幽ノ坂 冬火、突撃する。
魔王ゲドネオンはいにしえの巨大都市に接近し、塔程の巨大な杖を振りかざしだした。
虚空に巨大な魔法陣が出現する。
嫌な予感がする……
私は魔王ゲドネオンの目線に合わし、魔氷の壁の生成をスタンバイする。
次の瞬間――
透き通る朱色の熱線が、都市に向かい直線的に放たれた。
私は即座に、巨大な魔氷の壁を展開する。
熱線と私の絶氷は拮抗し、なんとか受けているが長くは持たない……
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私は叫び声を上げ魔氷の壁を修復し続ける。
ラシは光円を出現させ、バフをかけてくれている。
勇者ガーデンが前に出て、黄金色のバリアで私の魔氷の壁を覆った。
「よくやったぞ、白銀の魔女!相変わらず笑えねぇー威力だ」
勇者ガーデンは笑いながら私にそう言った。
勇者ガーデンが本気かは知らないが、二人でギリギリ耐えるような威力だ。
その時だった――
ヴォオオオオオオォォォォォ!!!!!
炎の化身アズヴァーンが無数の火柱の壁を出現させ、魔王ゲドネオンの熱線も私達のバリアや壁も全て炎でかき消した――
なんて威力……
アズヴァーンは涼しい顔をしている。
魔王ゲドネオンにアズヴァーン。その別次元の強さに、一同は緊張した面持ちで強く武器を握り出す。
「何の意思も誉れも無い弱き炎じゃな。じゃが民達には恐ろしいであろう。今一度聞く、其方らはあれらから民を守れるのか?」
私も含め、そこにいる冒険者全てが、それぞれに自分の力と背負う物を再確認する。
「やってやるよ!!!あのクソみてぇな攻撃しやがる前に完璧に仕留めてやらぁ!!!」
ドアドラは一人、今にも駆け出しそうな勢いでブチギレて血色の稲妻を背中から大噴射させ大声で叫んだ。
「ほう……」
アズヴァーンは顎を撫でてドアドラを凝視する。
「誓おう。例え私の身が滅びようとも、我が心に宿る秘竜達のアギトで奴を喰らい潰す……」
アルメヒは、試練の大迷宮の最深部のボス、オパールの蛇巨竜と同じ七色に輝くオーラをギラギラと放出している。
手に持つ特大剣の形状は変わり、宝石箱をぶちまけたみたいにカラフルに輝いて、先端は蛇竜の鋭い牙のようになっている。
「あなた達変わったわね……」
勇者一行のリオナが二人を真剣な眼差しで見る。
吸血種の体に白の聖騎士のような格好をして混乱の中に凛と咲くその姿は本当に綺麗だ。
「私もやるから!皆の為に頑張るよ!」
私は馬鹿だからカッコイイ言葉とか出せないけど……
でも……みんなをちゃんと守って幸せな結末に絶対してあげたい!それを心が燃えそうな程に思うってるのは本当なんだから!!!
「冬火といったか?少しは良い面構えになったではないか」
アズヴァーンはククッと笑った。
「可愛くなったって事かな?」
こういう所なんだよね、でもこれが私。
「そうではない」
アズヴァーンは沈黙の中、容赦なく否定してきた。
……微妙に傷つくし、滅茶恥ずかしい。私のパーティーとルヌしか笑っていない。
「準備できてるか!?ホルー、ニクルズ??」
勇者ガーデンは、ドアドラやアルメヒの顔を見て、先輩らしく心地良い笑顔になり、特大の黄金剣で魔王ゲドネオンの指した。
「勿論です。この人数なら今がチャンスかもしれません」
ホルーと言う宇宙人の魔王は、自分の体長程の特大弓を空間から出現させた。
それはとても近未来的で高度な機械の様であり弦の無い弓であった。
ホルーはその弓を持たず、六本の腕で変わった構えをとっている。
「行こう。奴の耳に触る声はもう聞きたくはない」
黒豹の魔王ニクルズは気配こそあるが体は半透明になり、ほぼ大地と同化しだした。この巨体と牙で透明なのは末恐ろしいな……
「さあて、あんた達がどれくらい強くなったか、お姉ちゃん近くで見ててあげるわ!」
リオナは両手をパンと組み合わせて、女性らしくニッコリと首を傾げた。
そして、両端が鋭利な螺旋状の長いランスを背中から引き抜く。
次の瞬間には、ランスの螺旋部分に血色の魔圧がジュルルルルと流動しだした……
「邪魔すんなよリオナ」
ドアドラが反抗期の弟のような言い方をする。
「ちょっと、やりずらいよねー」
ソレイは知的な反抗期と言った感じだ。
「リオナ姉……無理しないでね」
ルヌは皮肉で愛らしい妹って感じだ。
「もうみんなっ!生意気になっちゃってー!」
リオナはプンプンと顔を赤くして拗ねている。
このお姉ちゃん……良過ぎるな。
「間違いなくぶっ倒そうぜ、俺は誰の泣き顔も見たくねーんだ」
きっとゲイドは、孤児院の子供達の事を言っているんだろうな。
「当たり前だね。倒さないと街になんか帰れないよ」
リチェは両手に毒がグツグツと煮立つ大型短剣を握っている。
心なしか、その毒はあのヒュドラの毒の気配にほんの少しだけ近寄ってきている……
この戦い勝たなきゃ……
それに都市を絶対に一撃も攻撃させちゃダメだ。
「ねぇアズヴァーン、お願い聞いて貰っていい?」
私はアズヴァーンを見つめて尋ねた。
「なんじゃ?」
アズヴァーンは輝く炎の肉体をユラユラ揺らす。
「さっきみたいにあいつの熱線から都市のみんなを守って、ミゼリア王女の結界が出来るまででもいいから、本当にお願い……」
勇者一行の能力は知らないが、結局の所、あれを防がないと私達の負けだ。
そして、それが可能なのは現段階ではアズヴァーンしかいない。
あれを様々な角度で連発されたら私じゃ止められないから。
「仕方ないの、封印を解いて貰った礼じゃぞ」
アズヴァーンは一瞬の迷いも無く了承してくれた。
私は既にアズヴァーンを心から信頼している。
きっと予言の巫女シノンもこんな気持ちだったんだろうね。
「ありがと、だいちゅき」
私は氷を纏いアズヴァーンの炎の足に抱き着いた。
「やめんか馬鹿タレ!」
アズヴァーンは少し恥ずかしそうに怒った。
「無理だけはすんじゃねーぞひよっこ共。横で死なれたら後で目覚めが悪いからな」
勇者ガーデンは私達新米冒険者に言った。
「ガーデン、コイツ等は弱くねえぞ」
ドアドラが真剣なトーンで即座に返す。他のS級冒険者も同意のように頷いてくれた。
「回復は任せて下さい!!!」
ラシは激しく輝く多層の光円を出現させる。そして、背中には光で出来た羽が出現した……
「ラシ!!!羽生えてるじゃん!!!え!??どゆこと!?」
私はいきなりの成長に戸惑う。
「魔術書で覚えちゃったの!えへへ」
嬉しそうに宙に舞うラシ。
「空飛ぶ回復術師か……まるでエルミィのようだな」
アズヴァーンがボソリと呟いた。
「ラシちゃん頼んだよ」
ソレイは感心したように頷く。
「絶対やれます!!!」
ゾディはビー玉みたいな金眼に闘志を輝かせる。
「まさかこんなに早くみんなで魔王と戦う事になるなんてね、全く不思議だよ」
シュカが私の肩に手を回し、悪友のように微笑んだ。
私はシュカと拳を突き合わせる。
ふと、ディーネが目に入った。少し戸惑っているみたいだ。
「ディーネ。ディーネは街の人といてねここは危ないから……」
ディーネは武器を持っているが、私はまだ彼女の力を知らない。
もし強かったとしても、記憶が曖昧な今戦うのは危険だと思う。
しかし――
「いえ、私も行きます。少しはお役に立てる気がするので」
ディーネは近未来的な蒼いブレードを胸に持ち上げ握りしめる。刀身のアスタリスクのような文様達が輝きだした。
さらには、ディーネは何もない虚空の空間を階段のように上りだす、身は驚く程に軽やかだ。
一同はその能力に唖然とする。
「ディーネさん……その能力は?」
ゾディが不思議そうに眺める。
「恐らく、重力操作だと思います。身に沁みついているみたいで……」
ディーネは完全に重力を自分の物のように操作し、空間を逆さに歩いたり、抵抗無視の速度でひょいっと瞬間移動のように飛んだりする。
そんな強力な能力を、優雅に無垢白の髪をたなびかせ、スラっと伸びた四肢を躍らせ、レモンイエローの瞳を楽しそうに光らせ発動するさまは、やはりこの星の存在には見えない。
「なかなかに揺れるな」
勇者ガーデンは魔王ゲドネオンを睨むより渋い顔で、ディーネの胸を見ながら言う。
「あんた今のはないよ?」
リオナがそう言った時には遅く、女性陣は皆、白い目で勇者ガーデンを軽蔑していた。
「何はともあれ、皆、想いが固まったみたいだな……」
アルメヒは、いよいよ間近に迫って来た魔王ゲドネオンを堂々と貫くように睨む。
そして、唐突に駆け出した――
それに続き、この都市を絶対に守らんとする者達は、無限に広がる草原を一斉に踏み蹴って、勇者達の風を巻き起こし、魔王ゲドネオンに突撃した。




