幽ノ坂 冬火、嫉妬する。
ミゼリア王女が新たな召喚魔術を得てから、私達の最下層への移動はほぼ疎外される事が無くなった。
ミゼリア王女が暗がりの迷宮内に、いにしえの黄金強兵を常時数体顕現している。
それらの強兵達は攻守バランスよく戦い、私達を守りながらもA級以上のモンスター達をあっという間に倒してくれるのだ。
その強さは、下級デーモンと一対一でギリギリ勝つか負けるかぐらいなので、相当な強さだろうと考えられる。
下層ボスに匹敵する、スケルトンメイジやルーンゴーレムなどのハイレベルなモンスターで、さらには超個体である敵にも、一体で挑んで、ほぼ数分以内に勝利しているのは本当に凄い。
まさしく私達は、いにしえの巨大都市のギルドのレベル基準では既に無く、世界地図レベルに入ってきているのではないかと感じてきた。
豆知識としてソレイ曰く、召喚と言うのは、魔力がある限り顕現自体は出来るが、一個体が一度戦闘不能になると、ある程度時間を置かないと、再度顕現するのは難しいらしい。
それと、今回ミゼリア王女が獲得した魔術は、単純に召喚魔術では無く、彼女の王女としての器や、仲間である私達全員の能力にも起因して成長する、王命の能力である可能性が高いらしい。
歴史を遡ると、その能力を持った王が存在した記述を文献で目にした事があるのだとか。ミゼリア王女も王宮に、黄金の強兵達が描かれた絵画があると言っていた。
「これどう思う?」
ミゼリア王女は暗がりの迷宮の中で、バリアを展開する。
その頼もしい新技は、私達全てを覆えるみたいだ。
「範囲は十分だな。耐久力は不明だが」
アルメヒがちょんちょんと触る。
「ねぇ誰か、外から攻撃してみてくれない?」
ミゼリア王女が私達に言う。
みんなはお互いを見るが適当な人間がなかなかいない。
「ゲイドやって……」
ルヌがゲイドの背中をポンと押し出した。
「しゃーねーな。後でキレんなよ」
ゲイドは百獣王の小手を外し、外で構えた。
「程々にね」
ソレイが腕を組みながらクールに言った。
「はいはい、程々ですねー。じゃあ行くぜ?まず5割だ」
そう言ってゲイドは、空手みたいな型をとり、躊躇無く正拳突きをした。
バンッ!!!!!
しかし、バリアは無傷だ。
「痛てぇーーー!!!なんだよこれっ!!!まぁ結構手加減したからな。じゃあ……次は6割だ!!!」
そう言うゲイドの顔は、ちょっと本気だ。ショートの赤髪が汗に濡れている。
「おおおおりゃあああああ!!!」
バンッ!!!!!
バリアは少し揺れたが、問題は全く無い。
「ああマジ痛てぇ!!!!!クソ!!!ざけんなよ……じゃあっ次は8割だ!!!」
ゲイドはムキになっている。みんな気まずそうだ。
「もうやめときなよゲイド。あんた今の8割出してたでしょ?ねぇ?」
リチェが呆れたように言って、私にもたれかかってきた。
大きな胸が肩に当たり、手がいやらしく私の肩を持つ。毒タイプとは言えない程に良い匂いが髪からした。
なにこの色っぽいお姉さん。腰に手を回そっかなー……なんて出来るかバカ!!!
「はっ!?出してねーし!俺はこんなもんじゃねーぞマジで!」
ゲイドはみんなに吠えるが、白い目で見られている。
「ねぇ冬火、ちょっとだけ攻撃してみてくれない?」
ミゼリア王女がごめんと手を合わせ青い瞳でウインクした。
「あ、はい」
美人の多さに引く、異世界。
抜けた男共が、より際立たせるのがミソだな。
「取り敢えず3割で行かせて貰います!」
私がそう言うと、中の全員が身構えて睨む。
いや、私、敵!?
さすがに破壊ビーム打つみたいな事しないよ。
「冬火、ホント抑え気味にしてよね」
シュカがミゼリア王女の後ろに隠れている。
君の以前言った王女への忠誠心、何処へ行ったんだい?
「はいはーい」
私は、そう言って、手に生成した極氷の白銀剣でバリアを軽く突き刺した。
バリンッ!!!!!
バリアはみんなの目の前で細かく砕け散った。みんなは無言だ。
「くーーー見せ付けやがって」
ゲイドだけ大袈裟に悔しそうにする。
「そんなつもりないって」
私はブンブンと手を振った。
「この状況を見るに、A級の攻撃までは防げそうだな」
アルメヒが、ゲイドの肩をなぐさめて叩いている。
その時だった――
「次はこれで試してみてくれませんか?」
ラシがそう言いながら、いつもとは違う多層の光円を出現させ、みんなを包み込んだ。
「なにこれ!!!体すごい楽だよ」
リチェが不思議そうな声を出す。
「ラシ!!!新しい技!?」
私がそう言うと、ラシが笑顔で頷いた。
ミゼリア王女は、「わかったわ」と言う風に再度バリアを張る。
「あれれ……魔力の消費と同時に、急速にスタミナが回復しているわ……バリアを作っている魔力も10%増しぐらい増えているみたい……」
ミゼリア王女が驚嘆して自分の感覚を確かめている。
「マジだ。全然疲れねーし、威力がちょっとあがってやがる。ラシ……すげーな」
ドアドラが手から赤い稲妻を出しながら言った。
「じゃあもっかいやってみるね!」
私はウキウキし出して、すぐさま極氷の白銀剣をバリアに突き刺した。
ギリ!!!!!
やっぱり!!!
なんと、バリアは壊れなかった。
「ラシ……これ……かなりすごいよ?」
ソレイがラシに近寄って目を見つめてる。
いやなんか、近い。
ダメ。
ラシは私のラシだかんな!
「ありがとうございます」
ラシは、みんなの前で恥ずかしそうにした。
……素直に友の成功を喜ぼう、こんな時に嫉妬とか性格悪いぞ私。
「本当に素晴らしいですラシさん。これで持久戦でも上手く戦えそうです!」
ミゼリア王女はラシの両肩に手を当てて満面の笑みになっている。
私のラシがー……遠くなるー……気がする。
これは、あまり友達がいなかった歪んだ感覚なんだろう。
「ラシ……おめでとう」
私は口に手を当てクチバシのようにし、寂しい親鳥を演出した。
みんながどういう意味か不明な顔をしていたが、ルヌだけが笑って真似していた。
「これで、いっぱい助けるからね冬火!!」
ラシは私を抱き締めた。
自分の器の小ささに、少し涙が出た。
しかし、泣いている場合では無い。
何故なら……
私達の視線の先に、最下層のボスフロアが見えているからだ――




