幽ノ坂 冬火、焦る。
取敢えず、このままでは埒が明かないので、私はみんなの要望通りミミックを凍らす事にした。
二十立方メートルはある巨大な宝箱を、全力で氷漬けにするなんて、一ヶ月前の私が聞いたら、鼻で笑いながら無視してアニメでも見るんだろうな。
あの頃は、何からも逃避した生活だったよな……
「みなさん、もしミミックが襲ってきたら助けてくださいね」
私はミミックに手をかざしながら、一応フラグを立てておいた。
「あたぼーに……」
ルヌがグッドと親指を立てている。
みんなも、うんうんとあまりよく分かっていない頷き方をしている。
あいつ刺激して本当に大丈夫かなぁ……と思ったが、もういいや!なるようになれ!と精神を集中し出した。
「氷さん氷さん、あのミミックを世界で一番冷たくしてあげて!!!」
私は童話の魔女みたく呪文を唱えた。
「氷さんと話が出来るんですか?」
ゾディが、パッツンの金髪前髪をひらっと浮かせ、食い気味に聞いて来る。
「あ……ちがくって……んー……もう……」
集中させて!!!
発射――
私は、ミミックの危険性をゲームで熟知しているので、一発で倒せるように特大のエネルギーを惜しげもなく放出した。
ミミックはまるで、北極の大氷雪の中で埋もれているみたいに凍結し、白く燃焼する巨大なクリスタルに閉じ込められた。
……
あれ?
その光景はまるで、完璧な箱の中に、さらに完璧な箱を被せたような決してもう開かない見た目だった。
ミミックは動かない。
みんなは沈黙している……
ドアドラが沈黙を気怠い声で裂きだした。灰色のボサボサ毛も相まって至極面倒くさそうだ。
「やっぱり、ただの宝箱だったんじゃねーかぁ、ひよっこ」
みんなは、その言葉に心を揺さぶられている顔をしている。
「えっ……いやっ……ほんとに……ミミック……だって……たぶん」
私は段々自身が無くなってきた。
ホントなんだもん……
その時だった――
急に氷漬けの宝箱の方から強烈なミシミシ音がし、表面の氷がバキバキと砕け落ちていってる……
「ほ……ほら」
私は、こんな事態なのに勝ち誇ったような顔で、震え声を出した。
「やはり敵か……しかしあの氷で生きていたとは……」
アルメヒが剣を構え言った。その目はまたもや竜の瞳のようになっている。
この人の見た目って、かなり女主人公なんだよね。後、女子高なら後輩から滅茶モテそう、スタイル良いし優しいし。
って、そんな場合じゃないよ私。集中!!!
「条件魔術かもしれないね。威力に関わらず、特定の攻撃や状況でしかダメージを与えられないのだろうね」
ソレイが目を細め、ミミックを凝視している。
そんなのあるんだ、賢い吸血鬼青年だ事。
だが、次の瞬間、一同は騒然となり、私も余裕がほとんど無くなった。
なんとあのミミックは、私の氷を圧倒的物理能力で破壊し出したのだ。
氷の中で蓋がちょっとずつ開いて、バキバキと粉砕音がしている……
そして、開いた箱の中から、至極怪しげな暗闇と、乱雑に生えた電柱の様な太さの鋭利な牙、クジラみたいなサイズの大きくて長い舌がベロベロと現れた。
そして、ミミックは、その巨体を何の苦労も無く、素早く私達の方に向けた……
「いやあああこわいいい」
ゾディはパニックになり来た道を勝手に戻ろうとした。
しかし、来た道へと続く場所に、宝箱と同じ柄の魔法陣が現れ、ゾディはぶつかって転んだ。
「いだああいよぉーーーぐすっ」
泣き喚くゾディをミゼリア王女とルヌが撫でて落ち着かせている。
そんな私達を見てか、ミミックは嵐のうねりのような巨大な笑い声をあげた。
「骨の飛竜と似た叫び方だ……」
私は自然とそう呟いた。
「悪魔の類なのかもね……」
ソレイが怖い目をしてボソッと呟く。
みんなとても不安そうだ……
近寄ろうにも、先程見た俊敏さや、あの長い舌から、誰もが警戒して迂闊に動けない。
「ど、どうしたらいいの!?」
ラシが大声を上げた。
みんなも、流石にソワソワし出す。
「行くか?」
ゲイドは覚悟を決めたような顔でオーラをたぎらせてみんなの前に立出した。
「散らばった方がいいかな?」
シュカが、みんなと距離を取り出す。
ミミックは口を全開に開いた。
その見た目は、無数の剥き出しの牙と、えげつなく揺れる舌で、まさに絶望と言う言葉がぴったりだ。
こう見れば分かる、やはりコイツはかなり醜悪な存在だ。見た目が何よりも物語ってる。
早めにケリをつけよう。
「離れないで!離れたら守れない!」
私は、敢えて仲間達の自由を許さなかった。
みんなは少し戸惑う、が言っている意味は分かってくれているようだ。
ミミックは90度立ち上がり、尋常では無い大きさの、悪魔の世界の扉のような口の中を私達に贅沢に見せ付けた。
「どうすんだ冬火!!!」
ドアドラがさすがに危機を感じ怒声を上げ出した。
中層のボスを倒したみたいに、聖氷の大槍を生成すれば倒せるか……?
でも防御が疎かになれば、一瞬で全滅するかもしれない……
私は、怪しい動きをするミミックを凍結させ動きを止めつつ、目の前に巨大な氷壁を作りながら言った。
「私が壁でみんなを守りながら攻撃するよ。私の知ってるミミックは、口の内部に攻撃が有効で、強力な聖属性や毒が効くから、それを使える人は手伝って欲しい!」
私は焦りながら早口で喋る。
「では、ミゼリアとラシの光弾が効くか?」
アルメヒが私の前に立ち、守る様な姿勢で構えながら、私に問うた。
「正直わかんないよ、コイツはあの災厄の骨の飛竜レベルだと思うから、もしかしたら火力が足りないかもしれない……」
その時だった――
「私に任せてよ。毒効くんでしょ?」
リチェがネックレスを外しながら私に近寄る。
「リチェ良いのですか……?」
ミゼリア王女がそう言い、アルメヒが苦い顔をしている。
「いいよ……ここで死んだら意味無いしね、これでみんなが生き残れるなら良い使い道だって」
リチェは、笑っているが寂しそうだ。
「リチェ……すまん」
アルメヒが頭を下げて、声を落とした。
「冬火、このペンダントあいつの口の中で潰せる?」
リチェが黒髪の中から優しい瞳を覗かせて聞いて来た。
「あ、はい。あいつの口辺りで凍結させて、そのまま氷を凝縮して押し潰せば……」
私は、そう言いながら焦っていた。
ミミックは私の凍結を楽しむように雄叫びを上げバキバキ砕き、恐らくはもうそろそろ自由に動けるからだ。
目の前の巨大な氷壁で、どのくらいみんな守れるだろう……
いや、違う。私はみんなを守り抜くまで負けてはいけないんだ。
「じゃあ……お願い。毒が効くんならきっと倒せるよ!」
リチェはいつも通り、美しい体躯をクイッとくねらせカラッと笑った。
「これは一体なんなんですか?」
私は、ネックレスを手に取り言う。
リチェは、表情が変わり笑ってない目で口角を少し不気味に上げた……
「ヒュドラの毒だよ」
その言葉と同時にミミックは、あの巨体を新幹線のような勢いでこちらに向かわせてきた……




