幽ノ坂 冬火、極雷を貫く。
「お前等腹くくれ!!!!!!」
A級冒険者達は、アネヌーヴァ超個体が脱皮して出て来た、二足歩行の神々しい宇宙巨人に一斉に向かって行った。
洞窟内は極雷の檻となり、脱出が出来なくなった私達四人は、ただ圧倒され、その光景を見ていた。
流石に、A級冒険者達は能力が高く、ただの嫌味集団かと思っていたがそうでは無かった。
瞬間移動でアネヌーヴァ超個体まで一蹴りで行く奴等が三人いて、その俊敏さとパワーを生かした破壊的な攻撃の超連撃を奴に繰り出し続けている。
残りの三人は魔術で浮遊しながら、眩しい程に苛烈な属性攻撃の魔弾をコンビネーションで放ち続けている。
しかし、いずれもアネヌーヴァ超個体は片腕を上げ、掌をかざしているだけのバリアで防いでる。
A級冒険者達の容赦無い猛攻とアネヌーヴァ超個体の完璧なバリアが、目の前で延々と繰り広げられている。
「どうする私達……」
シュカは刀を構えているが、その手には勝てると言う気迫が全く無い。
「どうするって…どうも出来ないよ。雷なんかちょっとでも当たったら死んじゃうじゃん……それに私の氷だって、あんなのには絶対通じないよ……」
そう言って私は、私が奴と対峙しないといけない空気になる事を防ごうとした。
そうなるのがとても怖かったから。
「そうだよあんなの無理だわ……全然ただのモンスターなんかじゃ無いもの……」
ラシはゾディを抱擁しながら言う。
そうでしょラシ?あんなの無理だよね。
ラシもシュカも、目の前の圧倒的な強さの正体不明な相手に、私が魔女だからどうか出来ると言う風な考えは一切持ってはいなかった。
「いててて……皆さんありがとうございます」
ゾディはやっと薄っすら目を開けた。
「ゾディ大丈夫??これで、傷めたとこ冷やしなよ」
私は掌から棒状の氷を作り出して渡した。
私の氷で出来る事なんてこんくらいだ……あいつの雷になんて絶対敵わない。
これで精一杯やってるんだ……
「え……あ……ありがとうございます」
ゾディは一瞬不思議そうにしたが、言われた通り手首や背中を冷やしだした。
ラシもゾディの背中に軽く触れ、回復魔法を唱え出す。
「あれ……痛みが少しずつ引いて……もしかしてこれって……」
ゾディがラシを驚きの目で見る。ラシは悪戯気に笑った。
A級冒険者達は体力や魔力が尽きて来たのか、かなりペースダウンしてきた。
アネヌーヴァ超個体はかすり傷一つ負ってないし、微動だにすらしていない。
私は、再度出口が無いか見渡す。やはり、完全に密閉されている。
どうしよ……
私は仲間達とゾディを見た。
シュカとラシがゾディに肩を貸して立っているが、三人とも圧倒的な戦いや、それをなんとも思ってないような未知の存在に、なすすべも無く不安そうに見上げている
。
……
私だって出来るものなら助けたいよ……
でも、どうやったらそんな事ができるの?
あんな強烈な雷見せられたら、勝てるイメージが湧かないよ……
怖い……凄く怖いよ。
そうやって迷ってる内に、A級冒険者達はとうとう自分達の一切の攻撃が通じないと理解したのか、体力が動けなくなる程に無くなってしまったのか、六人全員が地に降りてハァハァとへたりこんで膝をついた。
そして、アネヌーヴァ超個体はなにやら手を大きく振り上げ、極雷で出来た超大型の槍を召喚し出した。
シュカがエメラルドの瞳を恐怖色で見開き、唖然とした顔で言う。
「あんなの一振りされたら……この大空洞毎、崩壊しちゃうよ……」
ラシは過呼吸になるのを防ぐように、息を呑みながらそれを見ている。
そして、ゾディが突然、意味不明な事を言い出した。
「私……行きます」
私達三人は一斉にゾディを見た。
「え?どゆこと?何が出来るっていうのさ!」
私は少し怒り気味に言う。
「何もできませんよ……それでも私は前に進みたいんです。私に親切にしてくれたあなた達に、ほんの少し、数秒でも私より長生きして貰う可能性の為に、最後まで前に進んでいたいんです」
ゾディは盾を持って、よろよろと前へ進む。
……なんだよそれ、怖くないのかよ死ぬの。
アネヌーヴァ超個体は依然と極雷の槍を生成し続け、それはもう雷と言うよりカラフルで異次元な光の塊と化していた。
その時だった――
「お前等逃げろ!!!!!!!!」
気迫の籠った声でそう叫んだのは、A級冒険者達の赤髪のリーダーの男だった。
リーダーの男は、体中の魔力を集めでもしたのか、右手に輝く光を煌煌と溜めて、アネヌーヴァ超個体へと底をついた体力のまま助走の様に走り出した。
極雷の槍と比べれば、その意思は大海と一粒の雨のようなモノだったが……
やっぱお前いいやつだったのかよ……
ゾディに失せろって言ってたのも、ゾディの事危ない所から逃がそうとしてたんだろ?
なんで、お前もゾディもそんな強いんだよ。
なんで、私は力を持ってるのに、こんなに気持ちが弱いんだよ。
なんで、私が一番力を持ってるのに、一番に進もうとしないんだよ!!!!!
なんで、大切な仲間が不安不安で震えてるのに走り出せないんだよ!!!!!
なんで、私は……いつもいつも……
……こんなの、いや……
――私の心に、小さな火が灯った――
意識の中の暗がりのイメージの中に火が灯ったその瞬間、私は既に駆け出していた。
頭ん中ごちゃごちゃで、とにかくあいつを倒すイメージを心臓が燃える程に繰り返していた。
掌からじゃなく、この大空洞のあらゆる空間から白銀の爆炎が噴き出し、奴のバリアすらもギンギンに凍てついて割り砕き、極雷の槍すらも圧倒的な超絶氷で閉じ込めてしまうような最強なイメージ。
それは、極氷の白焔よりもっと上の、光すら凍結させる停止そのものの概念の温度のイメージ。
……私ならできる。
……私ならできる。
……私しかできないんだ。
……私だけがやってやる!!!!!!
イメージは即座に現実に影響を与え出し、A級冒険者達もアネヌーヴァ超個体も、いきなりの事態に何が起こっているのかと、ただただ困惑している様だった。
A級冒険者達の何人かに至っては、神にでも祈るように頭を抱えて蹲り出した。
アネヌーヴァ超個体は半身が凍結しながらも、この絶氷の犯人を私と見定め、極雷の槍を即座に私に振りかざした。
それは一瞬だったが、その一瞬すら遅い様に私の超絶氷の白焔が、極雷の槍を渦巻くように飲み込み、私は一瞬で生成した特大な白銀太刀で、凍結した極雷の槍を真っ二つに居合いをして粉々に砕ききった。
しかしそれすらアネヌーヴァ超個体は気づかなかっただろう、やつはその時には既にもう、クリスタルへと変化して白く燃焼していたから……
「お前何者だ……?」
私と同じく、ギリギリで極雷の槍を逃れたA級冒険者達のリーダーが言う。
「さぁね……無事でよかったね……ありがと」
私は自分の能力の凄まじさに圧倒しながらも、少し労ってやる気持ちも含めて言った。
「お……おう」
赤髪の冒険者は一瞬頬を赤くしてそう言った後、仲間達の元へ行って手を差し伸べていた。
私はみんなの元へ戻る。
「冬火冬火冬火!!!すっごすっぎだよーーー!!!!!」
ラシが飛びついてきた。勢いが余り過ぎて、くるんと一周する。
「冬火、君って……もう、勇者より強いんじゃない?」
シュカは大空洞に出来上がった絶氷のオブジェを見てポロっと言った。
あれ、ゾディはどこだ?
あ、いたいた。
「やっほー。大丈夫ゾディ?」
私はカチンコチンに精神的に固まっているゾディに声をかけた。
「あい?」
ゾディは涙を流しながら返事をする。
その涙は、衝撃的な光景を見たからか、ホントは凄く怖かったのか、私に知る由は無い。




