幽ノ坂 冬火、引かれる。
S級冒険者達は巨大なフロアに盛大に飛び出した。
アルメヒは黒龍のかぎ爪のような特大剣を掲げ、天井までジャンプし、そのまま一直線に隕石のように落ちる。広範囲の敵が吹き飛び地面が隆起して、それらが歯車剣士達を貫いた。
リチェは、以前のシュカにも引けをとらない速度で、アルメヒの周辺にすぐさま向かい、アルメヒに近寄る敵にナイフをさらっと当てて駆け回る。歯車剣士達は即座に色が紫に変色してバタバタと倒れていく。
ミゼリア王女は、カラフルな幾何学文様のような魔法陣をフロアに幾つか出現させた。
そこから、神々しい小さな伝記上の獣のような存在が複数現れる。
その内の一体の黄金の鳥が隕石のような燃え盛るファイアボールを打ち出して、歯車剣士達はあられもなく吹き飛ばされ、不思議な炎に燃焼を続けている。
ドアドラは、ソレイと、ルヌと一緒に黒い翼膜で宙を舞っていたが、一人天上付近に移動すると、次の瞬間には恐ろしい速度で、赤い残光を残し、稲妻の如くあらゆる場所に飛来し、真っ赤な長剣を振り回している。威力は凄まじく、三メートルはある歯車の剣士が壁までぶっ飛んで激突している。
ルヌは、五メートルぐらいのドロドロの目玉だらけの黒スライムを出現させ、上空で涼しい顔をし全体を見ている。
ドロドロスライムは、その多い目で自動的に仲間に近寄る敵を判断し、意外と早いスピードで近寄り、敵を完全拘束していく。
触れた者は何やらしんどそうに跪いている。
ソレイも上空で、四角形、三角形、長方形、丸などあらゆる形の月の紋印が入った棺を、闇の空間から召喚している。
さらに何かを唱えるとその棺が絶叫の様な音を立てて開き、人程の大きさの、ガーゴイルや邪竜の様な、悪魔っぽい存在達が這い出て来て、歯車の剣士達を狂乱の宴のように片っ端から片づけている。
一つ気づいたのは、誰も真ん中のボスにはあまり攻撃していないという事だ。
よく見ると攻撃が届く前に跳ね返されているので、バリアでも張っているのかもしれない……
私達は、S級冒険者達の実力に圧倒される……
「冬火!行くか?」
シュカが黄金の秘刀を両手に引き抜き、私に聞いた。
「そだね。でも……絶対に無理しちゃだめだよ?私、みんなが傷つくの耐えられないから」
私は率直な気持ちを述べた。
「私もです!だから、絶対に皆さんを守ります」
ゾディは、暗黒属性の特大ビーム剣を出現させる。
「私もみんなを守るよ!!!何があっても回復さすからね!!!」
私達は、気持ちが一致し、とうとうボスフロアへと足を踏み入れた……
ビュイイイイン!!!
ゾディは躊躇無く、私達の目の前に迫りくる敵の群れを薙ぎ払った。
空間が歪む程のエネルギーは重力にでも影響しているのか、吹っ飛ぶ歯車の剣士の体を一瞬無重力にする。威力の凄まじさは異常で、剣を振った後、数秒後に遅れて、ドミノ倒しみたいに地面が膨れ上がり波打つ。
「ゾディつえー」
シュカは茫然として言ったが、すぐさま切り替え、まるで高速な編み物の様に、飛びかかる敵も、走って来る敵も、一体残らず一網打尽にしてくれている。
恐らく、視力だけに頼らず殺気や気配を辿り、瞬時に美しい曲線を描く居合いを決めているのだ。
さらに武器固有の風属性の衝撃波は、奥にいる敵さえも簡単に戦闘不能にしている。
「シュカさんもやるじゃないですか!」
ゾディが笑って言う。
「もってなんだよ!?まだストレッチ以下だからな!」
二人のポテンシャルは最高潮に達している。
「私も負けないよ!」
そう言うラシの回復魔術の光円が地面ではぐるぐる回っている。
この中にいると、細胞が歓喜するみたいに気持ち良い。
ラシはさらに何かを唱える……
あの魔術書で魔法でも会得したのかな。
すると、私達の頭上に直視できない程眩しいミラーボールみたいな球体が現れ、
それからユラユラ揺らめく光弾が連射され、敵だけを確実に判断し追尾しては、間近で破裂し無数の光の糸になり、敵を拘束している。
剣でそれをほどく敵もいるが、かなりの足止めになって、ゾディもシュカも動きやすそうだ。
「ラシ!!!すごいよ!!!」
私は感動して大声で叫んだ。
「ふふっ!徹夜して魔術書読んだ甲斐が合ったね。まだ、最初しか読めて無いけど」
ラシはとても嬉しそうに笑った。
すると、ミゼリア王女が私達に叫んだ。
「良い調子だね!!!頑張って!!」
私は笑顔で頷く。
だが、私達に何か飛んで来た――
やばい――
歯車の剣士の塊だ。
あのボスが投げたのか?
ドゴオオオオオオン!!!!!
それは私達に辿り着くまでに彼方へと吹っ飛んだ。
ドアドラが猛烈な速度で駆け付け、真っ赤な波動を絡めた剣で、鮮やかにさばいて防いでくれたのだ。
「油断すんなっ、新人共!」
ドアドラがそう言い、私達を指差した後、ボスを睨んでいた。
「ちょっとかっこよかったな今の……」
シュカがボソッと言った。
「まずまずですね」
ゾディは結構かっこよさのハードルが高いのかもしれない。
よし、私も頑張らないと。
正直言うと、このフロア全体を凍らせばいいんじゃないかと思う、どんぶり勘定を考えていたのだが、それは仲間も凍らす可能性があるので絶対出来ない。
なので、瞑想で培った空間支配で、近場の敵を凍らしているのが今の現状だ。
と言うか、ホントなら私達全員の猛攻で、歯車の剣士は簡単に全滅しているはずなのに数が増えているのは、私達が倒す速度より、あのボスが早い速度で歯車の剣士を生成しているからだ。
しかも最初の個体より遙にデカい、倍の大きさの個体なども増えて来ている。
段々とフロアが圧迫されて、私達冒険者が押しているのに囲まれている状態だ……
この状況ゲームで見た事あるんだよな――
絶対、ボスだけを倒せば良いクエストで、むしろボスを倒さないと意味無いクエストだと思う。
S級冒険者達はみんな分かってるんだろうけど、バリアに隙が無いんだろうな。
よく観察したら、ちょくちょく攻撃して観察している感じがあるし。
よし決めた――
「みんな!!!あのボス片づけるから、全力で護衛お願い!!!絶対決めるから私!!!」
私は、いきなり自己中な発言をしたが、一番これが正しいと思い、仲間を信じて言ってみた。
「待ってたよ、それそれ!!!」
シュカは笑いながら、滑らかな居合で周囲を駆け抜ける。
「お願いします冬火さん!この敵を倒すだけじゃ埒が明きませんからね!」
ゾディが思いっきり剣を薙ぎ払うと、赤黒い閃光が空間に入り、破滅のような大爆発が起こった。
「冬火、思うようにやっちゃって!!!」
ラシは、私の背中にべったり付き、そう叫んだ。
うん、やっぱり私のパーティーは最高だ――
私は瞬時に、真っ白で巨大なボスに向けて手をかざす。
次の瞬間、ボスの周囲を絶氷の嵐が包み込む。
奴は、一瞬にしてスノードームみたいになった。
中で理解出来ず困惑して暴れている。
恐らく、私の氷を跳ね返そうとバリアが淡く光っているのだが、私の煌煌と輝く無垢白の炎に、その光は瞬時に飲み込まれている。
……
多分、バリア全部凍結出来たな――
このフロアにいる全員が、真ん中のスノードームを見上げて、動きを止めている。
みんな見てるな……
大丈夫、私ならやれる。
一番大きくて、強い事をすればいいだけだ。
私は、目を閉じてイメージする……
かつて見た未知の異形の必殺、(極雷の槍)を、私の絶氷と白焔が新たにリメイクし、何をも貫く聖なる槍とならん事を……
目の前で見たから鮮明にイメージ出来る。
暗闇に確かな形が浮かんだ。
周りが騒がしい……
目を開ける。
天上には、まるで神族が扱うような荘厳な槍が出現していた。
よかった……出来た。
これで、みんなを助けるんだ――
私は、指揮者のように人差し指をヒュンと落とす。
聖氷の大槍はスノードームに突き刺さり、衝撃的な光を発しながらバリアにねじ入り、そのままボスを貫いた――
スノードームは割れ、突き刺さったボス現れる。
それと同時に、歯車の剣士は夢のように姿を消していき、最後にはボスもあっさり消えた……
ボスは、何かアイテムをからんっと落とした。
私は虚空に浮く聖氷の大槍を霧散させる。
沈黙の中、いつの間にか、私の頭上にいたドアドラが言った。
「お前マジか……」




