幽ノ坂 冬火、いじられる。
ミミックを倒し、報酬により覚醒した私達パーティーはさらに順調に最下層へと進んでいた。
トラップもよく見れば同じようなパターンが多く、その数も減ってきた。
まるで中層辺りのトラップは、そこより先に進む者達を選別していたようで、今ここの下層からそれ以降には、もうその必要は無いとダンジョンが言っているみたいだ。
野良モンスターにおいては上級レベルも現れ出して、強力な装備をしていたり、全体魔法やハイクラスな魔術を詠唱し出したりもしている。勿論、魔術の詠唱はアタッカーが瞬時に阻止しているが。
明らかにレベルの高そうな雰囲気の特異個体も目立ってきた。
それらはゴブリンナイトやスケルトンメイジ、ゴーレムの種で多い。
この辺の知識はソレイが聞かなくても教えてくれる。たぶん、ソレイと一緒にいるだけで頭は良くなる。
なんというか、それらのモンスターの立ち姿の雰囲気が下層のボス級と言う感じで私達大勢相手にも堂々としている。
そんな奴等の中でも、下級デーモンは下級とは言え別次元の異質な魔圧を放っているので緊張する。
また、いつしか見た小型の爬虫類にも似たアネヌーヴァ成体の大群や、かつて討伐に失敗したスタチューが進化したような巨大なコモドドラゴン型のホホジロザメのような未知のモンスターなども突然現れたりする。
ソレイ曰く、間違いなく全てがA級以上のモンスター達らしい。
しかし、今の私達には敵ではなく、いずれも一分以内には倒している。
例えば、ドアドラがダンジョン内が真っ赤に染まる程の超電撃を放って一撃で仕留めたり、気づいた時にはリチェがモンスターの背後にいて、毒を喰らったのであろう敵が突然パタリと倒れたりしている。
ラシも頑張っていて、ラシの聖なる光円が広範囲に発動している時に、死角にいるアンデッドタイプが勝手に踏んで、曲がり角で倒れていたりもしていた。
ラシはそんな時、決まって申し訳無さそうな顔をするのがやっぱり良い子だ。
私達は、もはやボス以外はこのダンジョンをクリアしていると言っても過言では無いのかもしれない。
正確な事は不明だが、ミゼリア王女曰く、このダンジョンのボスは後二体の可能性が高いらしい。
そして私達は、その内一体のボスのフロアに途中の苦労が嘘であったかのように簡単に辿りついたのだった――
「大勢のお出迎えなこった」
ゲイドがやれやれと手を上げて言う。
私達の目前には、数百体のナイト。
二メートル台の体には古代文様が入り、剣や鎧にはカラフルな属性を纏わせている。明らかに普通のナイトでは無く、一体でもB級以上の強さがありそうだ。
さらには真ん中に、十メートル台の、三階建ての一軒家のようなボリューム感がある、大型剣士と大型獅子が一体ずついる。
それら全てが、プラチナ色の非常に硬そうな鎧のみで出来た、中身が空洞のような存在達だった。
「さて……どうするよ?」
ドアドラがボキボキっと拳を鳴らしみんなに言う。
格好も含め、武闘派吸血鬼のチンピラみたいな奴だ。
フロアにいる、煌びやかなナイト軍団は全員がこっちを見ている。
「最下層に体力は温存していたいので、なるべく素早く片付けよう。勿論、あの巨大な二体は様子を見ながらだがな」
アルメヒが艶やかな金髪を耳にかけながら言った。凛々しい金色の目はいつだって
私達より先を見ている気がする。
この人は本当に美人で可愛くてスタイルよくてカッコもよくて優しくて、この人が主人公のゲームがあるなら、きっと私は周回プレイしているだろう。
「じゃあ……ちょっとやりたいことあるんだ、やってもいい?」
私には良い作戦があった。
みんなに悪戯っぽくちょっとぶりっ子して言ってみる。
「なに?自爆?」
ルヌが真面目な顔でボソッと言った。
みんな俯いたり口を押さえたりして笑いを堪えている。
「あほかっ、バッドエンドなるわ!」
みんなは堪えきれず大笑いし、ナイト共はそれに反応し訝し気ににじり寄ってきている。
ミゼリア王女ですら、口を押さえて青い目を潤ませ必死に堪えようとしている。
みんな、なにガチでウケてんだよ。ひどすぎだろ!
「違うわ!ヌルヌルスライム大好きルヌ子!!!あ・し・ど・め!足止めだよ!!!フロア全体はムズイかもだから、地面全部凍らしてくっつけてやろうかなって思っただけ!!!先制攻撃になるからねっ!!!」
私は、みんなにちょっと拗ねながら言う。
ふんっだ。
「アイススケート作戦ね!」
ラシは黒い目をまん丸にしてポンッと手を打つ。
ラシ……ちょっと違う。そもそもアイススケート知ってるんだ……
あ、でもそうか。みんな転ばないように注意喚起しなきゃ。
「それはかなり効果的かも知れないよ?僕は賛成だね」
みんながまだ笑う中、ソレイが私を見て微笑んだ。
ほう……そんな風に笑うんだ。好感度アップ。
「やろうぜ、俺も賛成だ。一気に数減らせそうだかんな」
ドアドラが私の肩に手を回す。。
私はパチンッ手の甲で弾く。
こいつ悪気無いんだろうけど微妙に距離感おかしい。
「うん。私も思いっきり暴れてみたいな……」
そう言うリチェの目はなんか怖かった。
その目はシーフと言うより、深淵の毒魔女って感じだった。ちょっとえっちなバージョンの。
「決まりだな。ミゼリアそれでいいか?」
アルメヒが、私達を見守るよう話を聞くミゼリア王女に言った。
「かっちんこっちん作戦ね!是非やりましょう!冬火頑張ちゃってね!」
ミゼリア王女は大きく頷いてグーと親指を上げる。
「はい!!!あ、あとみんな、滑って転ばないでねっ!ふふっ!」
私が地面に手をついて魔圧を込めると、全ての敵が後退りした――




