幽ノ坂 冬火、ディスられる。
私が新武器ブリズディアを扱う練習をしている間に、私が今いる反対側の、いにしえの巨大都市北門辺りの草原で大変な事態が起きていた。
さて、帰ろうかと街の門へと移動していた私に向かって、箒に乗った魔術師が途轍もないスピードで飛んで来る。
「冬火ちゃーん!!!至急反対側の門まで来て!!!」
なんとそれはギルド受付のお姉さんで、大慌てで私を箒に乗せて飛び立ち出した。
「うおおお!風つっよ!」
私のツインテールは風で大きく振り乱れる。
「しっかりつかまっててね!!落ちたら死んじゃうから!!」
受付のお姉さんは濃い茶色の髪の上に、やけに可愛いピンクのカチューシャをしていて、それが今にも風で落ちそうだ。
そんな事を気にしないぐらい焦げ茶の瞳は真剣に焦っている。
「安全運転でお願いしまーーーす!!!」
私は半ば悲鳴で懇願する。
「これでもまだ半分のスピードなのよぉー!!」
受付のお姉さんは、さらに加速し出す。
「ひょえええ!!!受付のお姉さん何者ですかーーー!!?」
私が悲鳴を上げながら、良い匂いのする背中にがっつりしがみつくと彼女はこう言った。
「ピミミよー!私のな・ま・えー!!」
ピミミさんは自らも絶叫しながら自己紹介し出した。
そうじゃないんだけど、そう言えば名前知らなかった。
確かに……これはやばい。
いにしえの巨大都市北門辺りは見るからにとんでもない事態が巻き起こっていた。
ざっと見るに、私が知っているS級冒険者は全員いるし、A級やB級らしき冒険者、都の衛兵も大集結している。
その傍らに私のパーティーもひっそりといた。笑顔でこっちに手を振って飛び跳ねている。客観的に見たらマイペースな仲間達だな。
そして、それら全員の前には異質な四体の存在がいた。
まず、炎の化身。
メラメラと様々な原色の色がミックスされた炎をぐるぐる巡らせて、目の前の三体を睨んでいる。
一人はラフな砂漠の民のような恰好の男。王が羽織る様な鈍い漆黒のマントを纏い、特大の黄金大剣を持っている。
その横に、7メートル程の巨体の黒豹。顔に大きな傷と、白銀に輝く鋭利で巨大な鎧を所々に装着している。牙が私の胴より大きい。
最後に、5メートル程の人型宇宙人。頭と肩がくっついていて腕が六本ある。頭や胴に鉱石が埋まっていて、それが終始点滅している。洞窟にいたアネヌーヴァ寄生種に雰囲気が似ているが全く種類は違うのだろう、とても知能が高そうだから。
「ピミミさん、あの真ん中で降ろして!」
私は風に負けない大声で言った。
「えっ!真ん中ぁ!!?」
ピミミさんは手が震えだし箒がガクガク揺れた。
あ、この人滅茶苦茶怖がりだったんだ。
私は、取敢えず希望通り降ろして貰った。
ふぅ……
そこにいる存在全てが私を一気に見た。
ちょっと派手な登場過ぎたかなぁ。
「おう、白銀の魔女か。近くで見ると意外と胸が小せぇんだなぁ。俺は勇者ガーデンだよろしくな!」
黄金の大剣を持った勇者ガーデンは、私史上最低な挨拶をしてきた。
「あのぉ衛兵さん達、この人百年牢屋にぶち込んで下さい!!出来れば今すぐにで!!」
私が手を上げ大声で言うと、私の知り合いや衛兵達が大笑いし出した。
「フハハハハハ。賛成じゃ!そ奴はちと生意気じゃからの!それより久しいの、熱き者よ。元気しておったか?」
アズヴァ―ンが喋ると、勇者ガーデン達はアズヴァ―ンを一斉に睨んだ。
「まずまずだったかなぁ。そっちはどう?まさか暴れたりとかしてないよね?」
私は心配な顔で尋ねる。
「まずまずじゃったな!フハハハハハ!」
静まり返る軍勢に、アズヴァーンの声が響き渡る。
「怖いんだけど……」
私は炎の化身を見上げて溜息をつく。
「冬火ちゃんさっきのは許してあげてね、ガーデンは凄く馬鹿なの……」
ピミミさんはごめんと手を合わし、勇者ガーデンの頭をはたいた。
「いてぇ!!!馬鹿ってなんだよ!」
ピミミさんと勇者ガーデンはじゃれ合い出した。
「あのぉ……お二人はどういう関係で……?」
私は微妙に気になったので聞いてみる。
「あー俺達はパーティーだ。そこにいるリオナも含めてな。リオナはお前も知ってるドアドラやソレイ、ルヌの師匠役なんだぜ?」
「やっほー!あの子達のお姉ちゃん代わりでぇーす!」
そこにいたのは、ドアドラ達と種族の系統が同じの吸血鬼お姉さんだった。
気品ある輝きのプレイトメイルを纏い、灰髪を綺麗にポニーテールで結っている。
相当な美人で男装剣士って感じだ。
というか……受付のお姉さん、勇者一行だったんだ。散々いじっちゃったんだけど。
「もうガーデンさんったら、女の子にいきなりハレンチな事を言ったら嫌われますよ?白銀の魔女さん、私はホルーと言います。他の星の王である者です。まっ、小さい星ですが」
腕を六本同時に出されて私は困惑する。一応両手を出す。
片方の腕に六本で握手された……
「其方が白銀の魔女か?えらくひ弱そうな娘だな。我は、東の大密林の生ける誇りある種族の王、黒豹の魔王ニクルズだ」
魔王ニクルズが空を飛ぶ鳥すら落ちそうな特大の咆哮を上げた。
「うるさくてかなわんわ。さっさと跪かせておいた方がよかったかの?」
アズヴァ―ンが耳らしき部位を抑え、嫌そうに首を振っている。
「なんだと?」
魔王ニクルズの巨体がのそりと前に出た。
勇者ガーデンは、特大の黄金大剣を魔王ニクルズの前にやり、首を振って制止した。
異質な三の存在と、アズヴァーンはもはや一触即発の雰囲気だ。
「まぁまぁ……」
私はなんとなくなだめる。腰のブリズディアをしっかり握りながら。
その時だった――
ミゼリア王女が、私の隣に出て来て慌てて言った。
「ガーデンさん、ホルーさん、ニクルズさん、一旦話し合いましょ!?
まだ、炎の化身は敵か不明ですし!!」
三体は顔を見合わせる。納得はいってなさそうだが、軍勢が心配そうに見ている雰囲気を感じ取って少し落ち着いた。
「まぁ、ミゼリアちゃんがそう言うなら……」
勇者ガーデンは、ミゼリア王女の胸を見ながらふんふんと頷いてそう言った。
そして、私の胸を見てから、つまんなそうにアズヴァ―ンに見直った。
ダメだ!!!滅茶苦茶セクハラ野郎だこいつ!!!
いにしえの巨大都市の敵、こいつにしよう!!!みんな!!!
「賢明であるな、善き王女だ。安心せぇ、その王女の言う通り、我は敵ではないぞ。もし敵であれば、其方等など瞬く間も立っておられぬからな」
「お前も安心しとけ。いつかぶっ倒してやっから」
勇者ガーデンは、堂々と前に出て鼻で笑った。恐ろしい魔圧で地面が揺れる。
「本当に敵じゃないの?アズヴァ―ン?」
私はみんなに危害は加えないでね?と訴えかける目をしながら言う。
アズヴァーンは私の言葉には返さず、ただ私達全員を遠く眺めた。
「ああ懐かしい……この眺め懐かしいぞ……まるで昨日の事の様にも感じるがの」
「懐かしいって……?そう言えばどのくらい眠ってたの?」
私はアズヴァーンに尋ねる。
「お主らの時では1000年経っておるぐらいじゃの。眠っていたのでその実感など全く無いが……」
「1000年か……」
私は小石を蹴っ飛ばしながら、一緒に感傷に浸ってあげた。
アズヴァーンは誰も見ず、虚空に尋ね出した。
「ルビエラ、フィロミナ、エルミィ、そして予言の巫女シノンよ……其方等はもう本当におらんのか……?」
ミゼリア王女が驚きの目でアズヴァーンに聞く。
「あなたは予言の巫女シノンを知っているのですか!!?」
「当たり前じゃ。あやつは我が思うこの世で最高の冒険者共を束ねるおなごじゃったからな。至極滅茶苦茶な奴じゃったが……フハハ」
アズヴァーンは記憶を楽しそうに想起しているようだ。
その言葉を聞いた、皆は等しく不思議な顔をしている。
「え?ゾディやシュカのご先祖様って同じパーティーだったの?ミゼリア様」
私はミゼリア王女に驚きの表情で聞く。
「実は私もよく分からないのです。何故なら、確信に至る部分の歴史的証拠が意図的に壊されていたり、明らかにおかしな伝承を混ぜられて湾曲され、真実が全く見えないのです……」
ミゼリア王女は頭を抱えて考えている。
「わかりきった事よ。怖いのじゃ、伝説を思い出され、再び其方らが歩み出す事がの」
アズヴァーンはフフッと笑い、再び私達全員を見た。
そしてほぼ私にしか聞こえないような声で小さく言った。
「しかし、もう手遅れのようじゃがな……シノンよ……其方の予言通りじゃったな……」




