幽ノ坂 冬火、キスする。
私達が、オパールの蛇巨竜を倒した後、試練の大迷宮は途轍もない音がし出したので、みんなして焦ったが、次第にそれは止んで、今のは何だったのだろうと首を傾げた。
ドアドラが、フロアの真ん中に現れた、いにしえの文様刻まれる宝剣を掴んで不思議そうな顔をしている。
「なんか凸凹してんなこの剣……戦闘用って感じじゃねーな」
「ドアドラさん、ちょっと貸して下さい」
シュカが「ほら早く」と急かしている。
「ダメだ。お前は落として壊しそうだ」
これに関してはドアドラが正しい。
「えーんケチ。モテないですよそーいうの」
シュカがドアドラの脇腹をつついた。
「んぐ……やめろ馬鹿タレ」
ドアドラがシュカの頭を叩く。
そんな時、最奥の棺の前にいるミゼリア王女が高い悲鳴をあげた。
私達全員が駆け寄る。
一同全員が、棺の中を見て驚愕した。
そこには……
美しい乙女が、一人静かに眠っていた。
無垢白の長い髪で、涼し気な目元。
女の子らしい小さな顔のパーツ。
ミゼリア王女やアルメヒぐらいの、スラっと高い背丈。
白と青を基調とした気品ある服。
お姫様っぽいけど、何故かショートパンツだ。戦闘服っぽい。
胸には近未来的なブレードを持ち、そこにはアスタリスクみたいな文様が沢山刻まれ、まるで銀河みたいだ。
「か、かわいい……」
ゲイドが息を呑んで言った。
「ええ、確かに」
ミゼリア王女も頷く。
「触って良い……?」
ルヌが手を伸ばす。
「ダメだ、なんでもかんでも触ろうとするなチビッ子共」
ドアドラが腕を組みながら言う。
「何処かの姫みたいだな」
アルメヒが顎に手を当てて言う。
「この子が、ダンジョン制覇の報酬なのか?」
ソレイが隈なく観察する。
「あんた見過ぎよ変態」
リチェがソレイに言った。
「いや、そう言うつもりでは……」
あ、ソレイも顔赤くなるんだ。
「絵本に出て来る、星のお姫様みたいです。凄いかわいい……」
ラシがうっとりしている。
「ん?蓋の裏に何か書いてありますよ?」
ゾディが言った。
ミゼリア王女が読み上げる。
「未来に現れし選ばれし者よ。その停止の焔をもって、彼の者の凍てつきし心を溶かし、再び歩ませよ……」
みんなが私を一斉に見た。
「え……」
私っぽいけど、停止の焔って何?
「あれじゃないかな……眠れる姫をキスで起こす……パターンの……」
アルメヒがちょっと恥ずかしそうに言った。顔が赤いアルメヒ、めちゃレアだ。
「え、でも、え!?」
私は困惑し、ツインテールを振り乱し、腕で顔を隠す。
「大丈夫!チューするだけだよ冬火!」
リチェが唇をチューとすぼめた。
「でも私、唇とキスした事ないし……そもそもホントにチューなのかな?」
両手の人差し指をツンツンする。
「ああ、たぶんキスだろうね」
ソレイは確定だね、と言う顔をして素早く言った。
「唇以外にはあるんだ、冬火さんえっちだなー」
シュカがそう言うと、幾人かがクスクス笑い出す。
ラシだけが顔を真っ赤にしてる。
きっと私の頬にキスした事思い出してるんだ。
やば、バレる。誤魔化さなきゃ。
「あーでも、とりあえず……頬っぺにチャレンジしてみよっかなーあはは!」
「早くしろよ、出ないと俺と言う選ばれし熱い男が、この子の目を覚ましちゃうぜ!」ゲイドがそう言うと、S級冒険者の女性陣が一斉にゲイドを取り押さえた。
「いてててててっ冗談だよ!助けろ男共!」
ゲイドが苦痛に叫ぶ。
「ゲイド、自業自得だぞ」
ドアドラがあっさり見放す。
「だね」
ソレイはやれやれと楽しそうだ。
ラシが耳元で私に言う。
「みんなに白状した方がいいかな……?」
え!!!!!どういう結論!!!!!
「ダメだよ。一生秘密。あ、あと、帰ったらもう一回……いい?」
私がそう言うと、ラシは顔も腕も真っ赤になって目をぐるぐるさせた後、唇を噛んで小さく頷いた。
よし、今の私は何でもできる。
「じゃあ、18番、幽ノ坂 冬火 チューします!」
私はチュー宣言をした。
「18番て何……?」
ルヌが真面目に聞く。
スルーする私。
ルヌに脛を蹴られた。
みんなは、頑張れ18番と頷く。
「じゃあ行きまーす」
私の傍らで、手を組み祈るラシ。
何の祈り?
私は、静かに眠る乙女の頬に唇を近付ける。
……
ゴクリ……
近くで見ると、ホント綺麗な子だな……
でも、なんだか……寂しそう。
心を溶かすか……
んーーー……
私は、この世界の仲間達との思い出を想起した。
起きて。きっと私達と来れば楽しいよ?
……
「(ちゅ……)」
私は、眠れる乙女の頬にそっとキスした。
約束するから……
……
……
沈黙が少し通る。
……
……
それは突然だった。
眠れる乙女の目がゆっくりと開き、澄んだ薄いイエローの瞳が現れた。
「お、お、おう!おはよう!!」
私は突然の出来事に慌てふためく。
周りのみんなも信じられないという顔をしている。
「あなたは……?」
彼女は言った。
「私は、フユカだよ。君は?」
「私は…………ディーネ……です」




