もしかしてシル●ニアファミリーと花一匁を馬鹿にしてるんですか?
回想終わり。あれから事務所に戻ったわたし達は、雨宿りしながらガールズトークに花を咲かせていた。といってもわたしが蒼依との馴れ初めを朝比奈さんに語っていただけなんだけど。これって羞恥プレイなのかな?
「何で急に話してくれるようになったの?」
「少しはリアリティショーの役に立つかなぁって思って。あと蒼依って無愛想でクールに見えるけど本当はすごく優しいんだってこと、分かってほしくて」
スマホの写真アプリを眺めていると、ライブラリには蒼依との写真が未練がましく大量に残っていた。今になっても何一つ消せていない。
「付き合ってるときだっていつもすごく大事にしてもらいました」
秘め事の一部を誰かに話したからか、なんだかスッキリした気持ちになった。
「いいなぁ、さくらちゃんと森薗さんが羨ましい。私はそんなキラキラ恋愛なんてしたことないから」
朝比奈さんはうっとりとした表情で笑った。
「私もいつかさくらちゃん達みたいな恋がしてみたいなぁ」
「朝比奈さんだったら絶対いい恋人見つけられますよ」
「ありがと。だといいけどなぁ」
「朝比奈さんだったら余裕ですよ。ダメダメなわたしなんかと違って」
「そんな、さくらちゃんはダメなんかじゃ……」
「今みたいに、逃げちゃいけないことからずっと逃げてきたんです」
「さくらちゃんが逃げた? 何から?」
「武術から逃げたんです。子どもの頃から毎日地獄みたいな稽古やらされてきて嫌になっちゃって」
「あっ……」
朝比奈さんは反射的に自身の口元を手で押さえた。
「わたしは武術の才能があっても好きなわけじゃなかった。学校の子達と同じように、かわいいお洋服着てみんなでおままごとしたり、シル●ニアファミリーで遊びたかったんです」
「最後だけすごい具体的な気がするんだけど」
「あと花一匁もやりたかったです」
「……」
「だんだん稽古をサボるようになって実家に居づらくなって、家族からも逃げて一人暮らしを始めました。でも、結局お母さん達に甘えてるだけ」
生活費だって親に折半してもらってるんだから、自立なんて全くできてない。側から見れば、我儘な子どもが親に甘えて嫌なことから逃げているだけ。なにより、蒼依とのことだって。
「だからこんなにすごい朝比奈さんとわたしなんかじゃ釣り合わないんです。今こうやって付き人やってるのすらおかしいんですよ」
朝比奈さんだけじゃない。しろちゃんはあんな名家に生まれたのに、その重責に押し潰されずに頑張ってる。まこちゃんは勉強がすごくできるし、陽ちゃんはムードメーカーだし。蒼依だってわたしと出会う前からずっと音楽に真剣に向き合ってる。……きっと別れた後だって。本当にみんな、わたしなんかには勿体無いぐらいすごい友人達だ。
ダメダメ、これ以上話すとどんどん陰気なムードになってしまう。わたしは流れを断ち切るように顔をぱんっと叩いた。
「というわけなので、わたしの話はこれでおしまいです」
「えーーっ!」
「言っておきますけど、別れた理由については絶対話さないですからね。あれは墓まで持っていくって決めてるので。これ以上詮索したら怒りますから」
そう、あれだけは他の誰も知る必要はない。この世界でわたしと蒼依だけが知っていれば、それでいいのだから。
「もっとさくらちゃんと恋バナしたい〜〜」
「『片想いラプソディ』のメンバーと好きなだけやってください」
「やだよ〜〜! っていうか私達そんなにプライベートで仲良くないし〜〜」
「ファンが聞きたくないような話題を突然ぶち込んでこないでくださいよ……」
わたし達が話している間に、あれだけ強くなっていた窓の外の雨はいつの間にか随分と弱まっていた。




