幽ノ坂 冬火、魔法のランプの封印を解く。
私達は、いにしえの都市の骨董品店にいた――
骨董品店で炎の化身のランプと謳われている古びた金色のランプを見てから、どうもそればかり気になって仕方ないので、とうとう買いにきたのだ。
みんなも乗り気になってくれて、お金の協力すらしてくれるらしい。
私が知る範囲では、現在全員の所持金を足すと、金貨4枚に銀貨5枚だ。
宿屋換算すれば、225泊分のお金で、4人なら2ヶ月分ぐらいの生活費だ。
そうやって考えると、私一人の欲しいと言う衝動で、銀貨5枚の消費は、やっぱり悪いなって思った。
「うわぁ!!やっぱりこれ買おうよ!!」
シュカが、風属性付与の黄金の秘刀を手に取って言った。
「ダメですよ。冬火さんに協力するってみんなで決めたじゃないですか、しかも幾らなんですかそれ?……クォーデリオンサーフ……金貨8枚!!!借金する気ですか!?」
ゾディは、シュカが店内で試し振りするのをヒヤヒヤ見ている。
「金貨8枚は高いね、でもなんか凄そう!」
ラシはロッドの捨て値コーナーを見ている。庶民的でかわいい。
「欲しいよ欲しい!冬火、伝説のモンスター討伐して買ってくれ!」
シュカは、店内でジタバタと駄々をこね出した。
「子供かよっ!てか私、たまたま二体それっぽいの倒しただけで、みんなより戦闘経験無いし、雑魚モンスターにでも不意打ちされたら死んじゃうからね?」
私は、やれやれと魔法のランプを手に取り言う。
シュカじゃないけど、このランプ鈍い輝きしててかっこいいんだよな……
「そうは思えないけどなぁ……」
シュカは私をじーっと見て首を傾げる。
「冬火さんへの近接攻撃は、なるべく私が防ぎます!」
ゾディは剣のコーナーを見ながら言った。ゾディが持っている中型の剣は、ここにあるどの剣よりもカッコいいし強そうだ。まさしく勇者の剣って感じ。
災厄の勇者ルビエラから代々受け継いでる剣らしい……
「冬火も私達と同じで怖いはずなのに、一人で一杯頑張らせてごめんね。私もっと強くなるからね!」
ラシは、捨て値コーナーからこっちを見てニコニコ笑っている。
「そうか……私達が全力で冬火を守れば、冬火は安心して魔女の力を発揮出来んのか……」
シュカが、顎に手を当て閃いたように言った。
その言葉に、まさにそれだよ!と私以外の三人が顔を見合わせた。
「みんなありがとね、気使ってくれて」
なんやかんや言って、全員私の事を心配してくれてるから嬉しい。
私は魔法のランプを、エキゾチックな顔の店主のオジサンに渡した。
「銀貨5枚でござーるっすよ」
……意外と声高いな、このオジサン。
「はいはい、5枚でござるっすね」
私はポケットから5枚の銀貨を出す。
「毎度ありーでござるっす!!ふっふーん」
エキゾチックな顔の店主は、不用品を売りさばけたと言う嬉しさが、声に滲み出ていた。
しかし、私はこの時、とんでもない事をしでかそうとしている事に、まだ気づいていなかった……
「早速、草原行って封印解こうぜ!!!実は冬火の話を聞いてから、気になって仕方なかったんだ!!」
シュカが私の手からランプを取り、もはや私よりそれに魅入っている。
「実は私もです」
ゾディも、モジモジしながらそう言った。
「私もかな……へへ」
ラシもドキドキしてランプを見てる。
「じゃーいこっか!レッツどろどろどろーーー」
私がそう言って、手を上げると三人共一緒に、手を掲げた。
いにしえの巨大都市外れ、草原――
「どうしよ……」
私は冷や汗を垂らしカチンコチンに固まっている。
「ににににげるか???」
シュカは顎がガクガクしてる。
「うううわあああこわいー」
ゾディは、パニックになり言葉にならない悲鳴を上げてる。
「だだだいじょうぶ、話せばなんとかなるよ、たぶん……」
ラシの笑顔は凍り付いている。
私達の前には、虚空に浮遊する五メートルぐらいの炎の体をした魔人がいる。
その炎は、どろどろとしたカラフルな炎で、輪廻のように生まれては色を変え、そして消えて行く、をずっと繰り返している。どう考えてもただの炎では無い、私と似た系統の属性だ。
その背後には、草原がまるで火炎の海になったかのように見える程に、数えきれない火柱が立ち上がり、それがモンスターのような形を成して、その炎の魔人にひれ伏している。
「ハーーーハッハッハ!!!我の封印を解く愉快な馬鹿者は其方等か?」
炎の魔人がそう言った。
残念ながらそうだ。
草原の真ん中で、私が例のランプに全力で極氷の魔力を込めた所、ランプが壊れてコイツが飛び出してきたのだ。
その時の衝撃派は、いにしえの巨大都市も、遠くに見る山岳地帯までも届く程の魔圧だった……
「うん……でも、やっぱランプに戻って欲しいかも……」
私は無残に壊れたランプを差し出して言う。
「フハハハハハ!!!無理な相談じゃ!!!もう我は完全に自由になったのじゃ!!!何者も、この火の星に生まれし王子、アズヴァ―ンを止める事は出来ぬ!!!でかしたぞ娘達!!!」
褒められた。
私達は、なんとなく調子を合わせて笑う。
でも、途轍もなくやばいと、全員が冷や汗を垂らしている。
「暴れたりしないよね……?」
ラシがアズヴァーンに言った。
「ん……暴れる?せぬの」
アズヴァーンは理解出来ぬと言う顔で言った。
「よかったです。皆さん安心ですね」
ゾディは胸に手を当て、ふぅと息を吐く。
「暴れるまでもないのじゃ。我以外が我に跪くのじゃからな!ハハハ!!!」
アズヴァーンは高笑いし、一層火柱を上げ、私達の上空が火炎の海と化した。
私達は顔を見合わせ、誰も何も言い出せずにいた。
「ふっ、封印を解いたご褒美はなんだよ!?」
シュカは、この期に及んでもハングリーな所が凄い。
「勿論あるぞ、あるある間違い無くある。なにせ、其方等は二度と解かれぬはずの封印を解いてくれたのじゃからな。月底の魔女ルシシと異端の勇者ゼノロピが我にかけた禁術など、未来に誰も解けるはずがなかったのじゃ……なんと不思議な事じゃ……」
アズヴァーンは私達を舐めるように見る。
私達は圧倒的な存在の前に動けずにいた。
「これから楽しくなるぞ……クク。褒美はそれで良いな?」
アズヴァーンは一人楽しそうにする。
「どう言う事!?」
私は前に踏み出し、その不穏な笑いを少し強気で問い詰めた。
「……ほう……其方か……美しい火が見えるぞ……クク。どうも何も、あらゆるツワモノがここに来よるってだけじゃ」
アズヴァーンの目が光る。
「ツワモノ……?」
ゾディが尋ねる。
「あぁ、永い眠りから覚めた者、強き血を受け継ぐ者達じゃ」
アズヴァーンは天を見上げ、楽しそうに想像を膨らませるような顔をした。
「そんな……」
私は、自分のしてしまった事に顔が真っ青になる。
「……ふふ、其方は己の熱さを知らぬのだな……愉快じゃ。おぉそうじゃ、忘れておった、目覚めたら真っ先にする事があったのじゃ、我はもう行くぞ、ではな。善き者達よ、またすぐ会おう」
そうして、アズヴァーンと彼の炎は一瞬で、何処か遠くまで飛んで行った……
私は凄く怖くなって、無意識に言葉が口から出た。
「……帰りたい」




