幽ノ坂 冬火、王都へ行く。
私は、巨大な都市へ辿り着いた。
現代の日本の都市部の街並みを、そのまま、いにしえの建物に変えたような所だ。
超巨大で知らない物が沢山あり、とても胸が躍っている。
いえ、間違いだわ。
正確には、胸が躍っていた。
だって……今……
牢屋にいるから――
私は、とても耐え難い臭いのする、掃除って言葉なんて存在しない様な、牢屋群がある地下室にいる。
特別狭い鉄格子の中だ。
門を通過しようとした時、如何にも神経質そうな顔をした衛兵に「なんだその服は怪しい奴め!!」といきなり叫ばれ、気が付けば、ここに放り込まれていた。
「やってられないわよ!!!」
恐らくは、ゴロツキが沢山いる牢屋の中で、私は一番目立つぐらいの悪態をついて叫んだ。
あまりの荒々しさに、正面の牢屋の、ローブを着てフードを深く被った人がビクッと跳ねた。
私の怒りは、ママとお姉ちゃんとの喧嘩で鍛えられている。
勿論、学校ではイエスマンだったが。
「な・ん・で・私が捕まるのよ!?何もしてないのに!!この世界も結局一緒かよ!?馬鹿野郎!!だりだりのだりーだよ!!」
私は鉄格子をバンバンと蹴る。
もはや、ゴロツキ共が、大丈夫か?と遠くから言ってくれるぐらいだ。
怒り過ぎてお腹も空いちゃって、お腹の音が鳴った。
……
牢屋中から、クスクス笑い声が聞こえる。
馬鹿にしやがって……
ちょっと、恥ずかしいなー!
その時だった――
「あ、あのう……よろしければ……これを」
こんな牢屋に似つかわしくない、大人し気で気品ある女の子の声が聞こえる。
私はブンブン辺りを見渡すが、太ったオジサンしかいない……
美声オジサン……?
「あのう……私です!」
そう言って、小さな声を張り上げ、手を上げたのは、なんと真ん前の牢屋のローブの人だった。
暗くて顔がよく見えない。
「あ、あなたでしたか、ローブマンさん」
私は、鉄格子を持ち、ツインテールをぴょんぴょん揺さぶって、ローブマンさんの顔を見ようとする。
「ローブマンさん……?ふふっ……なんですかそれ。これ、どうぞ」
前の世界では、いつもならスルーされていた私の小ネタに、天使のような美声で笑ってくれたローブマンさんは、私にパンを投げてくれた。
「あっえ!パン!!?いいんですか!?あなたの分が無くなるんじゃないですか!?」
私は、パンを拾い上げて、ローブマンさんに返そうとする。
「確かに無くなりますが、でも、あなたのお腹は満たされると思うので……ふふ」
「超良い人じゃないですかローブマンさん……私のブラックホールみたいな臓物の為に……」
ローブマンさんがもう一度笑った時、薄っすら顔が見えた。
え……
嘘……
「牢屋の中で良い人って面白いですね!」
ローブマンさんはとうとうフードを外し、私ににこやかに笑った。
やっぱりだ……
おかしな程かわいい……
こんな美少女二次元でしか見た事無い……
艶やかなピンクのストレート髪を肩まで伸ばし、その色を際立たせるような、天女みたいに白くて輝きそうなぐらいの肌。
バランスの取れたパーツ。
そして、ひと際大きく黒い、穏やかな瞳。
私は、少しの間見惚れた後、言った。
「お名前、聞いていいですか?」
ローブマンさんは、上品ながらハツラツと笑い言った。
「ラシです!!貴方のお名前は?」
ラシちゃん!!!
名前も可愛い過ぎる!!!
「私は、冬火だよ!ラシちゃんかぁー、ホント素敵な名前だね!てか、同い年ぐらいだからタメ口で言いかな?」
私は、グイグイ攻める。
だってこんなトキメキ、学校で感じた事無かったから。
ほぼ、トキメク相手は二次元だったし。
それに……ちょっと女の子が好きだったからだ……
「フユカちゃん!?不思議で可愛い名前!!いいよっ!!うふふ。お友達みたいで私凄い嬉しい!!」
友達……
私はその時少し気になった。
「ねぇ……こんな事聞いていいのか分からないけど、なんでラシみたいな子がこんなとこにいるの?」
私は、真っ赤な瞳をグーっと細めてラシに聞いた。
「……いいよ。あのね、私は一緒に冒険をしてくれる仲間を探す為、田舎からこの都市に出て来たんだけど、慣れなくて街なかウロチョロしてたの。そしたら急に、衛兵に言い寄られちゃって、断って逃げたらこの通り、捕まちゃったってわけなの……」
衛兵クソか!
「それは、災難だったね。ラシは悪くないよ絶対。でも奇遇だね!私もここ来たばっかなんだ、見ての通り、もう食料も持って無いし、お金もなんもないスッカンピンだけど……へへ」
客観的に見たら、今笑うのは、やばいやつだよね。
やっぱラシちゃんも神妙な顔つきだ。
嫌われたかな……?
いつも、こんな感じであとちょっとの所で変な事言って台無しになるんだ。
「ねぇ、フユカちゃ……フユカはなんで捕まったの?」
ラシは、私を見定めるように聞いてきた。
「アハハ、クソ衛兵に服がおかしいって言われて、触ってきたから、肩殴ってやったんだ。触んな馬鹿野郎!!バシッバシッってね!!」
私は鉄格子を殴った。
鉄格子は鐘のように響く。
うぅ……手が痛い……
「ふふふふふっ!殴っちゃだめだよフユカ。……でも私達……なんか同じだね」
ラシは、大きな口を開けて気持ち良く笑った後、瞳を揺らしてこっちを見た。
私も彼女に釘付けになる。
私達は牢屋越しに、少しの間見つめ合った。
そしてラシは急に、前のめりになって私にこう言ってきた。
「ねぇフユカ?取引しない」
そして――
なんと私は、ラシのおかげで牢屋を出る事が出来た。
ラシは、田舎でコツコツ貯めたお金を、ほぼほぼ全額自分と私の保釈金として支払ってくれたのだ。
その代わりとして、私はラシと、一緒にパーティーを組む事になった。
今私は、ラシがとっている宿の部屋で一緒に話をしている。
ベッドに隣同士二人で並んで座りながら。
「とりあえず……ありがとう……ラシ」
案外近くで喋ると、照れて言葉が出ない。
と言うか、恩人過ぎて、どう接っすればいいかが難しい。
「いいよ全然……私、フユカみたいな面白くて優しそうな子とパーティー組みたいってずっと思ってたから……もう、願い叶っちゃった。ふふ」
私とラシは、二人して照れて頬を染める。
「でも、とりあえず……お金稼がないとね」
ラシが、上品な顔を崩し、ニヒッっと笑った。
「そだね、なんでも手伝うからさ……ギャグもするし」
私は、ツインテールが乱れて無いかゴソゴソする。
「じゃあ……まずはギルドだね!モンスター討伐行こう!!」
ラシは大きな胸を張って言った。
「うん!行こ行こ!」
私は上げた手をすぐさま降ろす。
あぶないあぶない、なんかラシの胸が手に見えてハイタッチしかけた。
いかれてるのか私!恩人に対して!
「ちなみにギャグってどんなの?冬火?」
ラシは人差し指を顎に当て、ほへーと首を傾げる。
ラシなら……
「ホイットニー!!!」
「うふふふふ!なにそれ!すっごい面白いんだけど!!」
……
こうして、私、幽ノ坂 冬火の冒険は本格的に始まった。




