幽ノ坂 冬火、親切にする。
その後私は、まだハッキリとしていないディーネをラシと共に肩に抱え、メンバーのみんなと最下層のボス制覇によって入り口と直通したショートカットの階段を一気に駆け上がった。
ディーネは記憶が曖昧みたいで、言われるがままに私達について来てくれた。
不安そうに辺りを見渡しながら、何もかもが初めてみるような、まるで私のように異世界からやってきたみたいだ。
そして私達は……
ようやく、懐かしくもあり恋しかった地上へ、全員が無事生きて脱出出来た――
草原が何処までも広く、空も無限に高い。
吹きすさぶ風に自由を感じる。
「きおっちいなー」
シュカがいつか聞いたような言葉を吐く。
「おい!!!なんだあれ!!!」
ドアドラが大きな声を上げ、すぐ傍を指差した。
そこには、三十メートル程の巨大な飛空艇が出現していた。
草原があった地面が割れ、巨大な円形の石板のようなモノのが現れ、その上にそれは乗っていた。
「さっきの振動、あれが地面から出てきた音だったんじゃない?」
リチェが飛空艇に近付いて行く。
「じゃあっ!この船も報酬って事ですか!!?」
シュカは目をきらきらさせ駆け出した。
「もしかしてこの剣……あれとなんか関係あんじゃねーか?」
ドアドラが、最下層の報酬で手に入れた、いにしえの宝剣をみんなに見えるように持ち上げた。
その見た目は、やはり剣なのだが、凸凹していて戦闘に使用するには無駄に芸術的で、よく見れば飛空艇のデザインや文様に似通った所がある。
「あり得るね。それは明らかに戦闘用じゃなさそうだし……一種のシンボルや王家のレガリアのようだしね。いにしえの巨大都市には空飛ぶ魔導機が存在していた歴史もある事を考えると……なんらかの鍵なのかもしれない」
ソレイは指で剣の文様をなぞり、飛空艇を凝視する。
「船と鍵ですか……まるでこの先を暗示しているみたいですね」
ミゼリア王女が、青い瞳を澄ませ静かに呟いた。
その美しい水色の髪は、爽やかな草原の風に吹かれる。
「怖いかい?」
アルメヒがミゼリア王女に尋ねる。
最下層の竜の能力を獲得したアルメヒは一見分からないが、風格がより一層増した気がする。極偶に最下層の竜と同じくオパール色の魔圧を漂わす時がある。
「いいえ!凄くワクワクします!」
ミゼリア王女はカラッとした笑顔でそう言って、リチェやシュカと同様、飛空艇に走り出した。
そして私達は、全員がその飛空艇の上に乗り、みんなでわちゃわちゃと騒ぎ始めた。
飛空艇は二十人程度が乗れそうな程に広大で、船体上部は大きく開放された甲板になっていた。
甲板の中央には内部区画へ続く階段があり、そこには簡易的な居住スペースや、私にはよく分からない仕組みの複雑な機械が沢山並ぶ機関室が備えられていた。
ソレイ曰く、勇者ルビエラの時代に当たり前に存在していた技術らしい。
現在の文明はその名残りを少し受けた技術しか持ててはいないらしく、それは、幾度となく文明は高度に発達してきたのだが、毎度他の侵略によって終わりを迎えてしまっているようなのだ……
予言に関しては、その巡りを終わらせてくれる意味合いもあるのだとか……
甲板から続く船首部分には操縦できるような所があり、複数の操作ボタンや映像を映し出す小型モニターが並んでいた。
「やっぱりな……」
ドアドラが、船首部分のコックピットにある、細長い穴といにしえの宝剣を見比べる。
「このボタン、古い言葉でバリアと書いています」
ミゼリア王女がちょんとボタンを触る。
私とラシに抱えられているディーネは、みんなの会話を聞き状況を整理しているみたいだが、相変わらずふらついている。
「ディーネ大丈夫?」
私は背中をさすり、水と簡易的な食料を渡した。
「はい……なんとか。これ……下さるんですか?」
ディーネは、私の瞳をグッと見つめ、何故見ず知らずの私なんかに?と言うような表情をした。
「勿論だよ!ここにいるみんなも仲間だから安心してね!ねぇラシ!」
私はラシに向かって大きく笑う。
「うん!大丈夫だよディーネ!」
ラシは、少し衰弱しているディーネに回復魔術をかけてあげている。
「これは……あなた達は一体……?」
ディーネはラシの魔法が効いたようで顔色がどんどん良くなり、私のあげた水や食料を食べて、一人で立ちだした。
ディーネを含め、みんなはコックピット付近に集まる。
「ディーネさん、恐らくあなたは長い間眠っていたので、今の状況に困惑していると思いますが、私達全員、あなたをサポートしますので安心して下さい。私はこの地を統べる王女ミゼリアと申します。ここにいる皆さんは、なんぴとも攻略不可能な試練の大迷宮を完全制覇し、あなたを最下層から救出した真の冒険者達なのです!!」
ミゼリア王女が胸を張って私達を見渡した。
ディーネも同じくみんなを見渡すと、それぞれ頷いたり、グーとポーズを取ったりして、新しい仲間を迎え入れている。
「ありがとうございます、皆さん。記憶がほとんど無いので、迷惑をかけるとおもいますが……よろしくお願い致します」
ディーネは近未来的なブレードを胸に掲げ、まるで高貴な王族や、位の高い兵の様にお辞儀した。きっと体に染みついているのだろう。
「よろしく」
アルメヒが優しく握手を差し出した。
ディーネは手探りでその白い指を、アルメヒの手に絡ませた……




