補修指導員」としての立場を手に入れることになった。




