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幽ノ坂 冬火、天使に駆け寄る。



私はフロアの地面に手をつきイメージする――




眩く燃焼する白銀の氷河が、濁流のようにこの広いフロアを瞬く間に埋め尽くす事を……


見たこともない無い程に美しい、無垢な白い霧が現れてくれる事を……


私のみに自由の権利が許されたような大地が顕現する事を……




……って、いつの間にこんな詩的な女の子になったんだろう私?キャラじゃないよね?


そうでもない?ありがと。






イメージは実現された――


それは想像を遙に超えて。




全てが激しく凍る絶氷の森がそこには顕現していた――




こんな森には一体どんな存在を住まわそうか……?まぁ……今はいいか……




数百体のナイトも大型剣士と大型獅子も、上半身しか動けず剣で足元の極氷を砕こうと必死だ。しかし、剣が折れる音の方がよく聞こえる。


モンスター達のプラチナの鎧が、足元の絶対零度により色が青白く変色し、表面に氷の結晶の文様が浮かんでいる。




「今だ!!!行くぞ!!!」


アルメヒが、大剣を黒龍のかぎ爪のように変化させ叫んだ。




ふと、気になった。新たな竜を調伏するとアルメヒの剣の見た目も変わるのだろうか?




私達新米パーティー以外は、全員猛スピードでフロア内に駆け出している。




――どうか、転ばないでね。








しかし私は、強すぎる力に少し勘違いをしていたのかもしれない――




自分だけが特別に強いと。




それは正しいだろうし、正しく無いのかもしれない。




何故なら、目の前の光景が説得力を持って、選ばれし者はお前だけでは無いぞ、と説明してくれたからだ。





刹那に起こった、凄まじき壊滅――




それを起こした者達の背中は、S級冒険者と言うよりは、もはや勇者一行だった。






大型剣士一体以外は、まるで取り合いでもされているかの様にS級冒険者達に一斉に討伐されている。




ドアドラが、赤い稲妻による翼膜で、破滅的威力を持った速度の滑空する。


その速度を活かし、輝くルビーみたいな旋風纏う血色の剣で、敵軍の中を一閃すると、激しい光と共に敵がドミノ倒しみたく順番に上空へ吹き飛ぶのだ。




ルヌの、千は目があるだろう粘竜が地を不気味に這うだけで、多数の敵が竜の体内に攫われ、身動きが取れずそのまま戦意喪失している。




ソレイのアークデーモンはドロドロとした鮮血のローブをたなびかせ、王のようになにもしないのだが、偶に掌を上にし指をヒュッとあげれば、マグマみたいな火柱が天上まで一気に吹き上がり敵をあっさりと飲み込む。




リチェに至っては、単体で巨大獅子に挑み、既に倒してしまった。


リチェが何をしたかと言うと、まず巨大獅子の前まで堂々と歩いて行き、目の前で不敵に笑った。


次の瞬間にはリチェの姿は消え、まるで竜巻でも起こったかのように巨大獅子は得体の知れない速さに包まれていた。


理解できていない巨大獅子の体には、いつの間にか大型の毒の短剣が恐らく7、8本刺さっていた。


刺された部位は、すぐさま濃い紫に変色していて、大型獅子が呻き出したのも束の間、またもやリチェが嵐のように何かをする。


やがてそれが晴れると、剣が刺さっていた鎧の部位は溶けて裂かれた様に激しく損傷していて、大型獅子は何もする間も無く、一瞬の内に行動不能になったのだ。




――アルメヒ、ミゼリア王女、ゲイド達も彼らを見て唖然としていた。







そして残ったのは、あと一体になった――




巨大な剣士、足元が凍結して動けない剣士。


誰もが思っただろう、余裕だと。


しかし、私達はここで油断を突かれた。




その剣士は……




コピータイプの剣士だったのだ――




リチェの攻撃を見て、自らの巨大な剣を超猛毒であろう属性に変えて大きく振りかぶっている、一網打尽の薙ぎを一瞬で決めるつもりだ。




私が気付いた時にはもう遅く、私達全てにその波撃を絶対食らわすという、強い執念が感じられた。




これ……本気でやばいかもしれない。




一瞬私の中で、仲間全員が壊滅状態のイメージが鮮明に流れた。




突然の終わりの気配に慄き、私は判断が遅れ、手を伸ばすしか出来ていなかった。




凍らすイメージより、恐怖のイメージが勝ってしまったのだ。




スローモーションのように流れるフロアにいる仲間達の顔も、私と同じような悲惨な顔をしていた。




……




天使の声が聞こえるまでは……





「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」





誰もが終わりだと思ったその瞬間、可憐な雄たけびがフロアに咲いた。




こんな声は、愛しいあの子しかいないと、彼女の笑顔が一瞬で心に駆け巡る。




ゾディ……怖がりで泣き虫で人懐っこい女の子。




誰からも好かれる、優しくて可愛らしい子。




大好きな、ともだち。





何よりも速く、ゾディの赤黒いエネルギー剣が、爆発したように天井まで伸び、そのまま一直線に降りた。




ズイイイイィィィィン!!!!!




至極激しいビーム音と共に、巨大な剣士の薙ごうとしていた腕は、奥の壁に吹き飛んだ。




巨大な剣士はもう片方の腕で、瞬く間に魔術を唱え、ゾディに毒毒しい魔法陣を向けている。




しかしゾディは、剣から伸びる暗黒のエネルギーの塊を丸い球体に変え、巨大な剣士に打ち放った。


重力なのかなんなのか不明だが、あまりの驚異的で圧縮性のある威力に、巨大剣士の鎧の体は、赤黒い塊に飲み込まれぐにゃりと変形し、奥の壁まで吹き飛んで壁に埋まった。





……





全員が沈黙してゾディを見ている――




巨大なボス二体は戦闘が終わった合図のように宝箱へと姿を変え、他のナイト達は瞬く間に消失した。




ゾディは小さい体で激しく息をし、透き通る金髪を揺らしている。




そんなゾディにシュカが駆け寄る。


「ゾ、ゾディ……大丈夫か?」




「皆さん……無事でよかったです……」


ゾディは優しく微笑んだ後、安心した顔で気絶した。




「ゾディーーー!!!!!」




フロアには私とラシの声が大きく響いた。

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