幽ノ坂 冬火、休日に飢える。
最近、流れるように大事件に吸い込まれている気がするんだ……
気のせいかな?
仕方ないよね……私が大事件起こしてる節もあるし。
しかーし!!!
ちょっとでいいから息抜きしたいの!!!
元々、自室に籠ってフヒヒとオタクライフを楽しんでいた女子高生故、最近の
ハリウッドスターも脱帽して、私とハイタッチする為に並んでくれるようなアクションの毎日はちょっと辛いんだ。
出来れば毎日ラシとイチャイチャして、気が向いたらミルクスライム蹴っ飛ばしてお金稼いで、シュカをいじって、ゾディをバブちゃん扱いして、晩御飯はスパゲッティとかハンバーグを食べて終わり、みたいな感じで過ごしたい。
後、ギャグが言えないシリアスな状況が続いてるし、微妙に男と接する機会も増えたから、ストレスがマンボーって感じで踊り出しそうだったの。
わかるかい?(おあばぁちゃん風)
という事で、試練の大迷宮に行くまでの間、私は怠惰って概念にシロップをかけるぐらい甘い生活を送ってやると誓っている。
もう、遊んで遊んで遊んで寝て寝て寝てを繰り返してやる。
お金も沢山使って、無くなったらミゼリア王女に借りてやる!ガオッ!!
そんな感じで、今の私は休日に飢えている。
私達の朝――
「ラシーーー!お願い抱き締めてー!」
私は朝起きて、即行ラシに抱き着く。
自分から言って既に抱き着いてるのが、みそだね。
「はいはい、よしよし」
ラシは、くるんくるんと寝ぐせで跳ねた、薄ピンクの髪をぴょんぴょんさせて、私をハグする。その眼はまだ夢の世界にありながらも。
私はなんか別の動物かと思うぐらい、ラシの首辺りの匂いを嗅ぎまくる。
変態?いいえNO変態!
……みんなだって、二次元美少女級の親友がいたらそうするでしょ?
え?しない?
ふーん。嗅がない人生ってわけね……トホホ。
それで顔洗ったり支度したり、市場の焼きたてのパンとか目玉焼きとかの朝食をラシと一緒に食べて朝は終わり。
で、その後シュカとゾディと合流ってのが主なパターン。
この二人も、一緒に朝食を食べる時があるんだけれど、面白いのが私達四人はどうも似た者同士で、四人揃って朝食を食べながら寝たりするんだ。
何と言うか、前世でも友達だったんじゃないかってぐらい息が合う。
「やっほー、ゾディっ子、シュカ」
私は思い切り走ってぶつかる振りをした。
「うわあああこわいいい」
ゾディは、すぐさまビビッて頭を抑えて蹲っている。
「おーーーと、ゾディっ子地面見てアリでも探してるのかな?可愛いのいるかな?」
私は追い打ちをかける。
「冬火、今日テンション高いな。あれ、ラシは?」
シュカが頭に手を当て、口笛を吹き呑気そうにしている。
もしシュカが私の転移する前の世界、つまりは日本にいたら私と逆で、アクティブなニートだな。
あ、でも、見た目がすこぶる良いから、要領よくやってけるかも……
ずっる。
「魔術書読んでから来るってー」
私はツインテールをぶんぶん振り回し、勝手に沸いた憎しみをシュカにぶつける。
「あーもう……邪魔、やめて、おかしな髪型しやがって!」
シュカは私のウザがらみに半分ぐらい本気でイラつき、頭をはたいてきた。
「痛っ!暴力反対なんですけどー」
私は二つのツインテールを手に持ち、シュカに突きつける。
「私の分もお願いします……シュカさん」
しゃがんだまま顔を腕で隠しながらも、隙間から見ている雑魚かわいいゾディっ子。
「任せてゾディ。お昼はバーガーでいいよ!」
シュカは当然のようにゾディに奢らせる発言をし、私を叩こうとする。
「お金無くなるのは、いやあああ」
ゾディは耳を押さえ首を振り、きらっきらな金髪をさらさらと振る。
私達が散々いじるのは、ゾディはどんな場面でもとても可愛いので、それを見ていたいってのもある。
ってな感じで、私達の日常は形成されている。
ね?楽しそうでしょ!
いにしえの都市外れ、草原――
ラシも加わり、私達四人は草原を、しんどくない程度に練り歩く。
無限に続く様な青い空と、前の世界では想像も出来ない程に大きい雲を見上げ、ゾディが言った。
「超ミルクスライムっていうモンスターが、A級の討伐欄に増えてましたよ」
「へー、濃いのかな?」
シュカ……さすがに大きさの話じゃない?
「たぶんそうだよ!絶対そう!」
ラシが黒い瞳をまん丸に広げてシュカに言った。
ラシは偶に、根拠の無い事なのに絶対って言う。
「ゾディは、超ミルクスライム討伐したいの?」
一応、妹分の意見も聞いとかないと。
「いえ、恐らくおっきいと思いますので、乗りたいなーって。えへへ」
え!何今の!カワイイじゃないのさ、バブキャラで自らを売り出したの!?
バブゾディなの?それともラプソディなの?
てか真面目な話、手配書に見た目書かれてない奴ってちょっと怖いね。
いわくつきかモンスターか、強すぎて観測不能の奴だろうし。
それか、ギルド受け付けのお姉さんの色鉛筆が切れているか……
そう考えながら、私はゾディの頭を撫でていた。
まるで、砂漠の中心で飼いネコを抱き蜃気楼に過去の想い出を見る、達観した貴婦人のように……
ちょっとボケ過ぎ?私がいつもどんなけ我慢してるか分かってくれてきた?
「面白い発想ねゾディ、私も乗りたいわ!」
いえ、普通の発想だよ?ラシ。濃いって発想が異端だよ。
「じゃあ私は、きな粉持って乗っかって、無限わらび餅だ」
ちょっと待った、シュカさん……
なんで君、きな粉とかわらび餅知ってるの?
この世界の謎なんだけど、妙に前の世界の物が混じってたりするんだ。
まるで、意図的に輸入されたみたいに……
「それって、どの辺に生息してるの?」
私はサラサラのゾディの髪を編みながら言った。
「この辺です」
ゾディがそう言った時、私達は何故ゾディがやたらと移動場所を決めて来るかを理解した。
全ては超ミルクスライムに乗りたいだけだったのだ……
シュカが言う。
「ゾディ怒らないか言ってみ。私達の事、誘導し……」
「ええ、しましたよ」
ゾディは空を見上げて、のほほーんとしながら早口で言った。
「あ……そう」
シュカは簡単に引き下がり、私達の方を見て首を振った。
私とラシは、うんうんと頷く。
それから時間が過ぎ、私達はいつの間にか、四人揃って草原で昼寝していた。
って、当たり前に全員無防備で昼寝するパーティーなんか私達ぐらいだ。
……
……
一時間半ぐらい経過――
「ふぁーーーよく寝た」
私は袖で口を拭い、ツインテを可愛くセットし直して立ち上がる。
「よーしみんな行こーーー……って……」
一人多い。
え?
待って?
ゾディ、ラシ、シュカ、白い人。
白い人、シュカ、ラシ、ゾディ……
え!!!!!多い!!!!!
誰が増えた!!?
あほか!!?白い人だよ!!?
「みんな起きてーーー!!!!!」
みんな、むにょむにょ言いながら立ち上がる。
そしてすぐさま異常に気付いた。
「ぎゃーーーーー」
全員の声が重なり、一つの場所に身を寄せる。
白い人は同じように立ち上がり、こっちを向いた。
「あ……顔、ミルクスライムだわ」
ラシが、後退りしながら言った。
「超の奴だ」
シュカは逃げる準備万端だ。
だが、まだ寝ぼけて草原の雑草を握っている。
「やっぱり、乗りたくありません!」
ゾディは首を振り、金眼の可愛いお目目が潤み出している。
「みんな、よーーーい……」
私がそう言った瞬間、みんなはフライングして、先に走って逃げだした。
「待ってよーーー!!!!!」
私は、思わず転んでしまい膝を擦りむく。
「いたーーーい」
大袈裟な幼稚園児ぐらい叫んだ。
その時だった――
超ミルクスライムが私の背後寸前まで近寄り、まさかの一言を発したのだ……
「コロンダラ……イタイヨネ?」
「きゃーーーーーーー」
私は理解不能でパニックになり、大号泣しそのままみんなの方向へ走って逃げた。
――
その後私は、必死に超ミルクスライムが喋った事をみんな話した。
みんなは、まぁまぁあるよねたまに。ふふふと笑い、そんな事よりお昼何にするー?と激流の様な興味の変化を見せて来たので、見捨てられた事も相まってちょっとショックだった。
そして私達は、ギルドの近くにある行きつけの魚介料理専門店でお昼の食事をした。
で、食べ終えた後すぐに、「ちょっと用事あるからいくねっ」とシュカが言い出しそそくさと何処かへ行くと、ゾディも「今日はもう帰って寝ます」と、まだ陽も明るいのに赤ちゃんみたいな事を言って帰ってしまったので、私とラシは宿屋へ戻る事にした。
宿屋――
「ラシーーー痛かったよぅ」
ようやく二人になった私は、これみよがしにラシに抱き着く。
「あっ……あふ……ちょっと」
流石にちょっと抱き締め過ぎたか、下心が手から伝わり過ぎたか、ラシの顔が真っ赤になっている。
「ねぇラシー?私転んだのになんで見捨てたのぉ?」
私はラシの耳元で罪を問う囁きをした。
いつから、こんないやらしい奴になってしまったのだろう……
そうだ、ラシが私の牢屋にパンを投げ入れてからだ!ふへへ
「ホントごめんねー。戻ろうと思ったら冬火があのスライムと楽しそうにお話ししてたから……いいかなって……と、とにかく!回復魔法膝にするね!!」
断じて誤解。
流石の私でも、あの状況下で未知の乳飲料生命体と会話楽しむ余裕無いわ。
少しもやッとしたが、ラシは私の頭をとても優しく撫でてくれ、真夏の氷スライムの如くストレスがどんどん解けていく。
そんなモンスターいるか知らないけど。
そしてラシは、私をベッドに座らせて回復魔法をかけてくれた。
私の足は、無数の眩い粒子に包まれる。
ラシの回復術は前よりも凄まじく効力があがり、一瞬で痛みが引き、腫れや変色も瞬く間に無くなった。
「はいっおしまい!」
ラシがそう言って見上げた時、ホントに故意では無く、私とラシの顔は指四本分ぐらいまで近づいた。
……
……
突然の出来事に、私達の鼓動は静まり返った部屋で、恋のオープニングの伴奏が如くリズムを取り出した。
私達は、お互い息を呑み、瞳を揺らし合う。
まるで時間が氷ついたかのように、二人共動かない。
……
ラシの甘い吐息が私の唇にかかる。
私は思わず顔を近付けた。
ラシも同じく……とろけそうな目をしながら。
二人共、おかしな程に顔が真っ赤だ。
……
……私、初めてチューするかも――
……
そして……
私達は鼻と鼻がぶつかってしまい、恥ずかしくなって、すぐさま顔を引き離した。
なんだかデジャヴのような感覚になりつつ、私はがっかりして俯くのだが……
なんと、ラシが私をギュっと抱き締めた。
私は突然の出来事に、ふざける気持ちが一切湧かず、ただ緊張しながらラシの懐に包まれていた。
するとラシは、思い切ったように、ん!と心に力を入れて、少し顔を動かした後、チュッと頬にキスしてくれた……
ラシはそのまま耳元でこう囁いた……
「冬火大好きよ、いつもありがとね」
私は、ゆでだこみたいに真っ赤になって放心状態になってしまった。
ラシはそんな私を見て、ふふっと笑っていた。
だがその目には、相当な緊張に耐えて出たであろう、恥ずかしそうな涙が残っていた。




