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幽ノ坂 冬火、ヒュドる。


「ヒュドラの毒だよ」




リチェが影のある笑顔でそう言ったと同じ時、ミミックは信じられない速度で、無数の凶牙を剥き出しにして、私達の方に突っ込んで来た。




私は、寒さで空間がよじれる程に氷壁を圧縮し強化する。




ズゴオオオオオオォォォォン!!!!!!




三メートルは分厚さのある、ダイヤモンドのように硬そうな凝縮された魔氷の壁に、ミミックは躊躇無く噛みついてきた。




そしてまさかの、ギリギリセーフ。




ミミックの凶牙が魔氷の壁を貫通している部分があり、みな冷や汗を流して目を見開いている。




「冬火今よっ!!!」


一瞬の沈黙の中、リチェが私に叫ぶ。


その表情は、あなたに託す!


……そんな表情だった。




「はいっ!!!」


私は手に持った、一滴の毒が浮かぶ奇妙なネックレスを凍結させ、操る極氷の大気と共に、巨大な氷壁を迂回しミミックの口へ放り込んだ。


そして、奴の口の中でさらに操作し破壊の時を見定める。




……感覚が掴みにくい。




目の前でミミックが、異次元の物理能力で最終防波堤の魔氷の壁にひび割れを入れ、崩壊させる寸前なので、それを修復しながらだからだ。




目の前と遠隔を同時に操作し、リチェのネックレスを適切な場所で破壊しなければならない……なのに、ミミックの中は、底なしの闇のようで距離感が非常に取りずらい。




私は全神経を集中させる為に唸る。




「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」




自分の声とエネルギーで感覚を満たす。




頭の中にあるのは、みんなを守る、それだけ……


それまでは、絶対に倒れるわけにはいかないんだ!!!




「冬火頑張って!!!」


ラシは、精一杯の光円を私達の足元に展開してくれている。


回復用途の術なので、強いバフとはならないが、スタミナがいつもより持つ感じがする。




目を閉じ、研ぎ澄ました精神の中で、みんなの応援の声が続々と聞こえてくる。




こんな時なのに嬉しい。


私やっぱり、誰かに信じて貰うの嬉しい。




私はそれらの温かな声の位置を心に感じ噛み締める。


それとは反対の、離れた位置にある邪悪なミミックの気配の位置も、心の暗がりの中で感じとった。




お前の、いやらしい舌の根の位置を正確に掴んでやったからな。




決めてやる――




「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




私はその位置に向け、細胞が震える程の全力のエネルギーを注ぎ、リチェのネックレスが爆散するよう、超極氷のビッグバンを引き起こした。




バキンバキンバキンバキンバキンバキンバキン!!!!!!!!




尋常では無く鋭く刺さる音と共に、無数のツララがミミックの内部から外部を貫き、未だかつて感じた事の無い一滴の気配が奴の中で飛び散るのを感じた。




今のがヒュドラの気配……




それと共に、ミミックは魔氷の壁から牙を思い切り引っこ抜き、フロア右の壁、左の壁、天井にと、あの巨体をゴムボールのように跳ねさせながら激しくぶつかり、至極苦しそうな雄たけびをひっきりなしにあげている。




苦しさのあまりミミックは、何か吐き出し、それが地面に刺ささった。




「あれは何だ?」


アルメヒが目を細めて言う。




「剣……?」


ルヌが小さく言った。




次第にミミックはほぼ動きを停止し、口を180度あんぐり開けたまま全体が濃い紫色に変色し、少し経った後にそのまま消えた……




たった一滴の毒でこんな事って……




ミミックが居たその場所には、小さな宝箱が出現する。と同時に、最奥の祭壇のような場所が眩く光り出した。




「やったのか……」


ドアドラが氷壁の外へゆっくり踏み出して言った。まだ警戒しているのか、背中の黒い翼膜に赤い稲妻がバチバチと走っている。




みんなもドアドラに続いて恐る恐る氷壁から出た。




「もう出れますよ!!!」


ゾディは、来た道を塞いでいた魔法陣が消失している事を確認し、嬉しそうに飛び跳ねている。




「これは……倒したという事で……よさそうですねっ!!!」


ミゼリア王女は、喋りながら勝利をようやく実感して来て、最後には活発な女の子のように飛び跳ねて歓喜の声を上げた。




「やったー!!!冬火すごかったよ!!!ありがとっ!!!」


ラシも同じく歓声をあげ私に飛びついてきた。




私は、魔氷の壁を霧散させ、喜ぶみんなを見渡し微笑んだ。




「やんじゃんっ!!!冬火!!!よく決めたねっ!!!」


リチェが大きな黒の瞳に信頼を覗かせ、私にハイタッチを求める。




「リチェさんのネックレスのおかげだよ!」


私はリチェに力強くハイタッチした、リチェはイテテと笑っている。




「でもあれ、何だったんですか?」


今聞く事でも無いと思ったが、我慢できず聞いてみた。




「また今度話したげる!」


リチェは私の口をむにゅーっと抑えて、自らもタコみたいな口にし笑っていた。


やばっ、この人カワイイ。取り敢えずは……いっか。




「リチェ、助かったぞ」


アルメヒがリチェの肩を叩いて、ささやかに微笑んだ。


リチェは何も言わず、「これでよかったんだよ……」と言う風な笑顔を返していた。


しかし、そのリチェの手は寂しくなった胸元で行き場を無くしているようだった……






そして私達は、フロアの真ん中にある、地に刺さった黒く淀んだ大剣と、小さな宝箱に集まり出した。


ミゼリア王女とアルメヒは最奥の眩く光り出した祭壇へ向かう。




「これもミミックじゃないの?」


シュカが冗談交じりに言うと、みんなは「ゲッ!」っと一歩下がった。




「流石にそれはありませんよ」


ゾディがふふふと笑い、一番乗りに宝箱に手を伸ばそうとした時だった――




「わぁっ!!!!!」


ドアドラとゲイドが同時に、ゾディを後ろから容赦抜きに驚かせた。




「うわあああああっ!!!!!」


ゾディは驚いて振り返りながら強烈な平手打ちを二人の顔へ連撃した。




二人は真面目に痛がり蹲る。




「あんたらが悪いよ……」


リチェはやれやれと呆れた顔をしてるが、私達を見て嬉しそうにする。




その傍らでは、ルヌがあの怪しい大剣をじーっと眺めている。




最奥からミゼリア王女とアルメヒが戻って来た。ミゼリア王女の手には魔術書が抱えられている。




「もう開けちゃいますよー」


シュカが、統一感の無いみんなに退屈する様に言い、はいせーの!と一人で声を上げ、勢いよく宝箱を開けた。




その中身は……

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