幽ノ坂 冬火、ミミックを説明する。
中層のボスを倒した私達は、そのまま下層への道を進んだ。
中層のボスが落としたアイテムなのだが、掌サイズの歯車みたいにギザギザした形状の赤く輝く金属だった。
リチェがそれを見て興奮し、「もしかしたらこれオリハルコンじゃない!?」とはしゃいでいて、欲しそうにもしていたのだけれど、ソレイが、「倒したのは冬火だから、冬火に権利があるよ?」と言って渡してくれた。
私的にどっちでも良かったんだが、金貨10枚以上の価値はあるかもしれないと聞いたのと、加工すれば一級品の武器になりえると聞いたので貰っておいた。
……
ダンジョンの報酬やば!!!金貨10枚って、家買えるレベルじゃん!!
薄暗い道をみんなでかたまって進み、蝋燭人間みたいなモンスターが出て来たり、馬だけどミミズみたいな見た目の奴に乗った大型ゴブリンとも遭遇した。
他にも、道を塞ぐ程の血色の蝙蝠がぶら下がっていたり、ローブだけで浮遊するアンデッドが出て来たりしたが、単体で襲ってくるモンスター達は、私達の相手では無かった。
ドアドラとゲイドがラリアットで挟み内にしたり、リチェとシュカが重力無視で壁を渡り歩き、合体技のようなカラフルな衣装が踊る、凄まじい乱舞をお見舞いしていた。
私達が、この大迷宮で一切迷わず、トラップにも引っかからずサクサク進めているのは、リチェとシュカとラシとソレイのお陰だろう。
でなきゃ、飛んで来たり噴射したり閉じ込められたりの大惨事だったはずだ。
まず、リチェとシュカは殺気の気配と言うか、危険探知の嗅覚が異常に高く、怪しい所があれば即座にメンバーに知らせ、ナイフや小石で様子を見たり、簡単な仕組みであればその場で解除してくれた。二人共、とても器用で頭の回転も異常に早いみたいだ。
そこにソレイが、ダンジョンの意思を読み取るような、俯瞰した物の見方の意思決定のお陰で、数段構えのトラップの罠などにも対応できた。
ラシに関しては、ミゼリア王女に貰った魔術書から、呪いや結界や邪悪な罠などの軽度なモノであれば、強制解除する追尾式光玉の魔術を会得していたらしく、トラップを一網打尽に破壊してくれている。
そしてラシは、気配を嗅ぐ光の魔術も扱え、一番危険な気配が薄い道を示してくれたりもするので、リチェとシュカの判断と組み合わせればとても安全な道を辿れるのだ。
という感じで、ボス以外の攻略に関しては、すこぶる順調な私達であった。
だが、面倒くさいトラップや迷路だけがこのダンジョンでは無い。
それに見合った報酬が、至る所に落ちてくれているからだ。
珍しい鉱石、輝く角や魔力の籠った牙、ボロボロで未知の言葉の魔術書、高そうなコイン、太古の文様のネックレスなど、地味に良い物そうなのが幾つもあって、私達はモンスターよりそっちに気をさいていたぐらいだ。
それに関しては、見つけたもん勝ち、早いもん勝ちで、後で戦利品としてギルドで換金するなり、そのまま使うなりしていいと言う話だった。
私は特に、ユニコーンっぽい角を見つけて滅茶苦茶はしゃいでいたのだが、ドアドラが俺が先に見つけた!などと面倒くさい事を言い出し、少し揉めた結果、ミゼリア王女にじゃんけんで決めるように言われ、普通に三回連続で負けて譲る事になった。
絶対レアだったろうからホント悔しい。
最早、悔しさのあまり脛を蹴ってやったぐらいだ。
その時ドアドラは「お前があんな力持つん怖いわ」と私に言っていた。
なら、返せ。ユニコーンの角!!!!!ユニコーン好きなんだよ私!!!!!
そんなこんなで、また大きなフロアに出た――
……いる。
よし、言わないと。
「私、幽ノ坂 冬火は断言します。あれは、100%ミミックです」
私はみんなの前で、フロアの中央にある、二十メートル立方程の煌びやかな宝箱を指差した。
「ミミックとはなんですか?」
ミゼリア王女は首を傾げて私に聞いて来た。みんなも同じ表情をしている。
え、まさかの今までミミックと遭遇した事ないの?言葉知らないだけ?
確かに、今回の探索では一回も見て無いけど……
「宝箱と思って開けたら、モンスターがガオーッって出てくる奴です」
私はジェスチャーを面白おかしくつけて説明した。
「なるほど……面白い発想だね」
ソレイが灰色の瞳でミミックであろう宝箱を見つめながらそう言った。
みんな、今まで冒険者人生ラッキーだったね……
いや、待てよ……このいにしえの巨大都市に、ミミックはこの一体だけだったり……?
「確かに……気配がおかしいわ。気配が無さすぎるんだよあれ。まるで隠してるみたいに」
リチェが、足元に落ちていた鉱石を拾い上げ、時速300kmはくだらない剛速球で宝箱に投げた……
カキンッ!!!
鉱石は高い音を立てて弾かれる。しかし、宝箱は無反応だ……
……みんなは疑いの目を私に向けて来た。
「いや、マジで、ミミックですって!ユニコーンの角賭けてもいいです!」
私はみんなに必死に訴えかける。
「俺のユニコーンの角を勝手に賭けてんじゃねーひよっこ!」
ドアドラは大人げなく怒り出す。
「では冬火、あれを凍らせてみたらどうだ?」
アルメヒが、琥珀の瞳をきょとんとさせて、私に言う。
みんなも当然のようにペコリと息を合わせて頷く。
もしかしたら、アルメヒさんは大胆かつ天然っぽい人なんじゃないかと、私は感じた。今のアルメヒさんの目は、戦闘時の鬼人のような雰囲気とは違って、ギャグ漫画なんかで見た事のあるような目をしていた。
「えーーー……怖いなぁ。だって考えてみて下さいよ?あの宝箱が暴れ出したら結構危なく無いですか?ミミックてかなり強めの敵だったりもしますし……」
私は、ミミックの危険性について熱心に説明するが、みんなは、でもなー……みたいに顔お見合わせて、明らかに私の氷待ちだ。
「冬火、そのミミッコは移動はするの?」
ラシが真剣な顔で聞いて来た。
「ふふっ……ミミッコだって……」
ルヌは私が突っ込む前に笑っている。
幾人かがつられて吹き出して笑い、ラシはなんで?とハテナを飛ばしている。
「えーっとぉ、まずミミックでぇ……移動は結構するね。早いよ」
私がそう言うと、みんなは意外そうな顔をする。
「どうやって動くんですか!!」
いや、ゾディ……なんで半ギレなの?
「跳ねるとか……?」
私はウサギみたいにちょっとぶりっ子して、ぴょんぴょんと飛んでみる。
「は?どうやって?筋肉は何処にあんだよ?」
知らねーよドアドラ。お前は自分で考えろ!と男には冷たい冬火ちゃんでした。
「わかんない。でも跳ねて噛みつこうとする」
私は、こんなにも大衆を説得するのは難しいんだと切に思った。
「噛みつくんですか……私達が宝になっちゃうってわけですね」
ミゼリア王女……あんまり上手くないですよ。
「まっ、仲間は元から宝みたいなもんですよ」
シュカがそう言うと、ミゼリア王女は「そうね、うふふ」と二人で盛り上がってる。
「噛まれるのこわいいいい」
ゾディは突然パニックになり頭を抑えて蹲りだした。
「いや……舐めてきそうな感じもするな……」
ゲイド微妙に感鋭いの何?
「冬火、これ直して」
ルヌが、左右非対称なツインテを私に向けた。
私は、試練の大迷宮のボスであろう存在を前に、仲間のツインテールを結い直しながら思った。
え……
てかさ……
全員ゆるすぎない?




