わたしもいい加減ムカついてきたから言いたいこと言うね。ギスギスが需要ないとか、そんなこと知ったもんか!
蒼依が指名した『ムカつくやつ』はまさかのわたしだった。
え、わたし? ここでわたしを攻撃するの!? 蒼依の攻撃対象、紅羽じゃなくてわたしだったわ!
明らかに紅羽に攻撃する流れだったのに、わたしはいつのまにか被弾した。放課後にいつでもできるじゃん。ここで闘る意味ある?
「最近あたしが話しかけてるのに、あたしのことずっと無視してさ。なんなの一体?」
そっか。最近わたしが蒼依を避けてたから、こうでもしないとまともに話せないって思ったのか。
「昔からそうだよね、嫌なことがあると立ち向かうんじゃなくて逃げる。自分のことになると途端に弱気になって、問題そのものから目を逸らす」
「ちょちょちょ、え? 攻撃すんのそっち?」
女優さんも明らかに困惑している様子だった。他の参加者については言うまでもない。
「学校でギャル達から陰口言われてたときもそう。嫌なら嫌って言えってあたしは言ったのに、結局全部泣き寝入り。見ててイライラする……!」
「泣き寝入りなんかじゃ……。あれは別に相手にしなかっただけで。っていうかそんなプライベートな話こんなところでしないでよ」
ああ、これ演技じゃなくて本気でわたしに怒りをぶつけてるのかな。他の人達とか撮影とか、しろちゃんからの依頼とかお構いなしで。蒼依の目に宿る怒りの炎がハッキリと見えた。だったらわたしだって。
「そっちこそ意味わかんないよ! 急に歌聴けってライブハウス呼んで!」
「あの〜なんか2人っきりの世界に入っちゃってるカンジ?」
「「関係ない人は黙ってて!!」」
「あ、ハイ……」
女優さんが間に入ってきたけど、そんなことわたし達には関係なかった。
「あ、あんたが奥手すぎるからでしょ? もしかして、あれでわからなかったの?」
「わかるわけないじゃん! わたしに音楽の感性なんかないんだから。森薗さんっていっつもそう!」
「ちょっと……さくら」
紅羽がわたしの袖を引いて宥める。だけどわたしもだんだんムカムカしてきたから、それでは止まらなかった。なんだか泣きそうになりながら、わたしは言葉で蒼依に畳み掛けていく。
「なんなの一体!? この間まではあんなに冷たかったくせに! 紅羽が出てきた途端、急に心変わりしたみたいに!」
「!! それは……」
「一方的に語って勝手に突っ走って自己満足して、ほんと強引! 歌だけでわかるわけないじゃん、ちゃんと言葉で伝えてよ!!」
そう叫んだあと、蒼依の驚いた顔を見てわたしはハッとした。
そうだ、言葉にしないと伝わらないんだ。蒼依の気持ちも、わたしの気持ちだって。わたしは蒼依を責めたけど、じゃあわたしは? ちゃんと言葉にして自分の気持ちを蒼依に伝えられてた?
「はいはい、ちょっとスト〜ップ!」
紅羽が間に入ってくれたおかげで、ヒートアップしてたわたし達2人はクールダウンできた。他の人たちを見ると案の定全員ポカンとしていた。まぁ無理もないか。
「さくら、落ち着いた?」
「ごめんなさい、もう大丈夫です……」
紅羽は苦笑いしていた。『わたしに任せて!』って助けに来たはずなのに紅羽に助けられるなんて本末転倒すぎて笑えない。蒼依はこほんと咳払いして場を仕切り直した。
「それで告白の件なんですけど、全員ごめんなさい。あたし好きな人がいるので」
蒼依の選択はまさかの全員拒否。蒼依が死刑宣告した瞬間、男性陣全員が膝から崩れ落ちた。この結末に例の女優さんはついに直接怒り出した。
「ねぇあんたらこの場を荒らして一体何しに来たの? とくにそこのギター弾いてたアンタ」
「何って、ご飯食べに来たんだけど?」
「タダ飯食いに来たのかよ……」
わたしと同じ反応するなぁこの女優さん。
「あんたらのせいで意中の相手にフラれるし、私がこれまで時間かけて仕込んでいたプランも駆け引きも全部台無しに……」
「ふ〜ん、あんたそんなふうに打算的に恋やってるんだ。ダッサ」
「……なんですって?」
蒼依は突然相手を挑発しだして険悪な空気を作ったけど、カメラは止まらなかった。制作側もリアリティを求めてるというのは、撮影開始前にプロデューサーさんから説明された通り。だからわたしにも驚きはない。
「好きな人が心変わりしたって、そんなの関係ないでしょ。相手のせいにばっかりしてさ、あんたは相手のこと考えてコミュニケーション取ろうとしたの?」
「それは……」
木陰で見学しているしろちゃんも真剣な眼差しで蒼依を見ていた。
「恋って本当に好きな人とするから楽しいし幸せになれるのに。お金がどうとか、自分のステータスが上がるからとか、そんなくだらない目的で恋するなんて馬鹿げてる」
まさにそういう恋愛をする番組の中心で場違いなことをいう滅茶苦茶なわたしの元カノ。そんな蒼依に共感したわたしも援護射撃するように追随した。
「そうですよ。フラれたからって、だからなんなんですか? 相手を大切に想うことそのものに価値があるんじゃないんですか? その純粋な気持ちが尊いんじゃないんですか?」
どういう状況だよコレ。元恋人同士が同じ場に居合わせて恋愛観語り合うとか、新手の拷問かな?
「自分が傷つかないように小賢しく立ち回って、それってあなたの想いなんですか? あなたが相手に伝えてるのって、ただの脳内の計算結果なんじゃないですか」
「!!」
女優さんはハッとしたようにわたしを見た。何が真実の愛かもわからない、15歳のわたしなんかにこんなこと言う資格なんてない。こんなの、ただのわたしの我儘な自己満だ。大勢の人の前で醜態を晒して自論をぶちまけてスッキリしたいだけなのに。
「気づいたら好きになってて、相手のことしか考えられなくなるのが本当の恋じゃないんですか? 駆け引きとか、相手を出し抜くとか、そんなことして楽しいんですか。1人の女の子をまるでいない存在みたいに扱ってまでしたい恋ってなんなんですか……」
打算だらけのリアリティショーでこんなことを言うの、我ながら本当にアホだと思う。今わたしが叫んでいることは紅羽の目的と矛盾することだ。それに、わたしは紅羽のやっていることを否定したくない。それでも、紅羽が彼氏と別れた出来事や両親の離別で恋に対して縮こまってしまわないようにしたかった。紅羽にはこれから先、きっと素敵な人が見つかるから。わたしと蒼依みたいに失敗しないでほしかった。
「傷つくのはわたしだって怖いけど……。それでも、自分から一歩踏み出さなきゃ」
今大事なのは、紅羽のこの仕事を成功させること。少しでも紅羽の役に立てたらと思ってわたしはチグハグな言葉を紡いだ。
「あはは……わたしごときが何言ってるんだって話なんですけど。以上、誰かのことじゃなくてわたしのことでした」
「お〜〜」
数秒後、ぱちぱちぱちと拍手が起こる。あれ、なんかめっちゃハズいこと言ってないかなわたし。周りの参加者達は引き攣った苦笑いをしながら、あくまで表面上はわたしに賛同してくれているようだった。
「その正論、あたしとのときに実行してほしかったんだけど……」
蒼依がボソッと呟いた。『聞こえてるんですけど元カノさん、あなたのそういう余計な一言がですね』と言いたくなったけど我慢した。
その場が静まったあと、蒼依がトドメの追撃を放った。
「で、あんたはこんなふうに相手と本気でぶつかったの?」
「は?」
女優さんの額に血管が浮き出ている。
「してないよね? これでわかったでしょ、あんたが言葉足らずの自己満女だってこと」
ほら〜! 人の地雷簡単に踏みに行くところがさぁ〜! 蒼依ってほんと、ホントあんたって相変わらずノンデリっていうか! 言葉足らずなのはわたし達も割とブーメランなんだけどね。自覚あるのかな蒼依さん?
「自分さえいい思いができればそれでいいなんて、そんなの偽物の関係だよ」
蒼依は後悔と切なさが混じったようなカオでトドメの一言を放った。
「……今のは本気でカチンときたわ」
それ以来険悪な空気を出していた女優さんは黙ってしまった。
「せいぜい後悔することね」
その女優は呪うように何かを呟いてから、憎むような視線で蒼依をじっと見つめていた。
1つ気になったのは、わたしがその目に既視感があったこと。なんだろう、いつも近くで見ているような。まるで他人事とは思えないような目だった。
そうしてお互いに必死に恋愛観を語ったあと、わたしと蒼依の視線が交差した。2人とも悪役みたいな顔で笑いながらがっちりとハイタッチを交わした。
なんかいいカンジに成し遂げた! みたいに誤魔化してるけど、最悪の悲劇が始まるのはむしろここからだった。




