幽ノ坂 冬火、世界の真実を知る。
試練の大迷宮に向かう前に、私達のパーティの今後の為を考えて、ミゼリア王女が、
いにしえの巨大都市を含むこの世界に関して、説明してくれると言うので私達は宮殿へ向かった。
前の世界の都心部の大都市並みのスケールでありながら、古代文明漂う建物の集まりのこの都市は、なんと、"この世界の極一部"だと言う話を聞いて私は正直驚いた。
一体この都市の周りには、何が広がっているのか私には想像も出来ない……
宮殿は、この都市の中心に位置し、活気溢れる大小複数の市場の交差点にある。
巨大な鐘のある塔や、何の信仰かわからな教会などもこの宮殿の近くに位置し、
まさに全てがこの宮殿に集約しているようだ。
いにしえの巨大都市、宮殿内――
「みなさーん!よくお越しくださいましたね!」
私達が、宮殿の外門で侍女に案内され宮殿に入ると、ミゼリア王女はぴょんぴょんと飛び跳ねて、テンション高めに手を振っていた。
滅茶苦茶性格良くて可愛い先輩女子感が半端ない。私、優しそうな人凄く好き。
今日は王宮の政務なので、他のギルドメンバー達はおらず、ミゼリア王女だけだ。
ミゼリア王女によると、国王は病床に伏せており、ミゼリア王女が近隣都市の外交や政務を代行しているらしい。
「どもー、ミゼリア様。今日も誠にお美しいです!」
シュカがペコリと挨拶する。シュカは飄々とした同期感が半端ないな……
「ミゼリア様、お招きいただきありがとうございます」
ラシは深々とお辞儀をする。
私とゾディも二人に続き、深々とお辞儀した。
ゾディ……今日、凄いお嬢様っぽい服装だ……
災厄の勇者の一族とか言われてるが、家は大屋敷だし、世間的には名家なんだろうな。
「うふふ。こっちこっち!」
ミゼリア王女は私達と大庭園を歩きながら、楽しそうにスキップする。
宮殿、執務室――
私達は、ミゼリア王女が普段仕事をしているのであろう、小さな図書館のような雰囲気の部屋に入る。
その中央には、大きく品のあるテーブルがあり、その上に巨大な地図が広げられていた。
「どうぞ座ってー」
私達は、ミゼリア王女を含め五角形でテーブルを囲んで座る。
「ええっと……ではですね、本日はお越し頂き誠にありがとうございます!選ばれし冒険者一行様。今から、公ではあまり語られない、この世界の秘密を皆様に語らせて頂きたいと思います!ほんの少し長いけど、ワクワクする事間違い無いから安心してね。終わったら、みんなで王宮自慢のスイーツとお茶をご馳走するからね!」
ミゼリア王女は、白くて細い手でピンっと人指し指を立てた。
「スイーツですか。頑張ります王女様」
ゾディはスイーツの事で頭が一杯な顔をしている。
「ミゼリア王女バンザーイ!大好きだー!」
シュカはホント調子が良い。
「どんなお話が聞けるのか楽しみです!」
ラシは童話に夢を馳せる子供の様だ。
「助かりますミゼリア王女。私この世界について何も知らないので」
私は、ミゼリア王女に敬意を込めた眼差しをし、再度頭を下げた。
「みんな、ホント素直でかわいいわね!あまり硬くならなくいいからね。ではでは……こっほん!始めます!」
私達、四人は姿勢を正した。
「初めにこの地図の中心を見て下さい」
大きなテーブルの上の地図は、古めかしくもカラフルで、もはやこれだけでワクワクする。新作RPGゲームの発売日にショップ前に並んでいるような気分だ。
その中心に目を向けると、小さな丸と城のような絵が描かれてあった。
え?もしかして……
「初めての方は驚くでしょうが、その丸で囲まれている城が、このいにしえの巨大都市なのです!」
「……うそ」
私は唖然とした声を出し、信じられない程驚愕した。
何故なら、私が転移したこの都市は、この世界の大半だと思っていたから。
だが地図を見るにこの都市は、大きな部屋にサイコロが落ちているような規模じゃないか。
きっとみんなも深くは知らなかったのだろう、同じような表情で即行氷ついている。
「びっくりしたでしょ?さらに言えば、この地図の外にも恐らく世界は続いてます」
ミゼリア王女は私達の驚きの表情を見て、それが欲しかったのです!と言う、胸が躍っている様な嬉々とした顔をした。
沈黙する私達、ミゼリア王女は続ける。
「この地図は試練の大迷宮で発掘された太古の物ですが、既存の地図と照らし合わせてもほぼ内容が同じ事から、恐らく世界を正しく描いているでしょう」
「あ!私の村だ」
ラシは、この都市から北にある荒野の村々を指差した。その先には広大な砂漠が描かれている。
「私の村はこっちだ!」
シュカが指差したのは、この都市の西にある草原から続く大きな川を下った場所に位置する、ダンジョンや神殿のような絵が沢山描かれている場所だ。
その先には死んだような不気味な色の土地と大きな建物が沢山描かれている。
シュカの村とは反対の、いにしえの巨大都市から東は、同じく大きな川が続いているが、途中で超巨大な密林が描かれて、巨大な動物や爬虫類が描かれている。
その先はよく分からないけど金ピカな宮殿ばかり描かれている
「ふふっ」
ミゼリア王女は少し笑った後、北のラシの荒野の村、東の草原の先の密林前、南の山岳地帯の手前、西のシュカの神殿と川の村を、とても小さな円を描くように、指先でぐるっと一周した。
「今、私達いにしえの都市と近隣都市に住まう存在達の文明が、知れる世界の範囲はこの小さな円の範囲だけなのです。その先は、猛烈な自然による障壁があったり、太古の禁術結界が張られていたり、S級冒険者達ですら、ものの数分で壊滅状態になる程の国家級の野良魔物が存在して行く手を阻んでいます」
私達全員は想像を絶する規模感に息を呑む。
「じゃあ、あの山岳地帯の入り口で見た、様々な種族の巨人や、大きな怪鳥達や、神々しい飛竜達は、S級冒険者達のみんなでも倒せないんですか?」
私はミゼリア王女に聞く。
「はい、以前に何度か挑戦しましたが、全く歯が立ちませんでした。巨人達の攻撃は一振りで山をも砕きますし、超大型怪鳥が連発する属性魔法はS級冒険者の魔導士ですら防ぐ事を許されない禁術です、古代竜に関しましても、そんな理外の存在を圧倒するレベルですね……ちなみに、山々を支配する未知の生命体ってのもいます」
ミゼリア王女の顔はとても真剣だった。
「もしかして、そんな感じのモンスター達はラシの村の先の砂漠とか、私の村の先の死んだ土地や、東の密林にもいるって事ですか?」
シュカは顎に手を当てて、何かを察したようにミゼリア王女に聞いた。
「勘が鋭いですねシュカさん。そうです、勿論自然の障壁や魔術で遮られているのは確かですが、それだけではなく、想像を絶する存在達の脅威を危惧して、いにしえの都市を中心に、各都市や村の方々には、禁忌の土地として民を近寄らせないように連携を取り合っていました」
「それで昔、おばあちゃんは砂漠へ行ってはダメだよって私に言ってたんですね……」
ラシはおばあちゃんを思い出したのか寂しそうな顔をした。
後で、元気づけてあげよう……
「うちも同じだよ。死んだ土地に近寄ると災いが訪れるってずっと言い聞かせられてきたんだ」
シュカは、とても納得がいったと遠い目をしている。
「そうですか、ルビエラの話に出て来る魔獣は、それらの存在の話だったのですか……」
ゾディは、自分の一族に受け継がれてきた話に合点が言ったみたいだ。
「転移魔法を使える人はいないんですか?」
私はふと浮かんだ疑問を聞いてみた。
この世界には明らかに違う世界の物が存在するから……
「はい、私の知る限りではその魔法を使える魔術師は一人もいません」
ミゼリア王女は言い切った。
あれ、おかしいな……
ミゼリア王女は表情が変わりだし、綺麗な青い瞳が、まるで夢見る子供のように光っていく……
「しかし、いにしえの都市の世界の生まれの者が、過去に一度もこの狭い円から抜けられ無かった訳では無く、この地図自体の世界を生きたと言われる存在達も伝説上の噂レベルでは存在します。むしろこのような地図もそんな存在から作られたと思われています」
ミゼリア王女は、私達をじーっと眺めて誇らしい顔をした。
「ゾディさんのご先祖様、(勇者ルビエラ)やシュカさんのご先祖様、(刀王フィロミナ)さんがそうですね。ラシさんや冬火さんの回復魔術や魔女の力に関しても、それらの偉大な存在達が生きた規模に匹敵する能力と考えております」
「私のご先祖様すごいじゃん!!」
シュカが嬉しそうに言う。
「はい!その通りです」
ミゼリア王女は間違いないと頷く。
「外の世界へ行った勇者……」
ゾディは自分の手の平を見る。
「ゾディちゃんも行けるかもしれませんよ!?」
ミゼリア王女は悪戯っぽく笑った。
「つまり私達パーティーは外の世界に近い……?ってことですか」
よく分からないが、そんな風に感じたので、私はミゼリア王女に聞いてみる。
「そうです!!!私から言わせれば今の世界を無限に広げてくれる希望の塊のようなパーティーです!!!私達の世界で言う冒険者とは、世界を広げる者達の事を言うのですが、そこから考えればあなた達は、生粋の冒険者の素質があるのです!!!」
嬉しいな。
素質があるなんて、前の世界では言われなかったから……
「生粋の冒険者ですか……私達が世界を広げた先には何が待ってるんですかね?」
私はミゼリア王女に尋ねた。
「きっと想像も出来ない、抱えきれ無い程の利益でしょうね。あなた達にとっても民にとっても……それは、何度生まれ変わっても尽きない様なご褒美に辿り着けるかもしれませんし、生死を超えられるような意味にだって辿り着けるかもしれませんよ?」
ミゼリア王女は興奮してそう喋ったが、ちょっと分かりずらいなと自ら反省したように続けた。
「では具体的に、どんな世界があなた達を待っているか、ざっと述べましょう!そうすると、イメージしやすいかもしれませんからね……ええ……こっほん」
「ちょっと長いですが、ご清聴よろしくお願い致します」
……
私達は、ミゼリア王女の言葉を静かに待った。
「北の世界には、万年の時を越えて栄える広大な砂漠文明があると言われています。
その果てには、海という草原を流れるどんな大河とも比べ物にならない、世界そのものを覆うほどの蒼き水域が広がり、水中で暮らす種族や、この都市ほどもある巨大な魚が棲んでいるそうです。
西の世界は、生命すら寄せ付けぬ死の大地です。
その先には、月明かりだけが永遠に降り注ぐ美しき夜の世界、幽霊や骸が彷徨う冥府の都市、そして、あらゆる世界を見届けて来た、世界の知を知る不老不死の魔王が眠る宮殿があると伝えられています。
東の世界には、巨人ほどの木々が果てしなく立ち並び、その森を天へ届く大蛇が這うと言います。
さらには、その木々すらも小さいと言える程の、星の中心に繋がる世界樹があるとも言われています。
それらの森を超えた奥には、魔力そのものが結晶化した宝玉が無数に眠る財宝都市があり、次元さえ違うような宴や祭典が、昼夜を問わず開かれているのだと言い伝えられております。
そして南――
誰ひとり踏破した者のいない山岳地帯を越えた先には、物質そのものが意思を持つ超文明世界が存在し、遥か星の果てから来た者達が暮らしていると言われています。
さらに山岳地帯の最奥、果てへ繋がる禁忌の扉の地には、巨人だけが持つ鍵で開かれる異界の門が多数眠っています。
その門の先には――
原初の炎そのもので出来た、火の星。
あらゆる悪魔達が、広大な世界の玉座を奪い合う、魔界。
大陸程の竜王が支配すると言われている、竜族の世界。
極彩色の幻獣達と神すらも絶賛する果実がなる楽園。
そして、まだ誰一人名すら知らない異世界が沢山広がっているというのです……!!!」
私達四人は、同じように口をあんぐり開けて、無限の世界の広さに圧倒された。
ミゼリア王女は、さもその表情が嬉しい様に、こう締めくくった。
「あなたたちは、このような世界を自分達の目で見れる可能性があるのです!!!
そして、この都市に住まう無数の人々に、世界の可能性を与えられる事もできるのです!!!」
ああ、そっか。
ミゼリア王女は、都市に迫る未知の敵の襲来を防ぐだけのネガティブな戦いとは思って無いんだ。
自分達から、未知の世界を開拓しようとしてるんだ。
それって……
「すごく……面白そうですね!!!」
私は立ち上がり、待ちきれ無いと高まる心臓から発する声を高らかに上げていた。




