元カノと別れた直後に学校なんて行きたくないなぁ
2人揃ってローファーを履いてドアを開けると、20代ぐらいの凛とした美しい女性が立っていた。
黒のスーツでピシャリと整えたその女性は、手慣れた動作で流れるようにお辞儀をした。
「おはようございます、さくら様」
「篁さん、ご無沙汰しています」
篁さんは有栖家に仕える使用人さんで、しろちゃんの側近を任されている。わたしにとってもしろちゃんと友達になったころからずっと面識がある気のいいお姉さんみたいな人だ。
「篁、今日はさーちゃんと一緒に歩いて登校するから」
「承知しました、お嬢様」
お嬢様というと、縦長の高級車に乗って登校するイメージがあるだろうけど(実際、しろちゃんもプライベートではそうしてる)。わたしと一緒に登校するときは、並んで同じペースで一緒に歩いてくれる。こういう周りに合わせてくれるところも友達として好きだ。
「さくら様がご一緒なら、私の同行は不要ですね」
篁さんはクールにほほ笑んだ。
「じゃあ行きましょう、さーちゃん」
「ちょっ、しろちゃん? 近い近い……」
しろちゃんはわたしの腕をぐいっとつかんで、まるでカップルみたいに腕組みしてきた。柔らかい胸がわたしの二の腕にむぎゅっと当たる。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
篁さんに見送られてわたし達は並んで学校に向かった。しろちゃんは校門の前までずっと腕を組んできて、鼻歌を口ずさんだりと道中ずっと機嫌がよかった。
学校に到着してしばらくすると、しばらくして蒼依が登校してきた。
「おはよ……百合嶋」
蒼依に苗字で呼ばれても、無機質で機械的で、全然温もりを感じなかった。蒼依はもうわたしのことを下の名前では呼んでくれないのだろうか。そう思うと余計に悲しくなる。
「おはよう、森薗さん」
わたしはその寂しさに反抗するように、空元気で笑って見せた。蒼依はわたしを一瞥すると自席にカバンをかけて座るなり、頬杖をついて窓の外を眺めている。
退屈そうに遠くの空を見ている蒼依のカオを、思わず食い入るように見つめてしまう。付き合ってる時からそうだったけど、どうしても蒼依の唇にいつも視線が向かってしまう。蒼依の唇から目が離せない。
そうだ、わたしは蒼依と……。友達同士のじゃれ合いなんかでは絶対にやらない、ガチのキスだってしたんだ。
普段の口数の少ないあの唇は、思っていたよりずっときめ細やかで柔らかかった。初めて蒼依とキスしたときのあの感触が、今でも脳裏に焼き付いて頭から離れない。頭の中でこれまで何度もしてきた蒼依とのキスがもんもんと蘇ってくる。
「なに? 私の顔に何かついてる?」
「いえ、なにも!」
蒼依を凝視していると本人から睨まれた。こわっ。
朝っぱらからヘンな気分になってきたところでタイミングよく予鈴が鳴り、教室が慌ただしくなってきた。いけない、気持ちを勉強に切り替えなきゃ。
そんな感じで、元カノと別れた直後の朝は新学期早々最悪の気分だった。




