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幽ノ坂 冬火、ワクワクする。


私達は、目の前に広がる報酬の山に困惑していた。




まず、ミミックが吐き出した特大サイズの地に刺さった黒く淀んだ大剣。


これは、ドアドラやアルメヒが引っぱり抜こうとしたが、纏う瘴気が強すぎて、まともに触れる事すら出来なかった。


さらには、あまりの大きさで持ち上げて振るう事すら難しそうなので、みんなは一旦保留している。


そんな中、ルヌだけがその剣をじーっと見ていた。




祭壇から取り出した魔術書に至っては、ミゼリア王女がカラフルな幾何学文様のような魔法陣から神々しい小型の召喚体を出現させ、その存在に解読させている。


眼玉一つで天使のような羽が生えた幼稚園児ぐらいの人型のそれは、魔術書をふんふんと高速で読み、ミゼリア王女に耳打ちしている。




「どうやら、いにしえの巨大都市に関する事が書かれているらしいわ、街を覆う大規模な結界を起動する魔術の方法かもしれないらしいの。後は、汎用な結界解呪魔術についても書いてあるって」


ミゼリア王女がそう言うと、ソレイとアルメヒはとても興味深そうな顔をした。




「それは、かなり大きいね……」


ソレイが顎に手を当て、目線を落とし何かを考えている。




「いにしえの巨大都市は、遙昔、結界に守られていた時期があるような文献も残っているのでありえるな。もし本当に可能であれば、最高の報酬に値するだろう」


アルメヒがそう言うと、ミゼリア王女とソレイを合わせた賢い組みで微笑んで頷き合っていた。




それ以外のメンバーは、ミミックの宝箱の中身を見てバカ騒ぎしている。


私もその輪に入り、それらを覗き込んでみた。




小瓶に入った、丸い虹色の玉が二つ。


何かの動物の皮で出来た、古い契約書みたいなのが一枚だ。




「おいこれ……霊薬じゃねーのか?」


ドアドラが小瓶の玉を見て、真っ白な顔をさらに青ざめる。




「嘘っ!!?」


シュカは目が飛び出る程見開く。




「こっちは、闇の異形との契約書だね。……こんなの契約出来んのソレイぐらいだわ。ほいっお願い」


リチェがソレイにその書面を渡す。




ソレイは、何かな?と言う感じで受け取ったが、その数秒後に固まって動かなくなった。




「ねぇ……これ欲しい人いる?」


ルヌが例の瘴気を纏う巨人の剣ような大剣を指差して言った。




みんなは、扱いずらさから全く興味無さそうな顔をして、首を横に振った。




「じゃあもーらい……」


ルヌは、無数の目を持った黒半透明のスライムを即座に召喚し、その剣に向かって指差した。スライムは、ずるずると動き出し、例の剣を体に取り込み出す……




アルメヒとミゼリア王女は、ドアドラから小瓶を受け取り目を凝らす。




「これは……」


アルメヒは美人な顔を渋い勇者のように険しくさせて驚愕している。




「間違いありませんね……霊薬です」


ミゼリア王女は、澄んだ青い瞳をキラーンと揺らし、博士のような雰囲気だ。




「やっぱマジでか……」


ドアドラはオーマイガーと頭を抱える。




「霊薬って何?」


私はゾディとラシに聞いた。




「ごめん知らないの……」


ラシが恥ずかしそうに手を掻いてる。


大丈夫だよ、ラシに恥ずかしい事なんて何も無いよと言ってあげたかった。


その代わりに、肩に寄り添って微笑みかけてみる。


気持ちが伝わったのかラシは嬉しそうだ。




「霊薬はですね、いにしえの巨大都市単位でも100年に一度しか現れないと言われている大変希少な物です。誰が作ったかすらも不明で、世界全体にあるのは片手に乗る程だと言われてもいます。効果はよく分かりませんが、能力の全体的アップみたいな効能だと言われています」


ゾディは、ちっこい天使みたいな見た目で、胸を張りながら得意げに解説している。




「へー、じゃあゾディっ子が飲んだら背が伸びて、ダイナマイトなレディになれる薬って事か」


私は、いつだってボケようとする癖を切にやめたいと思う時があるのだ。




「チビからイケてる姉ちゃんに大変身か!そりゃ最高だな!チビにあげよう!」


ゲイドだけにはウケたみたいだ。




「もうっ!!私の説明返して下さい!」


ゾディはプンスカ怒り、私達二人に剣をシャキーンと向ける。


私とゲイドは、手を上げて平謝りする。




ミゼリア王女がソレイに近付いて言った。


「ソレイ、それ契約出来そう?」




「ギリだね。かなり危うい奴だから……」


ソレイはストレートの灰色の髪をたらんと落とし、血色の赤目を光らしている。


ソレイってギャグとか言った事無さそう。


私の前の世界に生まれてたらトレーダーとかしてそう、暗い部屋で。




「頼むぜ、ソレイ。闇系の存在はお前しか契約できねーからな!霊薬と一緒に入ってたって事は相当ヤバイやつだろうけど……まっ頑張れ!お前なら出来る!」


ドアドラはソレイの肩に腕を組んで笑っている。




そういや、ルヌが静かだ。みんなこっちに気を取られているから放りっぱなしだった。




……





って!あの大剣無くなってるじゃん……




そんで、スライム光り出して、ルヌ笑ってるし……大丈夫なの?




そんな時、アルメヒが言い出した。


「なぁみんな、私が決めるのはおこがましいと思うが、この霊薬は、リチェとドアドラに飲ませてあげてくれないか?冬火だけが突出して強い今の現状ではいずれ限界が来ると思うんだ。冬火の負担も相当大きいだろうしね」




「あ、ありがとう……アルメヒさん」


確かに、負担が減れば攻守共により専念できる。正直言うと、最終防衛ラインが自分だけってのもかなり怖いし不安だったし……




アルメヒの言葉に、ごねる人間などこのメンバーにいるはずが無く、みんなうんうんと快く頷いていた。




一人以外は……




「なんで私なのよ!?アルメヒ!!あんたが飲みなよ!?冬火の火力に、あんたら二人が霊薬でパワーアップした方が良いに決まってんじゃん。もしかしてさっきの事気遣ってんの?そういうの無しだよ!?」


リチェが少しだけ責めるように言った。




「そうじゃないさ。単純に君の毒魔術の振り幅に私は期待させて貰っているだけだ。ヒュドラを封印し、その能力の一部を身に宿して受け継いできた一族の末裔である君の潜在能力にね……」


アルメヒは分かってくれよとリチェに笑う。




「……」


リチェは何とも言えない顔をしている。




「もしかして……ウチの村の9本首の竜の石碑がある神殿って……」


シュカが青ざめている。どうせ、ヒュドラの封印の上で遊んでたとかだろうと予想がついた。




「まっこの先、報酬はまだまだあるだろうから重く考えなくていいんじゃねーか?」


ゲイドがそう言うと、みんなは確かにその通りだ、と雰囲気が変わる。




「ゲイドの言う通りだ。私自身の能力が一番上昇するのは竜の討伐による方法が一番なんだ。もし、この先に強力な竜が現れ討伐出来れば、霊薬より遙に能力は上がるだろう。ミゼリアに関しても、このダンジョンで取得する古代魔法や、神獣契約があるのならば私と同じくだ。そしてこのダンジョンには、そのチャンスがまだある気がするんだ」


アルメヒはみんなを見ながら言ったが、リチェに言い聞かすようだった。




「確かにそうだけど……」


リチェは煮え切らないが納得はしてきたようだ。




「取り敢えず俺は頂くぜ!その代わり、強くなったらお前等、ぜってー守ってやっからよ!」


ドアドラは霊薬をぽいっと口に放り込んだ。




そしてもう一つを手に取り、ドアドラはリチェに言う。


「ほれっ。貰えるもんは貰っとけエロ女。みんなお前に飲んで欲しいんだよ」




「エロ女言うな!!!」


確かに服装は、ちょっとエロ女だ。




「リチェ……」


ミゼリア王女はリチェにお願いと見つめた。




「……もう……わかったよ」




リチェはあーんとドアドラに向かって口を開ける。




「自分で食えよ!……あーもう!」


ドアドラが霊薬をリチェの口に入れ、すぐ手を引っ込めた。女の人に弱いのかもしれない。





……








少し時間が経ち、異様な気配がしてきたので、私は周囲を見渡した。






ルヌのスライムは、もはやスライムという形状では無く、十五メートル程の無数の目がある何かに進化しながら天上付近を輝きながら飛行している。


あんな正体不明のエネルギーの塊みたいな剣を全て吸収していたのだとしたら、もしかして一番やばいんじゃないかと私は思ったりもする。





ソレイに関しては、ガーゴイルや邪竜の棺の三倍程の巨大なサイズの棺を召喚し、なにやらブツブツ唱えている。


手には先程の契約書、しかし大量の血がついている。たぶんソレイのだ。


髪が魔圧でオールバックに逆立っている。






ドアドラとリチェは、二人共蹲り出し、周りの人間が心配している。


しかし、ドアドラの黒翼からは、赤い稲妻が爆炎のように吹き出し生命エネルギーに満ち溢れているように感じる。


リチェに関しては、踏ん張る足元の地面がスポンジのようにへこみ、手には濃い紫色の大型の短剣が生成され、その短剣からは泡立つ程に激しい毒がボタボタと垂れている。





「な、なんか怖いんですけど」


ゾディがキョロキョロとして言い出した。




「うん……」


ラシもゾディの肩に手を当て、同じような仕草を取る。




「やばい気配だ……吐きそうだよ」


シュカが私にもたれかかってきた。私は背中をさする。




「みんな頑張って下さい……」


ミゼリア王女はおしとやかな声に力を入れて辺りを見渡す。







その時だった――




ルヌのスライムが天上で、怪獣のような雄たけびを上げて降りて来る。


ソレイが召喚した棺が開き、血色の霧が中から溢れ出す。


ドアドラとリチェは、よろめきながらも段々と立ちあがる。





その新しい四つの力はとうとうフロア中央に集結した――





アルメヒが、それらを眺め確信のある声で小さく言った。


「私達ならいけるかもしれないな……」




「ええ……最下層はもう見えていますね」


ミゼリア王女は迫る宿命に唾を飲み込むようだった。






その二人の目線の先には……





十五メートル程の巨体のスライム竜。爪や尾がやけに鋭い。


体中にある無数の目が血色に染まって全てを見ているようだ。


それは、私達の頭上を我が物顔でヌルヌルと移動し、偶に大口を開けては、心底腹を減らしたように雄たけびをあげ、奇妙に体をうねらせている。


ルヌは薄ら笑いでそれを見ている。




茨の冠のような角が生えた魔人。アークデーモンと言う感じだ。


顔や、体中のあちこちに包帯のようなお札が巻いてあり、ドロドロと真っ赤に揺れるローブを着ている。


ソレイとアークデーモンは似た雰囲気で見合っている。




ドアドラは不敵な笑みを浮かべ、宙を飛ぶ。


ドアドラ専用の血色の剣は、周囲に煌めく赤い旋風を巻き起こしている。


ドアドラが反対の手で空間を薙ぐと、体中から凄まじい火炎放射のような赤い稲妻の大爆散が四方八方に波状する。最初見た時の電撃とはもう別物だ。


飛行中、ドアドラの背中の翼膜は、放射的赤い稲妻によって六枚程に増えている。




リチェも同じように、力強く笑う。


低く構え、黒い瞳から怪しい魔圧を垂れ流して、妖艶であり底知れない雰囲気で空間を染めている。


手に持つ、毒の大型短剣は、グツグツと泡立ちながら紫の炎を纏い、刃を揺らめかせている。


そしてリチェの足元数メートルは如何なる者も侵入禁止の毒沼が出来ていて、そこに、同じ大型短剣が8本刺さっている。




ゲイドが叫ぶ。


「お前等みんなを守ってくれよ!」




ドアドラが言った。


「おう!!!任せろ!!!」




リチェもガッツポーズ。


「あったりめーだ!!!」




スライム竜とアークデーモンは凄まじい雄たけびを上げた。




私は叫んだ。


「やっばい!!!ワクワクして来た!!!みんないけるよっ!!!」




みんなは、私に向かって大きく頷いた。



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