幽ノ坂 冬火、修行する。その2
S級冒険者達は驚愕していた――
私達四人はそれぞれ、広大な草原の上で、自由気ままに次元の違う能力を発揮していたからだ。
まずは、シュカ。
シュカは元々かなり足が速かったが、黄金の秘刀を両手に持ち、リミットが外れたような速度で草原を駆け回っている。
シュカを確認した瞬間には、もうそこにはいなく、彼女の疾風により草原の草や花が高く舞っているだけだ。まるでそれがパレードのようにずっと続いている。
それでもまだ黄金の秘刀の能力は全力で使って無いらしく、刀に纏う風属性を体に移動させ一体化すると、煌々と輝く稲妻のように野に閃を描き出す。
シュカがその勢いで木の横を通ると、まるで紙やバターのように木々が倒れてく……
それに、ゾディもかなりやばい。
ゾディは、先程、S級冒険者達に話をされてから暗い表情をしていたが、少し経ってから覚悟を固めたような顔になり、天使みたいな風浪に似つかわしくない孤高の剣士のように草原を歩いた。
その後、いつも持ち歩いてる中型の勇者剣に対し、目を閉じ二言程何か言うと、ゾディの勇者剣は瞬く間に五メートル程の、赤黒く光る暗黒属性のようなビーム大剣へと変化した。
ゾディが羽のように軽やかな体で草原を駆け、それを一振りすると、その周囲の空間が歪む程のエネルギーが発生し、地面さえもアイスクリームのように簡単に抉れている。
その剣からでる暗黒的エネルギーはメラメラと怪しく蒸発し、禍々しさの中にさえ美しさがあるようだ。
つい先日山岳地帯の入り口で見た、巨人達とさえ対等に渡り合えるような深く研ぎ澄まされた気配を感じた。
ラシに関しては、もはや私の知っているラシでは無い。
ラシが、ユグドラシルの木で出来ているというロッドを天に掲げるだけで、彼女の周囲十メートル程に光の円が現れ、その中を神聖で眩い粒子がふわふわと無数に舞うのだ。
私はあれが何か知っている、あれは、肩の傷を治して貰った時と同じ回復魔術のモノだからだ。
あの時は、私の肩にちょんちょんと数個光っているだけだったのに、今目の前に広がるのは比較する出来ない程の眩い光の海だ。
きっとあの中に入れば、体力回復どころか能力まで上昇しそうな気がする。
アンデッドに関しては、一撃レベルだろう。
ここまで進化したラシは、まだあの魔術書を読んで無いと言うのがさらに恐ろしい。
私もみんなに負けていられないなと思ったけれど、ソレイが言ってた事はちょっと難しくてどうしたらいいかな?と、草原に座り込んでいた。
まさに、瞑想みたいな感じで。
むしろ丁度良いので、なんとなく瞑想し出す私。
瞳を閉じで、暗い世界で思考する。
……
先読みって言うのはなんとなくわかった。
今までは攻撃されてから、やばい!何かしなきゃって感じだったけど、先読みって言うのは、相手が何かした時には、既に自分は何かしら行動してるって事だよね?
まぁこの辺の発想の転換はできた。
この転換のおかげで私の行動は相手より先手を取る確率が増えただろうから、今後の生存率は跳ね上がっただろう。前の世界ではゲームオタクだったから、この辺の重要性はかなり理解できる。
後は、完全防御か……
私は、暗い世界で周囲の空間をイメージする。
ラシのように、私を囲む立方体があるとイメージしよう。
その空間の中ならどの場所であっても、1秒以内に、1センチメートルも差違が無く、属性凍結が可能なレベルの絶氷を出してみるんだ。
頑張れ私。
白い焔をも通り越し、もっともっと輝く無垢な白銀じゃないとダメだぞ私。
あ、視えた。
目を閉じて視界が暗いはずなのに、思った場所に無垢な白銀が、幽霊の火の玉みたいにボッと現れた。
すごいわたし!!!
複数出現もやってみる……
ボボボボボ!!!!!
出来た!!!!!面白い!!!!!
私はいつの間にか熱中し、イメージした暗がりの空間の中に、無数の絶氷の白焔を顕現していた。
その時思った……
この空間は私が支配できると――
目を開ける……
私の周囲の草原には、暗がりで起きていたと同じ現象がそのまま起きていた。
私はみんなの方を見る。シュカもゾディもラシも、S級冒険者のみんなの所に集まり、こっちを見ていた。
ちょっと恥ずかしいな……
行かなきゃ。
「お待たせです!」
私は手を振り駆け寄った。
「冬火……君は本当に戦闘未経験なのかい?あんな緻密な操作、極致の体術師レベルだよ?」
ソレイが珍しく唖然とした顔で言った。
「そですよー、運動すら苦手だし」
私は、ぶんぶんと手を振る。
「理解できねぇ……お前等」
ドアドラは私達を見て、心底信じられないと言う表情をしている。
「理解できねぇ……」
ルヌはドアドラの真似をしてる。無表情で何考えてるか分からない。
私は、不意にルヌのツインテールが崩れているのに気づき直してあげた。
ちょっと嬉しそうに笑うルヌ。
「シュカ、あんたやばいね!!!久しぶりに人のスピード見てゾックゾクしたわ!!!」
リチェはシュカの肩に手を回し絶賛している。
お互い露出度が高く職業も似ているので姉妹みたいだ。
「今度、駆けっこでもしますか?」
シュカは、派手な黄緑の髪をかき上げ、ニヒヒと笑って目尻を下げている。
「望むところだ!」
リチェがシュカを小突いてじゃれている。
「ゾディ、よく頑張ったね。君は勇者ルビエラの能力を受け継いでいたのか……
これからはそれを誇るんだよ?隠してはいけない。それは、無数の剣士達の憧れだからね」
ゾディはアルメヒに額を撫でられ、憧れとも言われ、とても嬉しそうに下唇を噛んでご満悦状態だ。
「ああチビ、それでいいんだよ。俺は災厄の勇者ルビエラなんか認めねーが……さっきのお前は滅茶苦茶かっこよかったぜ」
ゲイドは腕を組みながらそう言った。
「やっぱりですやっぱりです!!!思った通り!!!あり得ないレベルです!!!
今だけで考えてですよ!!?しかもこれからは、もーーーっと強くなれます!!!ああすごいすごい、皆さん凄過ぎますぅ!!!ふぅ……」
ミゼリア王女は興奮し過ぎ倒れそうになり、アルメヒがそっと支えた。
私達四人は、S級冒険者達からの称賛に、満面の笑みでよしっと頷き合った。
「じゃあ次は、試練の大迷宮だな!」
ゲイドの言葉に、一同が力強く頷く。
「あれ、連携の練習は?」
私はみんなを見渡して聞く。
「実地訓練の方が早いよ?勿論事前にレクチャーはするけどね」
ソレイはまるで先生みたいだなぁと私は見つめる。
「……なにかな?」
涼し気な吸血鬼青年の瞳が一瞬揺れた。




