幽ノ坂 冬火、修行する。その1
私達はS級冒険者達と共に、いにしえの巨大都市を出てすぐにある広大な草原にいる。
以前私が、災厄の骨の飛竜を倒してから、魔王ゲドネオンの動きが止まっているらしく、今の内に試練の大迷宮を攻略しようと言う話になったのだ。
しかし、私達のいきさつを聞いたS級冒険者達は、私達はどうも力を上手く扱えて無い可能性と、連携が全く取れていない可能性を感じたらしく、この草原で修行してくれるらしい。
「ええっとですね、まずラシちゃんとシュカちゃん、あなた達には、お渡しする物があります」
そう言って、ミゼリア王女は二人に一つずつ高級そうな箱を渡した。
シュカは躊躇いも無く箱をパカっと開け、中から二本の黄金の宝刀を手に取る。
「こ、、、これは!!!骨董品店にあったやつだ!!!」
ラシはそーっと箱を開け、中から一本のロッドを取り出した。
「凄く綺麗……ん?魔術書ある……」
ロッドの先端に鮮やかなグリーンに発色する宝玉がついており、ロッド自体も素人目で分かる程に特殊な木が使われている。
そして、ロッドの横にはとても古めかしい魔術書があった。
「私達で話合った結果、単純にあなた達は潜在能力に合って無い武器を使用している事で能力に蓋をしている可能性があるとの結論に至ったのです。ですから一度これらで自分達の能力を試して見て欲しいのです。勿論、王宮からの支給品として譲渡させて頂きますので好きなように使って下さい」
ミゼリア王女が微笑んでそう言うと、シュカが取り乱したようにいきなりミゼリア王女に抱き着きだした。
「ミゼリア様!一生ついていきます!」
「お、おい。王女だぞひかえなさいよ……」
ミゼリア王女にクネクネと抱き着くシュカに、女シーフのリチェは黒髪の頭を抱えながらタジタジとなっている。
ミゼリア王女は良いのですよと、聖女のように、にこやかにシュカの頭を撫でている。
「あ、ありがとうございます!ミゼリア様」
ラシは薄ピンクのロングヘアをバサバサと何度も振り乱しお辞儀する。
「いいんですよそんな畏まらなくて。ふふっ。ラシちゃんに関しては、その魔術書もきっと為になると思うわ。宮殿の宝物庫に眠っていた物でね、正体不明の回復術師が書いたらしいんだけど、未だに誰も使えず、宝の持ち腐れ状態だったのよ」
ミゼリアは、透き通る湖のような水色の髪を耳にかけてそう言った。
この人……めちゃんこ美しい……
「すげーなお前等……それ全部合わせてたら金貨50枚じゃ足りねーぞ?さすが王女様パワーだぜぇ!」
ゲイルがすげーっ!と大袈裟なジェスチャーではしゃぐ。
恐らく、体術の使い手であろう男のはしゃぐ姿は迫力がある。
「ミゼリアなめんなっハハ。まっ、魔獣クォーデリオンの素材の刀と、ユグドラシルから作った賢者の杖だからな、金貨50枚でもまだまだ安いよ」
リチェが二つの武器を、シーフらしい眼つきで見た。
「冬火ちゃんとゾディちゃんに関しては、能力や武器に関してはもうあるはずだと思いますので、考え方や軽い知識を取り入れる事で、一気にレベルアップできると思います。それと……二人には何にも無くてごめんね」
ミゼリア王女は、申し訳無さそうに笑った。
「……考え方ですか?」
私はミゼリア王女に、はてと?と首を傾げた。
「それは私達が説明しよう。まず、ゾディからいこうか。君はギルド本部からの評判がすこぶる良いね。強敵のモンスターを一人で討伐し、尚且つ短時間でこなすからだ。しかし、他のパーティーとの合同クエストや、冬火達と討伐に行った時の話を聞くと、君は例外を除けば、常に逃げている状態であると感じるんだ……一体何故なんだ?」
アルメヒは答えを知っているような感じで、さらにはゾディに何かを言わせたいような喋り方をする。その竜のような鋭い眼差しの前では、誰もが誤魔化しができないだろう。
私も、ゾディの強さの矛盾点が前から気になっていた。
「怖いからだけです……」
消え入りそうな声を出し、俯いて小石を蹴っ飛ばすゾディ。
場に沈黙が降りる。S級冒険者達はみんなでゾディを見ている。
私は、急に庇いたくなってゾディに近寄ろうとすると、みんなは首を振った。
「隠してる……」
ルヌが、真っ白な肌にある赤い唇からボソッと言った。
あれ、髪型変わってる。
この人形のような少女は、よく見たら私のツインテールを真似しているじゃないか。いにしえの都市でツインテールなんて私以外いなかったのに……
「あぁ、隠してるな。なんで隠してるんだチビ?他人の目を気にしてんのはお前方だったんじゃねーのか?」
何の話だろう?ゲイルが問い詰めるように言った。やっぱり少し可哀そうだ。
私は、ゾディのバブさに勝手にママかお姉ちゃんの気持ちになってしまってるのかもしれない。
「……」
ゾディは私達の方を見た。私達はゾディに向かっていつも通り笑いかける。ゾディはとても嬉しそうな顔をした。
「もし、君が何か負い目を感じ能力を隠しているのなら考えてみたらいい。
君の今のパーティーはその能力を見て、笑ってきたり、嫌な事を言ってくるのか?
君は、そんなパーティーに入ったのか?
君は、やっと居場所をくれた仲間達が敵によって傷つけられる事を許せるのか?
これは昔、私が自分に言い聞かせた言葉だ……よければ使ってくれ」
アルメヒは金髪の長い髪の間から、懐かしいような瞳を覗かせゾディの事を見た。
ゾディは黙って拳を握っている……
「じゃあ、次は僕がいこうか……冬火、君は災厄の竜すら退ける魔女の力を持ってして、今、何が怖い?」
ソレイが、私を見透かすように唐突に聞いて来た。
「死ぬのが怖いかな……モンスターとかに攻撃されて」
私は率直に答えた。
そうだ、ゲームで言えば最強魔法とMPはあるのだが、HPと防御力がほぼ皆無の、紙一重のキャラなんだ。
「だと思ったよ。そこから考えるに、今君に必要なのは、バリアの魔術と先読みだ。君の絶氷の能力で、文字通り周囲の空間を支配し、なんぴとたりとも入らせないバリアをどうにかして構築するべきだ。完全防御は普通なら勇者級の存在でしか無理な芸当だが君は恐らく可能だ。礼の寄生種の極雷魔術すら凍らす、属性凍結をも持っているんだからね。常に相手の一歩先を捉え危険を予知し、支配した空間で自分を守るんだ。それが出来れば、いずれは不可避の攻撃の完成にも繋がるよ」
ソレイが至極分かりやすく言ってくれているのを、私は口が半開きで聞いていた。
「ホント理解してんのかお前?」
ドアドラが大欠伸をし、吸血種特有の鋭い犬歯を見せ、私に言ってきた。
「してますよ失敬な!後、お前じゃない、フユカチャンチャンだ!」
私はプンスカと怒る。
「じゃあ、次は実践ね!あなた達ならきっと出来るわ!」
ミゼリア王女は、はりきって私達に微笑みかけた。
私達は、並んで広大な草原を見て頷き合った。




