幽ノ坂 冬火、酒場へ行く。
あの後、三人一緒に街まで戻って、ハンドレッドゴーレムの討伐の報告をしにギルドまで行った。
神殿から街への帰り道、シュカは自分の今までの生い立ちなど、自分に関する事をまるで水を得た魚みたいに話し出した。
それはまるで、今まで話す相手がいなかったから爆発したようだった。
シュカは、特殊な一族の末裔らしく、それ故にどの都市を渡り歩いても、皆に煙たがられるらしい。
なにやら遥か昔、世界で幅を利かせていた刀使いの魔王が居たらしく、シュカはその末裔で、派手な黄緑髪とカラフルな装束がそのトレードマークらしい。
様々な都市の色んなパーティーに加入を所望したが、全て断られ、一匹狼の賞金稼ぎとして生計を立てていたのだとか。ちなみにランクはC級冒険者らしい。
私とラシは、ハンドレッドゴーレム討伐により、Ⅾ級へ昇格した。
いにしえの巨大都市、ギルド前、酒場――
「なっ?ダルイだろ?」
シュカは酒場まで、長々と自分の半生を語った挙句そう締めくくった。
心なしか、酒場にいる強キャラのような冒険者連中がこっちを見ている気がする……
「今まで辛かったねシュカ……もう、これからは三人一緒だから大丈夫だよ」
ラシがそう言い、シュカを女神の如く思いやりの顔で見つめてる。
と言うか、その言葉を言ってしまえば、シュカのパーティー加入は100%確定になるよ。
全然いいけど。
「ラシー!!!なんて優しい子なんだー君はー!!!」
シュカはラシに抱き着き、胸元にぐりぐり顔を埋めている。
この野郎、そこは埋め立て地じゃねーぞ。
って、最近私、口悪いよね。気をつけなきゃ。
気をつけなきゃのっちゅ!って口癖のメイド喫茶の店員さんいたなぁ……
「こしょばいよー」
ラシは、うぐぅっと薄く目を閉じ、真っ白な頬にいやらしい色を乗せている。
ラシその言い方、ちょっとえっち過ぎるからやめた方がいいよ。
「でさー、さっきのハンドレッドゴーレムの報奨金どうする?」
私は、テーブルに銀貨6枚をじゃらじゃらと出した。
ミルクスライムの討伐料が銀貨1枚だったから、今回はかなり良い仕事だったね。
まぁ、連続で同じのばっかり受けられない仕組みになってるから金稼ぎのチートは無理だけど。
ちなみに、宿一泊、銅貨2枚の相場だ。
両替は、銅貨10枚で、銀貨1枚。銀貨10枚で、金貨1枚だそうだ。
ラシが私と自分を牢屋から出すために支払った保釈金は、金貨三枚だったらしい。
その後、彼女の手元に残ったのは銀貨3枚だけだったのだ……
いつか絶対返すつもりだ。
「おいっ冬火、こんな所で銀貨出すな!」
シュカが慌てて隠してキョロキョロする。
シュカの言った通り、ゴロツキグループが銀貨の音を聞いた瞬間、いかにも悪巧み笑顔でフヒヒと笑っていたのが見えた。
アニメのモブキャラ過ぎてサインが欲しいぐらいだった。
「あ、ごめん。どうか許して。銅貨だけに」
私は、銅貨をテーブルの中心で指で弾き、くるくると回した。
「ふふふふふ、冬火天才ね。ちなみに今のは銅貨と、どうかをかけてるのよシュカ!」
ラシがシュカに、保育園の先生ばりにレクチャーした。
「それぐらいわかるよ!!!」
シュカは、おいっと鮮やかに突っ込んだ。
いちいちポーズがうるさい。
「シュカ頭良さそうだもんねー」
私は棒読みで言う。
「絶対思ってないだろ、その顔!」
シュカは生き生きとツッコミをする。
気のせいか、肌も艶やかになってる気がする。
たぶん、気のせいだけど。
その時だった――
「痛っ」
私は、肩を押さえる。まだ前の骨の飛竜との戦闘で負った傷が完治してないみたいだ。
「どしたの冬火、まだ痛むの?」
ラシが椅子から立ち上がり、私に近寄って来て、薄ピンクの頭を私の顔辺りまで寄せながら私の肩をじっと見ている。
服越しにも何かを感じ取れる様だ。
この子、地肌めっちゃいい匂い……
「うん……シュカのせいで古傷が痛むんだ」
私はシュカを指差す、まるで犯人のように。
死ぬ程無関係だけど。
「私が何した!?ただ可愛いだけだろ!!」
シュカはバンッとテーブルを叩いた。
私とラシはスルー。
「よしよし、宿帰ったらまた、回復魔法してあげるからね」
ラシは私の頭を優しく撫でてくれた。
よーし、あのドキドキタイムゲットしたっちぇよ。
「ん……回復魔法?どういう事?」
シュカの顔が、一気に不思議そうな顔に変わった。
「あぁ、ラシは回復専門の魔法使いなんだよ。どうだ凄いでしょ?」
私はラシに抱き着きながらシュカに、自慢顔をする。
「え!!!!!!!!!」
シュカは椅子から立ち上がり、大声を出した。
私達大分目立ってるかも……
「シュカ迷惑だよ」
私は、微妙に大きく揺れたシュカの胸に、鋭く言い放った。
酒場中がシュカを見ている。
というか、さっきから私達を見ていた、強キャラ冒険者グループのリーダーっぽい女の人が、反対方向の吸血鬼魔族グループのリーダーぽい男と、超睨み合ってるし。
そのリーダーっぽい金髪ロングの孤高の剣士みたいな美人さんは、ちらっと目が合った時、優しく微笑んでくれたけど、吸血鬼グループのリーダーっぽい、灰色の髪の真っ黒な翼膜を生やしてる男を見たら、口が裂けんばかりに笑ってきたから、ちょっと怖い。
「ごめんごめん、だって衝撃過ぎたから。ホントなのラシ?」
シュカはラシに、真剣な顔で尋ねる。
「……うん」
気まずそうなラシ。
「どしたの?なんかあんの?」
私は二人に聞いた。
「そっか知らないのか、知らずに二人が出会ったとはね……数奇な宿命だ……」
シュカはそう言って続ける。
「回復魔術師は、この世界に片手で数えるぐらいしかいない。
なので皆冒険者は、戦闘での負傷は薬草からの回復薬頼りなんだ。
それだけでも、どれだけ価値のある存在かわかるだろ?しかしそれに収まらず、この回復魔術師達の行く末は、究極の聖属性魔法と、不老不死の妙薬作りに必須のアイテム生成が可能になるんだ。その立場上、アンデットタイプの不死の魔王達から恐れられ、血眼で探され、女神になる前に目を摘まれたりもしている……」
シュカは、知識オタクの様に早口で語り終えた後、ラシの覚悟を問うようにその目を見た。
ラシは、ちょっと手が震えている。
もしかすると、それが怖くて旅に出て仲間を探そうとしてるのもあったのか?
……とても不安だったろうに。
「ラシ……すっげ」
私は、あえて何も考えてない奴の言葉を口から出した。
二人共拍子抜けしてる。
「冬火……言って無くてごめんね……ちょっと重いよね……そんな仲間」
ラシは、寂しそうに苦笑いする。
私が、「じゃあパーティ辞める」とでも言うと思ってるんだろうか?
「全然。私達三人で迷惑な奴全部ぶっ飛ばして、お宝沢山ゲットしまくろうよ。
魔女に、女神、刀王とか最強になっちゃてさ!」
私は二人にグッと親指を立てた。
二人はあっけらかんとした顔をしたが、次の瞬間、世界が無限に広がったみたいに目を大きく見開いて頷いた。




