幽ノ坂 冬火、白を切る。
骨の飛竜を氷漬けにした後、私達は上手く人波に紛れ込んで、その日の騒動をやり過ごした。
ほとぼりが冷めて朝が近くなった頃に宿屋に戻り、ようやく一息を尽く。
それまでの間ラシは、特に私に何も言わず、ただ静かにくっついてきて一緒に逃げていた。
さすがに怖かっただろうから、嫌われたかなと思ったけど、むしろ、前より距離が近くなって、腕とか組んで来たりもする。
ふへへ。
あんな後なのに、私の性根はあまり変わって無いみたいだ。
彼女を想う気持ち以外は。
宿屋、ベッドの上――
私とラシはベッドの上に横並びに座っている。
「冬火って強かったんだね……なんかごめんね、守るとか生意気言っちゃって。
私なんか、スライムすらまともに倒せないのに」
ラシは、苦笑いでそう言った。
「……ううん。ラシはずっと守ってくれてるじゃん。牢屋からも出してくれたし、
こんな大都市で、超心細い私の支えになってくれてるし」
能力とかより、そういうの大事。
ラシは黙って頷く。
そして、顔を赤くして思い切ったように言ってきた。
「……すごく!!!!!……すごく……かっこよかったよ冬火」
恥ずかしそうにチラチラとこっちを見ている。
「あ、うん。かっこつけてみた。ラッシーの前だから」
「飲み物みたいに言わないでよ……ふふふ。でも……ホント嬉しい」
このボケ通じるんだ……
というか、この雰囲気!
ありでござるか、ちゅーとか?
早まるな変態。
バカバカ私。
蘇れ理性。
フユカチャンリターンズ!
「ねぇ冬火、昨日ぶつけた所見せてくれない?」
「ふぃ?」
ラシは唐突に言ってきた。
昨日ぶつけたのは右肩で、実は結構痛くて強い打ち身みたいに腫れている。
「あ……うん……いいけど」
私は頬が熱くなる。
そして、少し俯いてから服に手をかけてゆっくりと捲った。
ラシは挙動不審にそわそわしながら、私と同じく頬を赤く染めている。
私は完全に半身が見える程に服を捲った。
やっぱり、いつもは真っ白な肌が、赤と緑色になって腫れあがってる……
現代だったら、学校三日は休んでるレベルだ。
「痛そう……」
ラシが滑るように私の肌に触れた。
「ふうぅ!」
私は、こしょばくて変な声が出た。
不意に目が合う。
お互い恥ずかしくて反らした。
きっと、私のガーネットみたいな赤い瞳は、赤ちゃんみたいに潤んでただろう。
バブ過ぎ注意報だ。
「じゃあ、始めます!」
ラシが、えっへんといきなり立ち上がる。
な、な、何を!!?
ラシは空間から杖を取り出し、それを私の肩口に近づけて呪文を唱えだした。
すると、みるみる内に私の傷が癒えていく。
「す、凄いよラシ!!!魔法使えたんだ?」
ちょっと失礼な言葉が出た。
「うん、回復魔法だけだけどね。私そういう体質みたいなの。叩くしか出来ないって思ってた?ふふっ」
私はぶんぶんと首を振る。
ちょっと思ってたけど。
まぁでも、だから戦う時に杖で叩くオンリーだったんだ、パーティー組みたかったの納得。
「よし、これで大丈夫。魔女さん!」
ラシはちょっと悪戯気っぽく私に言った。
私はなんて返せばいいのか分からなかったから、とりあえず抱き締めてみた。
ホントは分かってたけど、抱き締めたかった。
「……あ、ありがと」
ええーい!どうにでもなれー!
私はラシを抱き締める腕にギュっと力を入れる。
ただの友情を少し超えた何かを伝える為に。
「あ……う……うん」
ラシは心臓をバクバク言わせながらも、抱き締め返してくれた。
そして、しばらく沈黙した後、私達はニコッと笑い合って離れた。
その後私達は、思い切って白とか切ちゃって外に出てみようよ!と言う話になって、ギルドへ行きモンスター討伐の依頼を受注した。
受付の優しいお姉さんは、私達の事を心配してくれてたらしく、私達をみるなり笑顔で手を振ってくれ、絶対に魔女に近寄っちゃだめよ!?と魔女の私に十回ぐらい念押ししてくれた。
依然、宿屋の前には氷漬けの骨の飛竜と大蛇がオブジェのように派手に道端に君臨し、街中の人が群がってる。
街なかには、かなりの数の衛兵が出回っており、一斉に誰かさんを探しているようだ。
それはきっと、私さんだ。
「見つからないかなぁ?」
ラシは心配そうに私を見る。
「だいじょーぶだって!ツインテール、ちょっとだけ低く結ってるから!」
きっとあの場にいたみんなは、高いツインテールの私を探してるんだろな。幻想に引っかかれククク。
「だと……いいけど」
ラシは若干、意味あるのかなぁと私に言いたげな顔をした。
私達は街を抜け、神殿へ向かっている――
ハンドレッドゴーレムと言う、モンスターを討伐する依頼を受けたからだ。
なんと、報酬が宿屋一ヶ月分もあるし、レアな宝箱が神殿内に結構あるらしいからだ。
もはや、ちょっとの間ここでお金を稼いで、ラシと二人で贅沢三昧の甘い日々を過ごすのもいいなって妄想が頭に駆け巡り、私はやる気が有頂天だった。
理外の者が作りし神殿――
私達は大きめのデパート程に巨大で、人の気配がなく伽藍とした神殿を歩いていた。
あまりにも何も無くて、無心でひたすら歩いてる内に、それっぽい奥間の部屋があり、なんとなく入る。
ラシは、ハンドレッドゴーレムの手配書をむーっと細めで眺めている。
「どしたのラシ?」
「あ、うん。どういう意味の名前なのかなーって確認してたの」
「へーどういう意味の名前だったの?手が赤いとか?」
ハンドがレッドならきっとそうに違いない。簡単です先生!
「ああー……えーっと……違くって、顔が100個あるらしいの」
そう言った時のラシの顔は、まるで怖い話の語り手のようだった。
「えええ嘘!!!顔が100個!!!何処に!!?まさか全部に!!?」
私は鳥肌が立ち、後ろに飛びのく。
だって、脇とか尻とかにもあったら怖くない?
「ホントだよ……だって……」
ラシは、まだ怖い話の語り手オーラを纏いながら私の後ろを指差した。
私は顔の血が一斉に引いて即座に振り向く。
そこには……
金ピカな無数の石で出来た五メートル程の体長のゴーレムが、仁王立ちでこっちを見ていた。さらによく見ると、一つ一つの大きな石に顔があり笑っているじゃないか。
さらによく見ると、面白い所にまで……
「ぎゅっぴーん!とーりーはーだーなんだけどー!!」
私は叫びながら、全速力で走り出す。
「ちょ、ちょっと!冬火!!おいてかないでよぉー!」
ラシは、ふへーと萌えボイスを発しながら、私の後ろを必死で追う。
ハンドレッドゴーレムは、モンスター言語を叫び、地響きを立てて追って来る。
きっと面白い所にある顔も叫んでいるに違いない……
マジ恐怖。
「ぎょえええ!!!」
私達二人は同じような声を上げて走って逃げ回る。
その時だった――
「とうっ!!なんで魔女が逃げるんだい!?」
そう言って、戦隊モノのヒーローみたいに私達の目の前に現れたのは、昨日、私達の前に立ちはだかって守ってくれた忍者の女の子だった。
カラフルでちょっと露出高めな忍者の服に、背中まで伸びた黄緑の綺麗な髪を振り降ろし、エメラルドの瞳を輝かせ笑っている。
ちょっとだけ、私流石でしょ?感が強い。
私とラシは顔を見合わせる。
「任せまーすっ!!!」
ビュイイン!!!
私達は二人声を合わせて、忍者の女の子の横を通り過ぎた。
「おいっ!!!流石に最低かっ!!!」
忍者の女の子は、まるで私達の仲間であるような息ピッタリなノリで、そうツッコんだ。




