幽ノ坂 冬火、好かれ始める。
恐らく、私が魔女だという事はもうバレバレらしい。
かと言って、誰かが酷い事をしてくるわけでも無く、皆遠くから覗いてくる感じだ。
偶に、街中で魔女様と言われ、お婆さんや子供にお辞儀をされたり、お店で小気味いい店主にウインクしてサービスして貰えたりもする。
後は、都市内を巡回している衛兵が急に畏まって敬礼して来たり、魔術師集団の女の子達がサイン下さいと先輩に憧れる後輩女子軍団みたくはしゃいだりもしてくる。
前の世界では、家族以外誰も私に尊敬なんてしてくれなかったから、こしょばゆい限りだ。
そう言えば最初、私とラシが牢屋に入る発端となった衛兵は同じ奴だったらしく、私が魔女という事を知って、丸坊主にして謝りに来た。
なんと、心を入れ替え、衛兵を辞めて実家のパン屋を引き継ぐらしい。
また、食べに来てくださいと、恥ずかしそうに言っていた……
なにこの状況……思いの他、平和かよ。ふふっ。
いにしえの都市、ギルド受付前――
受付のお姉さんが、私を見た瞬間、カウンターの下に隠れた。
「あのースミマセン……」
私は気にせず呼びかける。
「はははははい、なななななんでしょうか?」
恐らく私が魔女だと知ったのだろう。
この人、魔女超怖がってたからなー。
「D級でおススメクエストありますか?」
ラシがカウンターを、くりんとした目で覗き込み言う。
「ああああありますよ、あああかあかあかぶぶぶちぶちぶちのはははちゅうちゅなんなんたいしゅしゅのクククエが」
全っ然わからん。
「ぶちはちゅうってなんですかお姉さん?」
私は受付のお姉さんに、ちょっとだけ冷気を送りながら言った。
「ひぃっ!!!」
お姉さんは、飛び上がりとうとう姿を現した。
私は笑顔でニッコリ微笑み待ち受ける。
「冬火ー、もうその辺にしとけよ……お姉さん、ぶちはちゅう三つ下さい」
シュカは大きく指三本を受付お姉さんに突き出した。
シュカものってんじゃん。ファーストフード店かよここは。
「ひょえっ!」
受付嬢さんは、シュカにすら悲鳴を上げる。
もはや何言っても、怖がるんじゃないのこの人。
「ぶちはちゅうのセットで、ポーションはMでお願いします!!」
ラシは、満面の笑みで両手を使いエムを作る。
ラシ……そんな現代的なノリどこで覚えたの?
「クエッ!」
あ、受付のお姉さんから変な声出た。
「そうですよ、クエが知りたいんです!私何もしませんよホント。だって……受付のお姉さんの事……結構好きですし」
私は「警戒心を根こそぎ引っこ抜いたろうぜ必殺あざとい拳」をぶちかました。
「ホントに……?」
受付のお姉さんは、焦げ茶の目をウルウルさせて言った。
かなり食らったみたいだ。それと、結構かわいいなこの人。
「はい。てか私、平和主義者なんでー、なるべく誰も傷ついて欲しく無いって思ってるかしこちゃんですし」
受付のお姉さんの目に、安心が宿り出す。
「私もかしこちゃんです!!」
ラシは、はいはいはい!と手を上げる。
「わたしもわたしも!!こけしちゃんでーす!!」
シュカは直立して、無表情になった。
私達のノリ緩すぎないか……一応、冒険者パーティーだろう?
「分かりました……取り乱してスミマセン。大人であるのに、貴方を偏見の目で見てしまった事を許して下さい」
受付のお姉さんが一礼してきた。
「だいじょぶでーす。そんなの慣れっこですし。あ、でも前みたいな怖い敵が来たら、みんなを守るために、暴れちゃうかもです!」
私は、グーっと小さな拳を握り、火のように真っ赤なお目目をぐっと細めて笑った。
「あ……はい。お願いします」
受付のお姉さんは貫かれたような顔を一瞬した。
「よっ大将!期待してるぜ!」
シュカはいきなり、私の胸をセーターでも洗うぐらいの強さで揉んできた。
こいつに、気をつけないと冗談を装った確信犯かもしれない。
「ひぃっ!!!バカ!!!なんすんだ!!!」
私は、シュカの頭を思いっきりはたいた。
「そうよ!!!まだ、お昼よ!!!」
ラシは見当違いの事を言いながら、プンスカとサルみたいなポーズで一緒に怒ってくれる。
「あははははは、あなた達愉快ね。ホントに誤解してたわ。最初に思った通り、とっても可愛い子達」
受付のお姉さんはお腹を抱えて笑っている。
「でしょ!?私達、最高のパーティーぶちかますつもりなのでよろしくお願いしまーす!あ、所で、さっきの「ぶちはちゅう」って何ですか?」
私は、受付のお姉さんに言った。
シュカの口をむにゅーと押さえながら。
「ああ、クエストね。ごめんなさい」
受付のお姉さんは、いつもの仕事モードの喋り方で続ける。
「緊急クエストが来ててね、回復薬に使われている魔水があるんだけど、それの上質な魔水が採れる穴場の洞窟に、凶暴なモンスターが現れたらしいの。黒ぶち文様の赤い大型爬虫軟体類でね、この依頼は既に、あなた達ぐらいの年齢の女の子が一人で受けてくれているんだけど、どうも私不安になっちゃって、応援チームの依頼を追加で受け付けてるの。そのモンスターの等級はC+級よ」
「その子一人で行っちゃうぐらい強いんですか?」
シュカが素朴な疑問を口にした。
「そうねー……強いんだけど、それ以前にパーティーがいないと言うか……なんというか……私も一応止めたんだけど、かなり真面目な子で、なかなか話を聞いてくれなくって……」
受付のお姉さんは口を濁す。
「訳アリっぽいですね」
ラシが、何かを察したぽく言った。
「でも、あれだよね。一人で怖がってるかもしれないから、行ってあげよっか?」
私は、会った事もないその子の気持ちがなんとなく分かる気がした。
「そうだな、洞窟は視界や足場が悪いし、イレギュラーも多いし、単独じゃ結構キツイものがあるからね」
シュカは、目を閉じてうんうんと自分で頷く。
「すぐ行こ?二人共。私、その子凄く心配になってきた」
ラシは、私達二人に切実に訴えかけるように言った。
「オッケィ、じゃあ受けよっか。お姉さん、私達行きます!」
私は、受付のお姉さんに丸サインを出す。
「ありがと!助かるわ!なんだかあの子、あなた達と縁がありそうと思ってたのよ。
とても良い子でね、超真面目さんなの。是非お願い!あの子助けて上げて頂戴。ちなみに、報酬は奮発して金貨1枚よ!でも強敵だから気をつけてね……例え魔女さんでもなんでもね」
受付のお姉さんは私に、ふふっと笑いかけた。
私達三人は、えいえいおー!とギルド中に響くぐらいに手を掲げた。
何人かは笑って拍手してくれてる。
そうして、私達はパーティーは、初めてみんなで洞窟へと赴くのであった。




