幽ノ坂 冬火、洞窟へ行く。
私達三人は、いにしえの巨大都市から出て、草原をひたすら進み、ハンドレッドゴーレムを倒した神殿さえもさらに奥へ進んだ、山岳地帯の始まり辺りにある洞窟へ入った。
私は、この山以降、モンスター達のレベルは格段に上がるのだろうと直感した。
パっと上空を見るだけでも、様々なタイプの飛竜や属性を纏った巨大な怪鳥が飛行し、多種多様の巨人のような未知の存在達が歩いていたからだ。
ちなみに、受付のお姉さん曰く、一人で洞窟に向かった女の子の名はゾディと言い、何やら剣士の名家のご令嬢らしい。
目印はきらっきらに光る美しい金髪と、同じく金色に輝くビー玉みたいな瞳らしい。
天使みたいな子なのですぐわかるのだとか……
モンスターに関しては、アネヌーヴァと言う、主に洞窟や川辺に住む、小型の爬虫類に近い存在らしいが、今回のアネヌーヴァは非常に巨体で、別種とも混ざった見た目をしている特異な超個体らしい。
山岳地帯、洞窟内――
洞窟内は意外と広く、ゾウでも余裕で通れるような道幅に、それを抜けて偶に現れる空洞内は、体育館ぐらいの広さがあった。
壁面は全てゴツゴツして青く輝いており、何か特別な鉱石なのか、暗がりでは自ら青白く発光していて、明かりが無くとも十分に前が見える程だった。
「全然モンスターいないな」
シュカが刀で突きのような構えをとりながらふざけている。
「うん、スライムばっかり」
そういうラシは、体中スライムだらけになっている。
かれこれ、スライム四体ぐらいに杖で襲い掛かかって、全部逆に撃沈している。
蟹のような形をした大きめの蝙蝠だとか、シルエットが蛇のような毒蛸だとか、歩く巨木獣だとかもいたんだけれど、何故か全部すぐ逃げるし、逃げなければシュカが一瞬で退治してしまう。
よって、私やラシが戦うのは壁や地面にへばりつくスライムだけだった。
「そうだよねー、なんか思ったより退屈」
私は暇潰しに、掌から白焔を出し、氷の剣にしてみた。
イメージは現代で吐く程やり込んだRPGに出て来る宝剣だ。
それをぶんぶんと振ってみる。
私はある事に気が付いた。
氷を操れるので、上手く集中すれば、重量が一切かからず振り回せる……
「え!!!かっけ!!!ちょうだい冬火!!!」
シュカは、私の極氷の剣に見惚れている。
「いいよ。溶けるけどね」
私はシュカに、極氷の宝剣をぽいっと放り投げる。シュカは子供みたいに見惚れて振り回して遊んでる。
それを見ているラシもなんか欲しそうだ。
んー……なんあげよかなー……そだっ!
私はラシに氷の髪飾りを作ってプレゼントした。
「初めて人からアクセサリー貰っちゃった……嬉し……」
上目遣いで、恥ずかしそうにこっちを見て来るラシ。
想像以上に喜ばれて、ちょっと申し訳ない。
ラシはウキウキとした表情で髪につけている。
その時だった――
「おいっ!災厄勇者の末裔の癖に、たてついてんじゃねーぞこら!!さっさと失せやがれ!!!」
道を抜けた先から、荒々しい罵声が聞こえる。
それと同時に、クジラでもジャンプ跳ねているかのような、鈍く計り知れない重量の音が聞こえてくる。
私達は急いで道を抜け、大空洞まで移動する。
「災厄勇者って言わないで下さい!!!」
そう叫ぶのは、綺麗な金髪が目立つ、軽装の鎧をまとったスカート姿の女の子の剣士だ。
そして、その女の子の前に、柄の悪そうな男の冒険者集団がいて、如何にも絡んでいるみたいだ。
さらには、この大空洞の最奥からアネヌーヴァ超個体が、小型クジラ程のサイズの体を悠然と動かして、ベタベタねちっこい足を踏みしめ、どんどん近寄ってきている。
「おいっ!!!何やってるんだ!!!」
私はいつの間にか、その場所へ駆け寄っていた。
前の世界でもそうだ、考えも無しにいじめを止めに入って、逆にいじめられた事がある。
「あぁ???あんだクソガキ???」
リーダーっぽい赤髪短髪の剣士は、私に剣を向けて来た。
私に力があっても、やっぱりちょっと怖い……
私はそいつらを睨みながら、ゾディの横に立つ。
遅れて、ラシとシュカも。
速度は無いが、アネヌーヴァ超個体も確実にこちらに迫って来ている。
地響きが体の芯まで怪しく伝わる。
「あなた達は……?」
その女の子は、金色のビー玉みたいな瞳で不思議そうに私達を見た。
切り揃えられた前髪がかわいらしい子だ。
「ゾディでしょ?ギルドの依頼で、君を助けに来たんだよ」
私は微笑みながら返す。
「私もね!」
ラシは楽しそうにぴょんと跳ねた。
「私もだよーん!」
シュカは両手に刀を構えて、柄の悪そうなグループに向けた。
「私なんかを……助けにですか?」
信じられないと言う顔で私達を見るゾディ。
「おいおいおい!ふざけんなよクソガキ共!おめえらマジか!?そいつは災厄勇者ルビオラの末裔なんだぞ??クソの味方すんのかぁ!?おらぁっ!!!」
男は私達にも罵声を浴びせ出した。
しかし、そろそろアネヌーヴァ超個体の距離が気になってきたのか、仲間内でコソコソと話し合いながら出口を見ている。
「クソとか言わないで下さいっ!!!!!」
ゾディは、勇者が持つような中型剣を右手に持ちながらも、フリーの左手に魔術で似た柄の盾を召喚し、その盾を前面に、先程から意地の悪い事ばかりを言う男に向かって体当たりし出した。
「ちょ!」
私は止めるのが一歩遅れた。
「遅ぇんだよ雑魚!!!」
ゾディはその男に、魔術と合成した拳法の様な、強烈な回し蹴りを盾に受け、簡単に吹き飛んだ。
「うわぁっ!ゾディちゃん大丈夫??ひどすぎだぞお前!!!」
シュカがゾディを駆け付けながら男を睨む。
「あなた最低です!!かっこよくない!!」
ラシもゾディに駆け寄って背中をさすっている。
「お前らは何も知らねぇだけだ……クソが」
女の子二人に、責められてタジタジな赤髪男。
私もすぐさまゾディに駆け付けたが、アネヌーヴァ超個体の不穏な動きに魅入っていた。
まるで何かを唱えているみたいだったからだ……
「クソ、魔術か……お前等も生きたけりゃせいぜい逃げるこったな、あれはCなんかじゃねぇ……A級の俺等でも相当骨が折れる相手だぜ……」
そう言ってリーダー格の男がアネヌーヴァ超個体を睨みつけた。
そして仲間に合図し、そいつらは出口に向かって一斉に走り出した。
「おいっどういう事だ!!!」
私がそう叫んだ瞬間。
空洞内の天井から、逃げ場を無くすように、私達全員を囲んだ極雷の檻が出来上がった……
A級グループの奴等も、外に出られらず相当焦った顔をしている。
次の瞬間――
全員の視線は、アネヌーヴァ超個体に集まる事となる。
アネヌーヴァ超個体は、魔術を唱え終わると、脱皮の様に背中が裂けて、全身が放電した二足歩行の神々しい巨大な宇宙人のような姿になったのだ。




