最後の撮影、ヒーローはいつも遅れてやってくるらしい
迎えた3回目の撮影当日の朝。わたしは私服にポシェットだけ身につけた軽装で現場入りした。
もうここまで来たらノリと勢いだ! とわたしは開き直っていた。紅羽なら絶対やってくれるはず、そう信じて。
「なんだか今日のさーちゃん、吹っ切れたいい目をしてるわね」
撮影現場近くを歩いていると、木陰に白い日傘をさしたお嬢様が立っているのが見えた。
「しろちゃん!? どうしてここにいるの」
「どこにいたってわたくしの勝手でしょう?」
「家主の許可なしに他人ん家に不法侵入するのはどうかと思うけどね!」
撮影現場に顔見知りがいるとちょっとだけリラックスできるのが嬉しかった。
「ではそんなさーちゃんにわたくしからも差し入れをあげましょうか」
「なに? お菓子か何かくれるの?」
「知ってる? 有栖グループには芸能プロダクションもあるのよ?」
「へ?」
どんなプレゼントだろうと期待していたら、しろちゃんは日傘をくるくる回しながら撮影スタッフが群がっている遠くを指差した。
「いやーすごい美人さんですねぇ。どこかで女優とかやってるでしょ? それともモデル?」
「いえ、素人ですけど」
しろちゃんに指をさされたほうをみると、よく見慣れた黒髪ロングの美少女がいるのがわかった。周りの人達よりオーラがあって明らかに目立っている。
「あ、蒼依!?」
なんで蒼依がここに? そう困惑していると、プロデューサーがニコニコしながらこっちにやってきた。
「いやー有栖さん、すごい人を紹介してくれてありがとうございます」
「でしょう? こちらも探すのに苦労したんですよ」
「ところで有栖さんも物凄い美人なので、もしよかったらぜひ……」
「申し訳ありません、わたくしカメラと日光が苦手で……。木陰で見学させていただきますわ」
「そうですか、わかりました〜!」
しろちゃんは外面の笑顔で手を振ってプロデューサーを退けた。
「なんで蒼依を呼んだの?」
「そっちのほうが面白い展開になると思って」
こ、こいつ……。有栖の力を使えばこんなこと簡単よ、と言わんばかりに。本当に余計なことばっかりして、もう! この幼馴染、ほんとにわたしの邪魔ばっかりするなぁ!?
「蒼依を使って邪魔しにきたってこと?」
「ここからはさーちゃんが考えることよ」
ぐぬぬぬ。ただでさえ紅羽の状況は良くないのに、それに加えてしろちゃんの邪魔が入るってこと? そんなの余計にこの仕事の成功率が下がるじゃん。どうしたらいいのかなと頭を悩ませていると、あり得ないはずのアイデアが脳裏に浮かんだ。
わたしには芸能界のことなんて全然わからないし、皆みたいに可愛いわけでもない。それでも、いやだからこそ。わたしが紅羽のために一肌脱がないと。ここで役に立たなくてどうするの! かくなる上は。まだ近くで他のスタッフと話しているプロデューサーの後ろ姿に向かって、わたしは高らかに宣言した。
「あの、プロデューサーさん! わたしも撮影に参加していいですか!?」
「なっ……」
「ええ!?」
しろちゃんも周りのスタッフも驚いていたが、プロデューサーはニヤリと笑って『OK!』と言ってくれた。
「いいんですかプロデューサー、素人の子を撮影に入れちゃって」
「いいのいいの。アイドルの子のいい起爆剤になってくれそうだし」
そんな軽いノリでわたしの飛び入り参加は許可された。3回目の撮影で追加登場したメンバーのなかで女子はわたしと蒼依の2人。プロデューサーによると2回目の撮影で抜けたメンバーの穴が予想以上に大きかったので、急遽追加で人手が欲しかったとのこと。つまりは紅羽の元カレを追い出したわたしの自業自得ってことか!
「さくら、これって一体……」
わたしが撮影に出ると知った途端、紅羽は困惑した表情でわたしの元へ駆け寄った。
「紅羽、今のままじゃダメだよ。このままじゃ前と同じ結果になっちゃう」
わたしは紅羽の肩を掴んで、不安そうな瞳を真っ直ぐ見た。
「ならどうすれば……」
「わたしは紅羽を助けたくてここにきたの。わたしに任せて!」
こんな頼りない援軍だけど、それでもやるしかないんだ。わたしにできることを全力でやるんだ!
「ありがとう、さくら」
こうして恋愛リアリティショー第3ラウンド、最後の撮影がいよいよ幕を開けるのだった。さぁなんとかしろ、わたし!




